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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪あや


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わんこ系後輩とリンクチェーン(2/2)


しかし、と僕はアベルが消えていった廊下の先に視線を向ける。


「アベルは利発的で良い子なんだけど、まさか設定にない僕とまでリンクチェーンが発生するとはね」


僕に対して重い感情なんて抱きようもないし、単に懐かれただけとは思うけれど。そもそもアベルは正統派王子様キャラだ、少々王族らしい傲慢さはあるけれど、束縛やヤンデレとは無縁の精神構造をしている。はずだ。


「……はっ、まさかカインとアベルで禁断の兄弟愛ルートが!?」

「ないない、ないよそれは絶対にない。というか時任タイキの作品で同性愛ルートなんて僕にはちょっと想像できないなぁ」


リリスシリーズ全編を通してもそんな描写はなかった。ないからこそ、その反動で同性愛的な二次創作は盛んだったが。二次創作はあくまで二次創作だ、本筋には何の影響も与えることはない。


「あー……確かに今まで距離感の狂った友情はあったけど、匂わせでもリリス公式で同性愛って見たことないね。私もリリスシリーズでは想像できないかも。多分時任タイキがそれ系に全然興味ないんだね」

「ないだろうねえ。今回のアベルも本当にただ懐いてるって感じだったし」

「可愛かったね」

「だね。僕もこれがリリスワールドじゃなかったら可愛い後輩ができて素直に喜んでたよ」

「憧れ拗らせてカイン限定でヤンデレたりして」

「洒落にならない発言はやめて」


マリアが言うと本当にそんな展開が生まれそうで怖い。なんせ彼女は時任タイキ本人より時任タイキを理解していそうな頭をしてる子だ。僕の知る設定や考察なんて飛び越えて実現するかもしれない。

それに同性愛はないにしろ、憧れや友情を変な方向に拗らせる展開自体は普通にあり得そうだ。

しかし、この世界での同性愛か。


「ああ、でも」


ふと自分に熱を向ける顔を思い出した。


「この世界のノアはバイセクシャルだね」


すっかり忘れていたが、僕は何度か彼に求婚されていた。勿論断ってるけど。

初めて告白された時、設定になかった彼の性的指向にちょっと驚いたのをよく覚えている。


「えっそうなの?」

「そうだよ、さすがにそれ専用のルートとかはないと思うけど。本人も公言して隠してないし、好みで言うと男も女も割と守備範囲は広めみたいだね。僕の知ってる限りでは」


隣国にいた頃も男女問わずそこそこの頻度で誰かしら侍らせていた記憶がある。

恋人と呼ぶにはノアの熱を感じなかったから、諜報活動の一環か体だけの関係だったのかもしれないが、彼の交友関係にまで深入りしなかった僕には判断できない。というか言い寄られている身としては、そういった話題に深入りするのはあまりにも藪蛇だろう。

……本当にルートとかないよな。勘弁してほしい。


「それも同人誌情報?」

「いや、ノアとは僕が七歳の頃からの付き合いなんだけど、これは彼の友人として知ってる情報だよ」

「なるほどー……ん。んん?」

「え、その微妙な反応は何」

「えと。カインは、その、まだ貞操の方は無事なんだよ、ね?」

「……え。……は? いや待ってマリアそれは発想が飛躍してない!?」


急に何を言い出すんだこの子は。あとまだって何だまだって。


「だって何か妙に詳しかったし、守備範囲も広いって言ってたし、普通に考えて七歳の子供を友達認定する大人とか怪しいし。それに小さいカインって可愛かっただろうなって思ったら急に不安に……」


突飛なことを言い出すのかと思いきや、マリアの口からは結構な正論が飛んできた。そうだよな、七歳児を友達にする大人は確かに怪しいよな。と、妙な納得をしそうになる。だが僕とノアの名誉のためにもここは否定しておかなければ。


「いやいやいや。ノアの守備範囲が広いと言っても常識の範囲内の話で、合意なく誰彼構わず襲いかかるようなケダモノじゃないし、彼に小児性愛の気もないよ。ノアを友達って言い始めたのも僕からだから。まぁ、誘い方がスマートだからナンパの勝率は高いみたいだけどね。そしてこれは大事なことだけど、僕は女の子が好きな人だから何度迫られてもノアとはマッチングしないよ。わかった?」

「それってつまり何度か迫られはしたってこと?」

「…………」

「あ、あぁー……聞いちゃ駄目な感じだった?」


墓穴だ。言わなきゃ良かった。ここで一度だけ密室で壁ドンされて迫られた事がある、冗談だとしても結婚しよう嫁にしたいと日常的に言われてた過去がある。なんてマリアに素直に言ったら、僕は何か大切なものを失う気がする。こう、男としてのプライド的な。あとノアは社会的に死ぬ。

何より向こうから壁ドンしておきながら「いくら中身が好みでもやっぱ見た目が子供だと守備範囲外だわー」とか言われた八歳だった頃の僕の微妙過ぎる気持ちは永久封印したい。特にこっちは好きでも何でもないのにまるで僕が振られたかのような、あの謎の屈辱感を思い出してしまう。

できればそんな謎エピソードは墓場まで持っていきたい。


「僕は。ノアとは。これまでも。これからも。マッチングしません。オーケイ?」

「あ、うん、なんか、ごめんね?」


頼むから何も悟らないで欲しい。本当に。

補足すると、ノアとしては今の僕なら外見年齢的に守備範囲にギリ入るらしいけど、どちらかと言うと友人でいた方が居心地が良さそうだからこのままでいる……らしい。それに関しては僕も強引に迫られずに済むのでそれで構わなかった。

友人として居心地が良いのは僕だって同じだ。このままでいる限り僕もノアを手放すつもりはない。彼とは色恋沙汰には発展しない、というだけだ。

ノアにしてもアベルにしても、僕やマリアのバッドエンドに近い人物ではあるものの、本人たちはいたって善良だ。知り合ってしまった以上は人として避けたくはないし、できる事なら良好な関係を継続させたい。


「あ、ところで週末にジュードと一緒に街で遊びたいから、私やカインも一緒にどうかってアベルから誘われてるんだけど、一緒に行かない?」

「マリアは僕以上にフラグ回避する気ないよね」


ノアの話題から離れてくれるのはありがたいけれども。

そして僕が想定していた以上にマリアとアベルの仲が気安いものになっている気がする。

数歩先から振り返って僕の返事を待つマリアに、ふっと小さく息が漏れた。彼女は来るかもしれない不幸の回避よりも今掴める幸福を大事にする、そんな子なのだろう。それは僕にはできない生き方で、だからこそ少し羨ましい。


「一緒に行くよ。せっかくのお誘いを断るのも勿体ないからね」


縁をつないでしまったからには下手に逃げ回るよりは親睦を深めておきたい。それは敵対を避けたいという打算も勿論あるけれど、ゲーム設定ではないリアルの彼らを知っておきたい、仲良くしてみたいという僕自身の願望も、間違いなく含まれていそうだった。



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