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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪あや


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わんこ系後輩とリンクチェーン(1/2)


年度初めの課外授業も終わりようやくひと息つける、と思っていた時期が僕にもありました。ほんの一瞬だけ。まだ課外授業を終えたのは昨日の事だというのに、どうしてこうも突発イベントが発生するのか。

昼休み、僕は昼食を終えたマリアと二人で廊下を歩いていた。窓から射す春の陽射しは暖かくていいなあなんてのんきに思っていた時、どこからか遠くから自分に呼び掛けてくる声がした。その声を何度も背中に受けながら、軽く眉間を押さえる。

いや、決して悪意のある状況ではない。ないのだが。

せんぱーい、と次第に聞き覚えのある声が近付いてくるのを感じて、観念して振り向いた。初夏の太陽もかくやという眩しい少年の笑顔、その視線の先にいるのは僕とマリアだけだ。つまりあれか。話しかけられてるのは僕か。僕だな。知ってた。

チラリと視線だけ横を向けば、マリアは「多分私の事じゃないよ。カイン、認識されちゃってるね」と苦笑した。でしょうね、とついつい渋い顔になってしまう。


「こんにちは先輩!」

「やあ、昨日ぶりだね。こんにちは」

「はい、昨日はありがとうございました!」


廊下の先から大きく手を振りながら走ってきたのは、昨日衝突しただけの縁で終わるはずだったアベルだった。寄ってくる彼の姿にうっすらと尻尾をブンブン振るイメージを見てしまう。まるで人懐っこい子犬だ。僕は単に彼との関係性を知っているから緊張してしまうのであって、アベル自身が迷惑なわけではない。むしろ彼はかわいい後輩だ。


「先輩のアドバイスのおかげで昨日の課外授業はバッチリでした! 結構いいところまで行けましたよ」

「それは良かった、食事の話くらいしかしなかった気もするけど、それが役立ったなら何よりだ」


まずい。

反射的に笑顔で対応してしまったけれど、このままでは懐かれる予感しかない。あまり関わる気はなかったのに今後ともよろしく、な空気を全身に感じる。とは言え邪険にしてもそれはそれで危険な予感しかしない。それにアベル自身には何の罪もなく、ただただ素直ないい子なのだ。どうするべきか。

そんな事を考えていると、アベルは今度はマリアに向かって頭を下げた。


「マリア先輩もこんにちは!」

「こんにちは。アベルも課外授業、頑張ってたんだね」


マリアも笑顔だけど少し困っているのが見て取れた。それはそうだ、彼女は幼少期にアベルとリンクチェーンが発生してしまっている。ある意味では僕よりも危険度は高い。そして僕としても本気で切実にマリアとアベルのルートはやめて欲しい。今のところそんな要素はないけど僕だって闇堕ちはしたくない。

そこまで考えてからふと疑問が浮かんだ。どうしてアベルはマリアの名前を知っていたのだろう。僕の知る過去エピソードでは二人は出会ってはいたものの、互いに名前も素性も知らなかったはずだ。今度マリアに詳細を聞いておいた方が良いだろうか。

そう軽く首を傾げていると、アベルの視線が再びこちらへと戻ってきた。


「そういえば先輩は昨日ヨハンとも試合してましたよね、見てましたが凄かったです。あ、僕はアベルって言います!」

「うん、よく知ってるよ。君はこの国の王子様で、どうやったって有名人だからね。僕はカイン=アンダーソンだ、よろしくアベル」

「はい、よろしくお願いします! 先輩達は敬語も無しで呼び捨てにしてくれるのですごく嬉しいです、教室のみんなはどうしても畏まってしまうので堅苦しくて」


言ってアベルは嬉しそうにはにかむ。

僕としては本当ならよろしくしたら駄目なわけだが、もうこれは逃げられる段階にない気がする。縁は繋がれた。彼からはもう完全に僕達に懐こうとしている気配がする。それならせめて穏便に彼との関係を築くしかない。幸いアベルはいい子だ、設定やシナリオを思い返しても悪堕ちとかも特にしない。僕が好意的に接している限りは仲良くやれるだろう。


「ところでカイン先輩」

「うん?」

「ヨハンとの試合を見ていて気付きましたが、もしかしてカイン先輩って昨年の課外授業で全試合を一撃必殺で勝ち抜いた上に、突如乱入した戦闘狂の先輩達まで倒したっていうあの伝説のカイン先輩ですか?」

「伝説って何。でも、あー……うん、多分そのカインだね」


スタミナ切れでへとへとになりながらもバーサクした先輩達をなぎ倒した一年前の記憶がよみがえる。正直言ってあまり思い出したくない地獄なのだが。そして何故当時いなかった下級生にまで話が伝わっているのか。しかもどことなく語り継がれそうな言い回しで。安い伝説もあったものだ。

というか、やっぱりあの先輩達は戦闘狂って認識でいいんだ……伝聞として聞いてもやっぱり意味がわからないな、戦闘狂の先輩達。何だったんだろう、あれ。

そうしてどこか遠い目になってしまう僕に気付くことなく、アベルは瞳を輝かせて僕の手を両手でぎゅっと握る。


「凄いです、憧れます! 今度その時のお話を詳しく聞かせてください!」

「う、うん、今度ね」


ぐいぐい押されて若干引きながら返答すると、アベルは嬉しそうにうんうんと何度も頷いた。こうしていると本当に子犬か何かみたいだな。


「アベル殿下、そろそろ行かないと先輩の迷惑になりますよ」

「あっ、そうですねすみません。ではまた会いましょう、カイン先輩、マリア先輩!」


声をかけてきた同級生と思しき少年に手を引かれて、アベルはぶんぶんと手を大きく振りながら去っていった。そして。


じゃらり。


どこかで聞いた音が再び脳裏に響き渡った。ステータス画面を呼び出してみると、やはりというかなんというか。


『リンクチェーン レベル3 アベル=スチュアート』


しっかりアベルとの縁が結ばれたみたいだった。


「僕にもアベルとリンクチェーンって発生するんだ……」

「私、ほとんど何もしてないのに……」


マリアとリンクした時ほどの数値ではなかったが、初手レベル3も中々えぐい。

横でマリアも渋い顔をしているのを見るに、彼女もきっと同程度までレベルが上がったのだろう。


「懐かれちゃったねぇ」

「懐かれちゃったなぁ」


顔を見合わせてから、何だか急にそれがおかしくなって笑い合った。笑い事では全然ないはずなのに、マリアと一緒だとそれが妙に深刻ではないような錯覚に陥る。

境遇がわかりあえるから、だろうか。少なくとも一人だったらもっと事態を深刻にとらえていたはずだ。


「そういえば、マリアは名前を知られてたみたいだけど、アベルと最近交流があったの?」

「うん、アベルとジュードが同じクラスで、なんだか気が合って仲良くなっちゃったみたい。ジュードって地元じゃ友達いなかったんだけど、読書仲間ができたって嬉しそうだったから止めなかったんだ。アベルの方は私が昔会ったことのある子供だって気付いてないみたいだけど……まずかったかな?」

「大丈夫なんじゃないかな。さすがにジュードの交友関係にまで口を出すのは僕には憚れるよ。同年代の友達は大事にした方がいいしね」


読書が趣味だというジュードと、城からあまり出ずに育ったからこそ冒険譚に憧れを強く抱いているアベルはきっと相性が良い。どちらも友達を作ってこなかった子達だから、仲良くなれるのならそれに越したことはないだろう。


「カインってフラグ回避に専念してるようで、意外とそうでもないよね」

「そう?」

「うん。フラグより個人を尊重してる感じがして、私は好印象だよ」

「ありがとう。フラグを軽視してるつもりはないけど、それはそれとして人生は生きたいように生きるものだからね。そこになるべく制限はかけたくないかな」


それに、僕なんかが他人の人生に口出しをするのはどう考えても烏滸がましい。人の生き方や感情を無理に捻じ曲げても、きっと良い結果にならない気がするんだ。

現に僕だって、死なないように細心の注意を払っているつもりだけど、なんだかんだここまで好き勝手して生きている。それでリンクチェーンが発生してしまったのは誤算だけど、発生してしまったものは仕方ないと受け入れるしかない。今は純粋にアベルという弟であり後輩でもある子から好感を持たれたことを喜んでおこう。



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