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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪 あや


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転生先は人気ゲームの前日譚(4/4)



母さんに命懸けで王城から逃がされた僕は、紆余曲折、流れ流れて森の小さな孤児院で幼い日々を過ごした。

その中で何度か僕に放たれたらしい追手の存在も確認したけれど、今はまだシナリオ展開通りに何とかやり過ごしている。

ここまで完全にゲームの筋書き通りだったのは気に入らないが、僕には未だシナリオを逸脱するほどの力はない。

今はやり過ごして、その時が来たら全力を出せるようになるための下地作りだと自分自身に言い聞かせてひたすら耐えた。

まず、ひとりで歩き回れるようになった時点で自分のステータスの成長傾向を分析して、自主練という形で地味だが着実にレベルを上げるところから始めることにした。

ただ敵から経験値をもらうようなゲームと少し違い、この世界では通常のレベルアップとは別に、鍛えた体の部位ごとに対応したパラメータにも個別に少量の経験値が入る。

走り込みでは体力や速度、素振りでは攻撃や技量といった具合だ。

前世ではインドア派だったけど、運動自体はそこまで嫌いではなかった。

それに加えて数字で確実に見て取れる成長はまさにゲーム的で、これはモチベーション維持に大いに役立っていた。

孤児院での生活の傍らで、こうして僕は地道に必要と感じた技能を重点的に伸ばしていた。

生き延びるため、今後は誰かの犠牲がなくても良いように。

速度、技量、魔力、そして運。

リリスシリーズの戦闘を思い出しつつ、僕はメインで伸ばす技能をこの四つに絞り込んだ。

今後、王宮からの諜報員や刺客をやり過ごすのに、これらは必須だという判断からだった。

現状、戦闘に使うような攻撃や耐久は二の次だ、いくら育てても子供では大人に敵わない。

今の自分が使える武器は、攻撃ではない。

そっと、自分の左目に手を添える。


「オッドアイで魔眼持ちとか、ちょっと中二病っぽい属性だよな……」


自分で言いながら、少しだけ恥ずかしくなる。

僕の生来の瞳は金色だが、左目は魔力が一定値を超えた頃から、紫を帯びた黒色へと変化した。

これは魔眼の覚醒の影響だ。

あくまでも設定上こうなってしまうのであって、僕は中二病じゃない。

ともかく。

肉体的に未熟な今の僕が確実に武器にできるのはこの魔眼だけだ。

カインの魔眼は『隷属の魔眼』と呼ばれる、相手の精神と肉体の操作に特化したもの。

今はこれが生命線といっても過言ではない。

設定上、騎士職適性の成長傾向にあるカインは、放置していてもレベルさえ上がれば、筋力に対応する技能数値も勝手に上がっていく。

だが魔法の習得や魔眼に必要な魔力値はどうしても鍛錬とレベルアップボーナスで振り分けるしかない。

なので今は魔力を伸ばすのが最優先だ。


(そもそも魔眼が無いと諸々の偽装工作すらできないからな)


魔眼を覚醒させた後の僕はそれをフル活用して『僕が孤児院に引き取られたのは、まだ王城でカインが生まれる前の夏だった』と大人たちに思い込ませていた。

後に調査にやって来た追手らしき大人には、彼らの探す『カイン』の条件に合う子供などここにいない、という調査結果を持ち帰らせた。

ダメ押しで、深夜に孤児院に忍び込んで来た諜報員と思しき人間にも、同じように不審な点を何ひとつ記憶させず穏便に帰らせた。

完全に魔眼頼りだ。

だがこれは万能の能力ではない。

この魔眼は効果こそ強力だが、相手と目を合わせないと発動ができない。

これまでの工作は、全て速度依存の奇襲と魔眼によるもの。

速度と魔力が無ければ今の僕には何もできやしない。

当然だが、僕は未だ無力なままの幼い子供だ。


「でも、鍛錬だけじゃなくて、そろそろこの先も考えないと」


このままではいけない。

今のままここに居ては遠からずゲームの『カイン』と似たような展開に巻き込まれるだけだ。

変えなければ。

自分だけではなく根本的に、環境から。

全て『カイン』とは別の人生を歩まねばならない。

そう決意を固め、後に僕は孤児院から遠く離れた町の領主、アンダーソン子爵夫妻の養子に入る事で完全に『エディン・プリクエル』のシナリオには無い人生を踏み出した。

長かった。とても。

母親との別離に無力感を抱いてからここに至るまで、実に五年の月日が流れていた。


こうして、ようやく『カイン』とは違う僕、カインとしての物語が幕を開けたのだった。




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