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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪あや


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ノアの依頼(3/4)


予定より少し多めの三十株ほどを採取して、僕達は雪原を後にした。

復路を半分ほど過ぎた頃だろうか。突如、ぞわりと妙な違和感が肌を撫でていくのを感じた。それはマリアとノアも感じていたようで、困惑と警戒を交えた視線を周囲に向けていた。

そして。

轟音が辺り一帯に響き渡った。

空気がビリビリと振動する程のそれが咆哮だと気付いたのは数秒後。


「何かいるね。魔獣?」

「多分な、本当に間が悪い」


馬を止めて警戒してると、前方から渦巻く黒い靄と共に巨大な影が出現した。

馬に乗った僕達よりも更に大きな影。複数の長い首をひとつのどす黒い体に持つ大蛇。


「カースド・スワンプヒュドラ……!」


アナライズをかける直前にマリアが青褪めた顔で呟いた。

カースドと名のつく魔獣は土地の魔力を浴び過ぎて変質した特殊個体、ゲーム設定的にはサブシナリオのボス的な立ち位置の敵だ。

スワンプヒュドラのような爬虫類に近い魔獣はこの時期冬眠する筈だが、カースド系はこの定義が当てはまらない。おそらくこの湿地帯の何処かにある沼地の主が魔力で変質してしまったのだろう。


「カースドモンスターか……今の僕達の装備じゃちょっと厳しいな」

「俺はアレをちょっと、なんて言えるお前の度胸が怖いよ。かなりヤバいぞアレ」

「わかってる。ところでノア、アレを迂回するのは難しい?」

「無理。さすがに進行方向を塞がれちゃな……っていうか俺達もう捕捉されてるぞ」

「やっぱりそうか……」

「街まで逃げ切れたとしても、追って来られたりしたら大損害だ。できれば仕留めちまいたいが……カイン、できそうか?」


ヒュドラから視線を逸らさないままノアは腰の剣に手をかける。

僕も一応護身用に帯剣はしているものの、僕達のこれは魔獣との戦闘を想定した装備ではない。そして僕にはもうひとつ不安要素がある。


「やれるだけやってはみるけど。僕、中型より大きな魔獣とはやり合った事ないからね」


大型の敵との戦闘経験が壊滅的に浅かった。

僕の住む地域の森に出る魔獣は大型のものは稀で、大きくても熊や虎サイズだった。ヒュドラのようなドラゴン級のサイズは初めてだ。上手く立ち回れるかは、やってみないとわからない。

『隷属の魔眼』が効けばまた違うのだろうが、残念ながらこれが効くのは発した命令が理解できる程度には知能の高い相手に限られる。


「いやお前、中型魔獣とやり合ってるのも初耳だからな」


ひとまずノアのツッコミに付き合う余裕は無いから流す。

腕の中にいるマリアが「中型って経験値の効率いいもんね」と呟いてるけどそれも流す。だけどその通りだよマリア。実際、僕は経験値稼ぎのために中型を狩っていたのだから。


「まぁ、その年齢で魔獣戦闘が初めてじゃないなら上出来だよ。俺が引きつけるからカインはひとつずつ確実に首を落としていってくれ」

「了解」

「待って二人とも!」


馬から降りようとした僕達をマリアが引き留めた。


「普通のスワンプヒュドラと違ってカースド・スワンプヒュドラは再生速度が速いの、その方法だと落としきる前に再生しちゃうかも!」

「ゲッ、マジか……」

「だから、先に尻尾の膨らんでるところを切り落として。そこに魔力を溜めてるから、無くなれば再生やブレスを使ってこなくなるはずだよ」

「ありがとうマリア助かる……! 君は馬の上で待ってて、君の視力じゃ戦闘は危険だからね」

「うん、なるべく離れてるけど、範囲攻撃が多い敵だからカイン達も気を付けてね」

「わかった」


馬を降りる僕にマリアは「弱点は光と雷属性、風も効きやすいけど水と土は吸収するよ。尻尾を潰す前だと五ターン間隔で毒ブレスを使ってくると思うから気を付けてね」と加えた。

頼もしすぎる。人間攻略本かな?

しかし毒か……ブレスを使われる前に尻尾は落とすつもりだけど、ステ振りの時に毒耐性くらいは取っておけばよかったな、と軽く後悔する。

今更そんな事考えたところで遅いけど。


「ノアは魔法は使えるの?」

「雷と闇が少しだけな」

「じゃあ余力があるなら雷を使って。マリアが言うには他より効果的みたいだから」

「え。実はマリアちゃんってかなり有能じゃない?」

「僕もそう思う」


こと現行のリリスシリーズ知識が通用する事柄に関して言えば最強の知識チートを持ってると言っても過言じゃない。

……ここまで設定・シナリオ面での知識チートでやってきた僕の立場がそろそろ危ういかもしれない。

なんて、そんな事を考える余裕はヒュドラに近付くごとになくなっていく。

ゆっくり、相手を刺激しないように距離を詰めてはいるが、サイズの違いから先制を取られるのは確実だった。


「ノアは右から回って。ヒュドラがそっちを向いたら僕は左から尻尾を狙うよ」

「了解、それじゃ初共闘だな!」


言ってノアは右に駆け出す。

そのノアの言葉に、言われてみればノアと共闘なんてしたことがなかったな、と気づかされた。こんなに付き合いが長いのにな、と妙な感慨と共にヒュドラの背後に回り込む。

硬そうな鱗に覆われた尻尾、その膨らみは通常の剣戟ではダメージが入るようには見えない。だが。


「属性剣ならその限りじゃないだろ……!」


頼むから効いてくれ、と祈りつつ、構えた剣に光属性の魔法を纏わせる。そして力一杯それを振り下ろした。

ざくり、と確かに刃の通った感触が手に伝わった、けど。


「浅い……っ」


力みすぎて少し狙いを外してしまった斬撃は、ヒュドラの尻尾の半分ほどしか切れていなかった。

とは言え、斬られれば痛いのは当然で、ヒュドラは怒りの咆哮を上げて振り返ろうとする。


「ごめんノア、もうちょっとだけ引き付けてて!」

「結構無茶言うよなお前!」


そう言いながらもノアはこちらに視線を向けようとしたヒュドラの頭に雷撃をぶつけた。その隙にヒュドラの死角に入りつつもう一度剣に魔法を纏わせる。

一度斬ったら再チャージが必要とか面倒にも程があるぞ、属性剣。

誰だよ、属性剣は消費MPの割に威力が高いから一ターン間隔で付与が必要な調整にしよう、とか言った奴は!

ひゅん、と音を立てて薙いで来る尻尾を躱すと、今度こそ光を纏わせた剣でそれを切り落とした。


「尻尾落としたよ、そっち援護す……ぐっ」


ノアに呼びかけようとしたその時、予期せぬ横からの強い衝撃に吹き飛ばされた。雪に覆われた木の幹に盛大に衝突して、何かが砕ける音と共に一瞬息が詰まる。


「カイン!」

「けほ……大丈夫、ちょっと油断しただけだから!」


見れば切り落とした尻尾が自律して僕を狙っていた。そういえばそんな設定あったな、当時も思ったけどこれじゃ蛇じゃなくてトカゲだよ。なんて器用な。

痛むわき腹を庇いつつ、体重を乗せた剣で勢いよく貫き地面に縫い留めると、尻尾はジタバタと数回暴れた後に動きを止めた。

それを確認すると、ズルズルとその場に座り込んで戦況を確認する。

再生とブレスのないヒュドラなら、ノアの敏捷があればそう苦戦するものじゃないだろう。とはいえ、ここは雪の積もる街道で足場は悪い。僕みたいに一撃を食らったら一気に形勢が逆転してしまうだろう。


「出し惜しみとか、してる場合じゃないか」


小さく呟いてから、僕はヒュドラに向けて手をかざした。

息を吸い込むたびに強く痛む体を庇うように前のめりに丸まって、意識をヒュドラに集中させる。

発動するのは水魔法。マリアは水ダメージを吸収してしまうと言っていたけれど、それは攻撃魔法に限ったことだろう。

ぎゅっと手を握ると、僕は魔法の発生場所を指定する。

途端、ヒュドラはびくりと体を震わせてもがき始めた。


「な、なんだ急に……」

「ノア、今のうちに首を落として!」

「あ、ああ」


多少困惑しつつも、ノアは手持ちの剣であっさりとヒュドラの首を落とした。

どしゃりと落ちた首から大量の水が溢れ出す。

その後も次々と水の詰まった首を落として行き、最後の首が落ちると共にヒュドラの胴体も崩れるように地に落ちた。


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