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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪 あや


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ノアの依頼(1/4)


エターナ国、北西部にある商業都市リュステラ。学園都市よりも北にあるそこへ続く道を、ガタゴトと音を立てて揺れながら馬車が走っていた。

最北の国境でもある山脈を間近に臨むそこは、自然豊かでありながら活気のある、商人達の興した街だ。

多くの有名商会の本部が軒を連ね、訪れれば見つからないものはない、などと言われるほど物に溢れた街……らしいのだが、あいにく南西部のアンダーソン領出身である僕は訪れた事がない。

この街は『エディン・プリクエル』でも名前しか登場しないため、僕が知っているのはこの世界における一般常識に留まっている。

そんな、おおよそ学生である僕達には無縁に思える街へ今、僕とマリアは向かっていた。


「マリア、寒くない? それに疲れてたりしない?」

「大丈夫だよ、ありがとう。カインこそ私の分までずっと魔法を使ってるんだから疲れたんじゃないの?」

「全然。これくらいなら普段の鍛錬と同じだよ。ずっと魔法を使ってれば多少は魔力にも経験値が入るから一石二鳥だしね」


馬車の座席から数センチ分の厚みで、僕は風魔法を応用した空気のクッションを作っている。現状、僕が魔法を使えると明かしたのはマリアとジュードだけなので、これは馬車の中にいるのが僕達だけだからこそ使える小技だった。

学園都市からリュステラまでは馬車で二日半。その間、揺れる馬車の硬い座席に座っているのは、少なくとも日本の自動車や電車を知ってしまっている僕達には苦行だろう事は容易に予想できた。

このクッションのおかげで旅そのものは快適だ。


「それにしても、ノアさんからの頼まれ事ってどんなことなの?」


マリアが首を傾げながら聞いてくる。

『ちょっと頼みたい事があるから、長期休暇のどこかで実家のあるリュステラまで来てほしい。馬車と宿はこっちで手配するし、観光がてらマリアちゃんを誘うのも良いんじゃないか』

そうノアから誘われて、僕達は今こうして馬車に揺られている。

季節は冬。長期休暇、つまるところは冬休みだ。


「一応、リュステラ周辺の湿地でこの時期にだけ採れる植物を一緒に探してほしい、珍しいものだから中々見つからないけど、僕の魔眼を使って探索すれば簡単だろうから頼みたい。っていうのがノアの主張だけど、実際はどうなんだろうね」


どうにも真意は別にあるように感じたものの、ノアから悪意がないのは見て取れたし、以前、談話室を強引に利用した時の借りがあるから了承したけれど、彼の目的は謎のままだ。


「案外、カインに実家に遊びに来てほしいだけかも」

「だとしたらもっと素直に誘うんじゃないかな」

「でも、私まで誘ってるってことは深刻な要件じゃないよね」

「それは……そうだね」


全く警戒していないかと問われれば即答できないけど、こんなかたちでノアが僕達を嵌めたりする性格じゃない事くらいはわかる。

悪ふざけに巻き込もうとしてる、とかならあり得るけれど。

途中、宿場町の宿に泊まったりしつつ、馬車はのんびりとリュステラ市内へと入っていった。

中心街を抜けて、住宅街も通り過ぎて、馬車は雪の積もる小高い丘の上に建つ大きな屋敷の方へ。


「……まさか実家ってアレなのか」

「うちの屋敷と張り合えちゃいそう」


今日は快晴だからか、マリアにも遠方にある屋敷がよく見えているみたいだ。あれだけ大きければ、多少見えにくくても余裕で視認できるのだろう。

ノアは身分としては一応平民で、商家はそれなりに大きい設定だったはずだけど。

馬車の窓から遠くに見える、真っ白な雪の積もる丘に建つ屋敷。どう考えても子爵家のアンダーソン邸より大きい。それなりどころじゃない。爵位と資産は関係ない、というのをまざまざと見せつけられた気分だ。

歴史ある家なのか、遠くから見ても分かるほどに重厚な雰囲気を醸し出している。

じっとそれを眺めていたマリアはポツリと呟く。


「雪の積もる冬の日、街から離れた場所にある洋館。知人からの突然の誘いでやって来た私達は夜、突然の吹雪で外界から孤立してしまい……」

「殺人事件が起きそうな導入はやめようか」

「時任タイキの世界で洋館ミステリかぁ」


な……なんてことを言うんだこの子は。

うっとりとした目で屋敷を見るのはやめてほしい。そのミステリ、生存率が低そうなのが本気で嫌だ。

大体これから自分達が向かう屋敷に対してよくそんな妄想ができるなと感心してしまう。


「マリアって本当、メンタル強いよね」

「だって仮に怖い事が起きても、ここが時任タイキの世界だって思ったら夢みたいな気分になれるもん。毎日すっごく楽しいよ」


その発言で実感した。

……どんなホラーより洋館ミステリより、僕は彼女のことが一番怖いかもしれない。と。


「カイン、マリアちゃん、よく来たな!」


屋敷の門をくぐり、馬車が玄関前で止まるとほぼ同時に玄関からノアが飛び出してきた。

この大豪邸に似合わない挨拶のフランクっぷりは平民だからなのかノアだからか。後方で使用人らしき男性が呆れたように眉間に皺を寄せたのが見えたので、おそらく後者なのだろう。

マリアの手を取って馬車を降りると、こちらは一応貴族なのでそれなりに失礼に当たらないよう軽くお辞儀をする。ノアに礼を尽くすというよりは、アンダーソン家に泥を塗る態度をとりたくない。

流石に伯爵令嬢だけあって、マリアも綺麗な姿勢で一礼した。

そんな僕達の様子をノアは不思議そうに見ている。いや、この態度でノアは本当に諜報員として貴族や王族の前に立てているのか。それとも自宅だから気が緩んでるだけで仕事モードに入ればちゃんとしてるのか。


「なんか、お前がちゃんと貴族っぽいと気持ち悪いな……」


なんて激しく失礼な発言をしつつ、ノアは僕達を応接間へと案内する。

一見すると貴族の邸宅ほど豪奢できらびやかな装飾のない応接間は、しかしその家具からさりげない調度品まで上質で、下手な貴族よりも余程お金をかけていることが窺えるものだった。

花瓶に活けられた花も、この国では自生していない珍しいものだ。

『コードウェル商会』

国内外で精力的に活動する大商会、それがノアの実家の正体だった。

『エディン・プリクエル』では影も形もないそれは、この世界では知らない者はいないほどの規模のもので。ノアがそこの息子だと知った時にはさすがの僕も驚いた。

そんな富豪の家で育ちながらも、何故ノアは若くから諜報員などという本業で活動しているのか。設定された以上の事を知らない僕にはわからなかった。

チラリ、と対面に座るノアの様子を盗み見る。

お茶を出されている間、彼はずっと後ろに控えていた使用人に小言を言われていた。まぁ、それはそうだろう。気の置けない友人とは言え、家の馬車で迎えまで出した客人を玄関先からあのテンションで迎えるのは体面上どうかと思うし、どう考えても使用人に向かって不服そうにむくれてるノアの方がおかしい。自分の年齢を考えてくれ。

マリアはマリアでそんなノアの様子を楽しそうに眺めていた。いやそれ、どういう感情?

一通りお茶のセッティングが終わり、使用人が席を外すと僕達も肩の力を抜いた。


「本日はお招きいただきどうも。ノアはもう少し外聞ってものを気にしてくれないかな」

「別に家にいる時くらい良いだろ、堅苦しいことは言いっこなしだ」


目の前にいる僕とマリアはあくまでも客人で、自宅でくつろいでるのはノアだけだ。という所まで気が回っている様子はない。

ノアさんって結構子供っぽいんですねと悪気ゼロのマリアに言われて、ようやくノアは姿勢を正した。さすがに年下の女の子に言われたのは気になるらしい。


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