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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪 あや


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異世界転生は意外と身近に?(2/4)



他のクラスメイト達からの視線が集中しているのを感じつつ、今はそれどころではないのでマリアの手を引いて中央棟の一階へ。そのまま真っ直ぐに購買へと向かった。


「ノア、ちょっと奥の談話室借りるよ!」

「は、え、奥って。お前急に何言って」

「あるよね。談話室。そのカーテンの裏に。入り口」

「いやあるけどさお前なんで……」

「大事な内緒話なんだ。ちょっとだけだから使わせて。ノア。お願い」


言葉を遮って畳みかけるようにお願いする。きっとノアとしては意味が分からないし、聞き出したい事しかないだろうけど、それでも今は話ができる部屋を借りたい。


「うっ……う、うーん。まぁいいか、でもなるべく手短にな?」

「ありがとう、後で絶対何かお礼するから」


言って、そのままマリアを連れて購買スペースの奥に設置されたカーテンをくぐる。

カーテンの内側にあるバックヤードの、更に奥にある扉を開いて、中へ。


「わぁ、購買の裏にこんな部屋があったんだ……」


魔力灯で明るく照らされた室内は学園内でも異質な程に豪華なつくりで、まるで王城の一室のようだった。

置かれた調度品も、学園にはそぐわないほどに上質だ。


「マリア」


部屋の鍵を掛ける。ここは鍵と防音結界が連動している特別な部屋で、実際に王族が使うこともある秘密の談話室だ。

ここなら、何を話しても誰にも聞かれない。だから。


「ごめんなさいマリア!」

「え、あ、はい??」

「僕は今までずっと君のことを一人の人間というより、ヒロイン……ゲームキャラクターとして見てました。本当にごめん!」


全力で、土下座した。

前世を含めてすら初めての、床に頭を擦り付けるような土下座をした。


「僕は君を人間扱いしてなかったかもしれないと、ついさっき自覚しました。ごめんなさい」


目の前の女の子に今まで自分がしてきた対応は、完全に二次元の推しを想定したもので、つまり無機物に対するような、一定のラインで人格を無視した愛玩行為だった。と思う。

たとえマリア本人に身に覚えがないとしても、それが申し訳なくて、恥ずかしくて、消えてしまいたいくらいだった。

これはもう完全に僕の自己満足だけど、それでも謝罪しなければ気が済みそうにない。

画面の向こうのアイドルを生で見た、なんて気分で浮かれていた事を本気で後悔した。

これまでを省みて、今の今まで自分はこの世界のキャラクター達を、いかに人として見ていなかったかがよくわかった。

思い返せばノアとも最初は『面倒見が良くお人好しなノア』を基準に接することで仲良くなったし、マリアに至っては完全に『ヒロインとしてのマリア』しか見ていなかった。

現実の人間だと思ってしまえば失礼だと思えるような言動の数々が頭をよぎる。

穴があったら、入りたい、できればそのまま埋めて欲しい。


「あの、それはいいんだけど、まず謝るような事なの?」

「なんかもう、申し訳なくて」


同じ境遇の、いやむしろ彼女の方が苦労してきただろう事を思うと、今までの無神経な自分を殴りたい気持ちになる。


「後日改めて正式に謝罪させてください……」

「いやいや、いらないよ全然気にしてないから謝らないでよ。え、えーと。つまりカインも私と同じで、日本で生きてきた記憶を持ってこの世界に生まれてきた人……って事だよね?」

「……はい。前世はしがない成人男性でした」

「そっか、だから他の子より大人びてたんだね。じゃあ、私をキャラクターとして見てたって事は、ここがリリスワールドだって事も?」

「理解してマス……って、え? リリスワールドとわかるって事はマリアもリリスに詳しいの?」


驚いて顔を上げると、何故か少し照れくさそうにマリアは頷いた。

だけど『エディン・プリクエル』は設定資料集と時任タイキのインタビュー、そして一部の本にのみ語られる作品。現実にはリリースされていないゲームだ。それを知っているのは発売中止前のゲーム制作に関わっていた人間や、ファンブック……もとい資料集を読み込んでいるようなディープなファンくらいのはずで。それはつまり彼女も。


「うん、私は時任タイキのファンだからね」

「……え」


ファン?

シナリオライター・時任タイキの?


「それに、まずステータスが表示された瞬間に『毎日見てる画面だ!』ってびっくりしたし、食材やアイテムとか通貨も完全にリリス作品と同じ名前と物価だったから。国や言語は本編と違うけど『リリスの匣庭』成立以前の世界なら納得できるかなって。それに私自身も視力が悪くて名前がマリアだったから『資料集の目が死んでるヒロインちゃんだ!』ってすぐわかったの。つまりここは前日譚……エディン・プリクエルの世界だよ!」


胸を張って得意気にマリアがそう言い切る。これ以上ないくらい堂々と言い切った。すごいな。


「え、うん、たぶんそう。僕の外見も主人公のそれだし」

「えへへ、やっぱりそうだよね。設定画そのままの見た目だもんね」


嬉しそうにマリアが笑う。

うん。とんでもない子に出会ってしまったかもしれないな。

まず何年も前に出た、オンラインでもない据え置きゲームのステータス画面を毎日見ている時点でかなりヤバいし、アイテムの物価や通貨も普通はゲームごとにいちいち覚えてないし、自分の視力が悪いからって設定資料集にしかいないハイライトのない目をしたマリアの立ち絵を即座に連想できるのも普通じゃない。

いったいどんな確率の事故が起きたら未発表ゲームの設定に詳しい人間が二人も転生されるって言うんだ。

しかも、この子……


「君は時任タイキのファンなの? リリスシリーズのじゃなくて?」

「そうだよ。でもまぁ時任タイキは私の知る限りリリス関連しか書いてないから、実質リリスファンって言っても良いのかな……いや、でもやっぱり時任タイキファンってことで!」


大好きなんだー、と照れ顔で言う彼女に呆気にとられてしまう。

物好きだな、と言うのはさすがに失礼なので心に留めておく。


「それはともかく、土下座のためだけにここに来たの?」

「まぁ、半分くらいは。それに前世とかゲームとか、あまり目立つ場所でしたい話題じゃなかったからさ」


ここが隠し部屋扱いという事と防音設備について説明すると、マリアは呆けたような顔ですごいね、とだけ口にした。


「ノアから手短にとも言われてるし、今日は話しやすい事だけで詳しい話は改めて。できれば何回かに分けて情報交換ができる機会が欲しいんだけど、どうかな?」

「うん、私も話がしたい。リリスシリーズの世界だからっていうのもあるけど、一人で考察して安全なルートを模索するのも、正直ちょっと不安だったんだ」


話せる人がいるって嬉しいね、と言ってマリアはホッとした表情になる。

気持ちはわかる、なんて安易には言えなかったけど、時任タイキのバッドエンドまみれな作風を思えば、これ以上ない程不安だっただろうことは容易に想像できる。


「それと、少し質問してもいい……ですか?」

「いいけど、初対面の時も言ったけど敬語とか要らないよ。前世はともかく今は同級生だからね」


今まで通りでお願い、と言うとマリアもほっとした様子で肩の力を抜いた。


「理由は分からないけど、カインは私よりこの世界に詳しいよね?」

「どうしてそう思うの?」

「この部屋の事もそうだけど、設定資料集に載ってなかった事、たくさん知ってたから」

「あぁ、確かにね」


購買のバックヤードから繋がる談話室には王城への隠し通路がある。普段は封印されているけれど、有事の際には王族の人間だけが解呪できる。

これは資料集には無い情報だ。

そもそも設定資料集に載っている情報なんて、制作時に没になってしまった背景画とイメージボード、あとは主人公二人の名前や立ち絵といくつかのキーワードくらいだ。

シナリオもシステムも、主要キャラクターの名前や顔すらも資料集には存在しない。ノアやヨハンが重要ポジションにいることだって普通なら知ることのできない情報だ。


「マリアは、時任タイキが過去に同人誌を出していた事は知ってる?」

「ネットの情報としては聞いたことはあるよ。確かデビューするより前の話だよね」


マリアの言葉に首肯で返す。

そう。シナリオライターとして『リリスの箱庭』を発表する以前の時任タイキは、オリジナルの同人誌を何冊か頒布していた同人作家だった。

当時の時任タイキは完全に無名で、頒布していた本も三十部程度だったと記憶している。彼の本を所持している人間はほんの僅かだ。


「その時任タイキの同人誌に、この『エディン・プリクエル』のベースとなった設定やストーリー原案が数多く載っていた。って言ったら信じる?」

「え、じゃあカインは」

「うん。僕は同人時代の時任タイキの本を所持していたんだ。内容も大体記憶してるよ」


もちろん内容を全部とはいかないし、曖昧になってしまった記憶もあるけど、概ね設定は頭の中に残っていた。だからこそ、僕はここまでシナリオを無視して立ち回ってこれた。一種のズルだ。


「知識チートってやつだぁ」

「マリアにもちゃんと先の展開は教えるよ、どのバッドエンドも迎えてほしくはないからね」


僕の言葉にマリアは一瞬真顔になって、そして少しおかしそうに笑った。


「やっぱりバッドエンドだらけの世界だったんだ」



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