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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪 あや


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転生先は人気ゲームの前日譚(2/4)



『リリスの匣庭』

それは日本在住のシナリオライター・時任タイキがシナリオを手掛けたロールプレイングゲームだ。

当時、無名の若きシナリオライターであった彼が一躍有名になったデビュー作にして代表作。

それは美しく懐かしさを感じさせる王道ファンタジー的な世界観と、そこで紡がれる華やかでいて意外性のある展開が特徴のゲームだった。

そして特筆すべきは正統派なストーリーと思わせておいての、一度考察の蓋を開ければ見え隠れするダークな設定と、美しくも退廃的なマルチエンディングの数々。

それが当時の若者に絶大なまでにウケた。

ゲームが人気になったのは美麗なイラストや独特の音楽、ゲームシステムは勿論だが、この時任タイキが紡ぐキャラクター描写とシナリオの存在が大きい。と言われていた。


(もっとも、時任タイキは鬱ゲー量産機という評価も多かったけれど)


そんな時任タイキが自由に思い描き、愛が行き過ぎた結果先行して設定資料集まで出していたにも関わらず、完成間近という時期になって会社都合の制作中止が決まった幻の前日譚。それが『エディン・プリクエル』だ。

その、シナリオライター本人の頭の中にしか正解がないはずのゲームの完成形ともいえる世界が今、眼前に広がっていた。


(設定に詳しい人間なんてほとんどいない世界。ここに僕が生まれたのは不幸中の幸い、と考えてもいいのだろうか)


これは果たして必然なのだろうか。

リリスシリーズのゲームを網羅している僕はこの未発表ゲームの設定に誰よりも詳しかった。

かつての時任タイキが語った設定や資料集の内容を記憶から引きずり出しながら、僕は自分のベースでもある『カイン』の生涯を思い出す。

企画段階で『エディン・プリクエル』の仮題がつけられたそれは、発売していれば、選択した主人公の性別によって全く異なるシナリオが展開されるゲーム。

そして『カイン』は男主人公のキャラクター名だった。

作中での『カイン』は隠された王家の落胤。この国、エターナの王が使用人に手を出して孕ませた子供だった。

後に生まれた正統な血筋の王子を脅かす可能性から命を狙われ続け、だが本人はその出自も狙われる理由も知らないまま育つ悲運の子。

そして展開次第では、いずれ王家に牙を剥く復讐者。


(それは、現時点で出自の自覚がある僕の選択肢には無い行動だけど)


僕は自分が寝かされている部屋が設定資料集に載っていた王城の一室だと一目でわかったし、そもそも生まれたばかりのカインとその母親がこれから辿る悲しい運命も知っている。


(それにしても、本当にゲーム世界への転生なんてあり得るのか。それとも死に際の走馬燈のように、僕は変な幻覚でも見ているのか?)


首を傾げる。

自分には前世で死ぬ瞬間の記憶からここまでの意識がほぼシームレスに存在していた。

痛み、息苦しさ、遠のく意識。

それらの記憶があまりにも鮮明なため余計に今生きているという実感が薄く、転生を理解したつもりになっていても、やはりどこか信じ難い。

だが夢にしては赤子としての不自由さはリアルで、あまりにも異質だった。

本当に、僕は。


「ぁえ、ぅー」


……。

えーと。

一応、もう少し転生という事態に疑念と抵抗の意志を見せようとしたつもりだったけれど。

言葉を発しようとして出た情けない声は、紛れもなく自分がただの赤子であるという証拠だった。

言語すら扱えない無力感は現状を嫌というほど表している。

もうこれは考えても仕方ない。どうあがいても今の僕は新生児だ。

非力だ。

無力だ。

なるようにしかならない。

なるようになれ。

そう悟った後は、もう開き直るのも早かった。

数日を過ごし、泣く事と寝る以外に何もできないのなら記憶の整理をして時間を有効活用してやろう、と居直りにも近い気持ちで僕は赤子の自分を受け入れていた。


(僕がいるここがゲームがベースとなった世界なのは疑いようがない。流石に似ているだけの異世界、ではないのだろう)


現状、僕は無力だったが、普通の赤子にはできない事がひとつだけあった。

軽く深呼吸をしながら自分の内側に意識を集中させる。

と。

次の瞬間、眼前に一枚の石板が浮き上がった。

呼び出した僕以外には認識できないらしいその石板には、びっしりと文字が刻まれている。

記されたのは名前や年齢、そしてレベルや各種パラメータの数値と言った所謂ゲームの『ステータス画面』に相当するものだ。

その数値は全体的に首もすわっていない新生児としては異常な高さで、とりわけ『精神』と『知力』そして『器用』に関しては大人の平均値すら凌駕するものだ。これはおそらく前世の影響だろう。

前世からの僕の実年齢や経験、この世界に対する知識量を思えば納得のいく範囲だ。

だが。

その中でひとつだけ、真の意味で異常な数値の技能があった。


()()()()()()()


ゲームクリア時点でのレベル最大値が5のはずの魔眼が、未覚醒の新生児時点で3は、ちょっと意味が分からない。

これはゲーム中盤くらいまで育ってる状態だ。

魔力の数値さえクリアできれば、今からでも魔眼を覚醒させて効率的に行使できるレベルだった。


(魔眼を保有している自覚があるから、それがレベルに反映されている? それとも僕が転生した事でカインとしての能力にバグでも起きたのか?)


今は何もわからない。魔眼については覚醒してしまえば便利な能力だし、おいおい考えるとしよう。


(それにしても。なんというか、このステータス画面は、表示がゲーム的すぎて現実感が薄れるな)


数値を確認しながら、心の中で語る相手もいない無駄なツッコミを入れる。

空中に浮かぶ自分にしか見えないARステータス画面、もうそれだけでゲーム世界以外の何物でもない。

何か唱えるわけでもなく念じるだけで表示できるのは、喋れない赤子である僕にとっては好都合だったが。

しかし、と眉間に皺を寄せる。

二十を超えて細分化され、その組み合わせで能力に変化をもたらす無駄にややこしいパラメータ値。

これは僕にとって親の顔より見たもので。


(見間違えるはずがない。これは『リリス』シリーズ共通のステータス画面だ)


代表作の『リリスの匣庭』

続編『七つの宝石と虹の瞳』

スピンオフ作品『籠の中のリリス』

そして前日譚『エディン・プリクエル』


作品ごとに細部こそ違えど、シリーズの全てにこのステータス画面が採用されている。

それは名前と部屋の風景以外でここがリリスワールドであると、嫌でも確信させられる光景だった。



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