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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪 あや


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放課後デートは青春の味(4/4)



「カイン大丈夫? 顔引き攣ってるよ」

「あはは。ちょっとあの人が怖かったから、かな」

「あぁ、ヨハンさんが来てからずっと緊張してたもんね」

「うん。それにあの人、笑顔なのに僕を見る目が全然笑ってなかったんだ……」

「普段はいい人なんだけど。ヨハンさんは何故か私に対して過剰に優しいというか、過保護な時があるから。私、別にそんな籠の鳥みたいなキャラじゃないのに」


嫌ではないんだけどね、と困ったような表情でマリアは手元に残った最後のフルーツを口に放り込む。

そしておもむろに立ち上がると、座ったままの僕を笑顔で見下ろした。


「ところでカインは私の視力の事、気付いてたんだね」

「まぁね。君が自分から言うつもりがなければ、あえて触れるつもりはなかったよ」


隠してたならごめん、と謝るとマリアは首を横に振る。


「隠してたわけじゃないよ。あんまり見えないって言うと、色々と偏見があったり遠慮しちゃう人とかいるでしょ。そういうのがちょっと寂しいだけ。でもカインはそういうところ、バランス感覚が絶妙だし本当に紳士的だよね。完璧すぎるというか、カインには弱みとかないのかな」

「過大評価だよ。弱みのひとつやふたつ、僕にだってあるさ。握って面白いような弱みでもないけどね」


言って、くしゃりと丸めた包み紙を屋台の脇にあるくずかごへ入れると、マリアに手を差し伸べる。


「さて、そろそろ行こうか。今からお土産を買って帰れば、家につく頃にはまだ外も明るい時間だよ」


荷物も持つよと言えば、マリアは私お姫様じゃないよと言ってまた笑った。

洋服一式とヨハンおすすめの店で買った焼き菓子を抱えて、マリアは上機嫌で僕の隣を歩く。

お姫様ではないとは言っていたが、やはり『お嬢様』的な属性の彼女は、こういった貴族らしからぬ日常に憧れていたりするものなのだろうか。

ゲームでのカインとマリアの役割は『主人公』だ。

境遇や周囲の設定は多く作られているが、本人の人格面はどうしても他のキャラクターよりも薄味だった。

そのイメージが頭に残っているからか、この世界でのマリアはそれまで僕の抱いていた彼女の印象を、かなり良い意味で壊している。

少なくとも彼女は設定にあるような幸薄い美少女には、見えなかった。

普通の、ごく普通の少女だ。

そんなマリアに今後降りかかるかもしれない災厄から、彼女を守りたかった。

それは僕……カインにとってのバッドエンドを避ける目的も勿論あるけれど。


「後悔は、増やしたくないもんな……」

「カイン?」

「うん。なんでもないよ。気にしないで」


目の前で起きる悲劇を防げないなんて、もうたくさんだ。

誰かの幸せが無残に壊される瞬間は、もう二度と見たくはなかった。

だから守る。彼女を時任タイキのバッドエンドから。

改めてそう決意してマリアの方に視線を向けると、彼女はじっとこちらを見詰めていた。

薄暗くてわかりにくいであろう視界に僕をしっかりと捉えている。


「壁は高そうだなあ」

「壁?」


僕の言葉に頷くと、マリアはにこりと可愛らしい笑顔を作る。


「こっちの話だよ。今日はありがとう、私の家はそこだからもう行くね」

「あ、あぁうん……また明日」


言われている事はよくわからなかったけど、少し離れた角でジュードが待っているのが見えたので、追及する事はやめて見送った。

こちらに気付いたジュードが小さく会釈をしてから、マリアを連れて角の向こうの家に消えていくのを確認すると、僕も家路につく。


「ちょっと、懐かしかったな」


反芻するのは、先程までマリアと過ごした時間だ。

放課後に友達と買い物して、食べ歩きして、まるで前世の学生時代に戻ったみたいだった。


「……」


少しだけ、前世の友人の姿を思い出す。

僕の友人達は、面倒見の良い奴が多かった。

僕みたいな人間に寄り添って、時には励まして、隣にいてくれた彼等はどうしているだろうか。

三十代とは言え若くしての突然の訃報だ、きっとたくさん泣かせてしまったのだろう。

それくらいは想像がつく。

前世で友人達にはとても大事にされてきた。それこそ僕が死ぬ直前まで。

こっちが申し訳なく思うくらいに、みんな優しかった。


「急に死んじゃって、ごめん。最後までたくさん迷惑かけて、ごめん」


茜色に染まり始めた空に手をかざす。

この空の向こうに、彼らのいる世界があるのなら、この言葉が少しでも届いて欲しかった。

ここがゲームの世界なら、起動した誰かのメッセージウィンドウに表示されたりしないかな、と考えたところで自嘲気味に笑ってしまった。


「そもそも、この世界のベースは未発売のゲームじゃないか」


誰も知らない、誰にも物語の届かない世界。

その事実を思い出して、僕にしては珍しく、少しだけ寂しいなんて思ってしまう。

この世界だって、人々はみんな優しい。だというのに、まだ僕はここにいて良い人間だとは思えていないみたいだった。




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