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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪 あや


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放課後デートは青春の味(1/4)



学園に入学してから一ヶ月が経った。

三十六歳から人生をやり直して迎えた二度目の学生生活は、それなりに充実していたけれど、良くも悪くも退屈しないものだった。

入学の事前説明で知った事だが、この学園は生徒の自主性や協調性を伸ばすために多くの年中行事を行っている。

面白いものや厳しいものまで様々で、時には意味の分からないようなものもあるらしい。

ゲームの設定にも無かった、奇抜ともいえる特徴的な行事が本当に多い。

特に入学の数日後に行われた『課外授業』とやらは酷かった。

思い出すだけでげんなりする。

その日、昼食後に新入生一同は何も知らされないまま中央棟前の広場に集合させられていた。

授業なのか何なのか情報もなく困惑する生徒達の前に、教員が進み出て「課外授業の時間です」とだけ一言。

そして何の前置きもなく渡された木剣を使った、本気の勝ち抜き戦を唐突に強いられることになったのだ。まずここから割と意味が分からない。

そして戸惑いと共に始まった『課外授業』は、僕達生徒が想像していたよりも本気の勝負を求められた。

少しでも試合で手を抜こうとするとすぐ教師陣に見抜かれ、物凄い剣幕で叱られる。わざと負ければペナルティ。

全力で行う連戦は思った以上に体力を削る。

だから僕は、短期決戦で挑もうと立ち回り……結果、幼少期にレベルを上げ過ぎた弊害か、全試合で初撃必殺の勝利をキメてしまうという大失態を犯した。

これはまあ、教師にバレないような手加減ができなかった僕も悪かったのだろう。

だが問題はこの後だった。

僕の動きを見て闘争本能を刺激されたのか、今度は頭のおかしいバトルジャンキー……もとい剣術科の上級生たちが嬉々として乱入して来たのだ。


(なんか思い出すだけで頭痛がしてきた……)


授業に上級生が乱入するのも、それを教師が黙認するのもやっぱり意味が分からない。

結果、何故か僕は一人で連戦かつ乱戦になる形で彼等の相手を午後の授業全てを潰してまでさせられる羽目になった。

この学校はいつから無法地帯の闘技場になったのかと放課後に購買の前で散々愚痴ったところ、ノアにまで笑われてしまう始末だ。

この課外授業は学園で代々受け継がれている、いわゆる浮かれた新入生への洗礼的な役割のものだったらしい。本来ならば。

後に教師から、気を引き締めるどころか乱入した上級生すら蹴散らしたのはお前が初めてだと、あまり嬉しくないお褒めの言葉を貰った。正直二度とやりたくない。

もっとも、そんな治安の悪そうな行事は今のところはまだそれだけで、他はごくごく一般的な学校生活と言えるものだった。

マリアとの関係も良好で、僕も初日のようなテンションを抑えめにしてからは彼女から緊張される事も無くなり、普通の友人関係を築いている。


「平和だな……」


本当に、あの狂った課外授業を除けばこの学園は平和そのものだった。

危惧していた、ゲーム設定を逸脱した状況やアクシデントが起こるでもなく、気を抜けばここが時任タイキのシナリオ世界だという事さえ忘れてしまいそうだった。

学園生活としても順調だ。

授業の難易度も、家で復習しなくても授業だけで十分事足りる程度だし、クラスの子たちともそれなりに付き合えている。

まあ課外授業での活躍の影響か、一部のクラスメイトからは怖がられている気もするけど。


「カインって何でもできるよね」


放課後の教室、それまで隣で授業の復習に教科書と睨めっこしていたマリアが顔を上げた。

視力は悪くても辛うじて教科書や黒板の文字はわかるらしく、彼女は軽く目頭を押さえて軽く頭を振っている。


「急にどうしたの?」

「だってこの短期間でも優秀なのがよくわかるから。この前の課外授業もすごかったし、今だって私に勉強教えてくれてるし。この前ノアさんに聞いたけど料理もできるんだよね?」

「うん。今も学園に通ってる間は基本的に自炊だよ」

「文武両道で料理もできて顔も良くて優しいって、今時フィクションでも中々ないと思うよ」

「そうかな。顔はともかく他は必要に迫られただけなんだけどね」

「そういう事、涼しい顔で言っちゃうんだもん、ずるいなぁ。もっと私も頭良くなりたーい」


復習を終えて教科書を鞄にしまいながら、マリアが頬を膨らませる。

これは、僕が入学試験で首席だったらしい事は黙っておいた方が良さそうだった。

僕の場合は前世から勉強が人よりちょっと得意だったのと、人生二回目だからこの世界の子供達よりは物を知っているという、種を明かしてしまえばただの年の功なのだが。


「それより、来週から学校外での薬草採取の実技授業が始まるって先生が言ってたよね」

「うん。動きやすい服装を用意しろって言われてたね。僕は普段着にそういう服も何着か持ってるからそれを持って行くよ。マリアは?」

「それがね。私は外を動き回ったりすることがあまりなくて……」


それはそうだろう。

少し考えればわかるけれど、マリアの視力では駆け回るどころか一人で外出する事も容易ではないはず……


「小さい頃はまだ、こっそり抜け出して街に遊びに行ったりもしてたんだけどね」


前言撤回。

彼女は結構なお転婆さんだったらしい。

そんな幼少期のマリアにも興味はあったが、今は置いておこう。

つまり今の彼女は自前の運動着になるようなものを持っていないという事か。


「それなら、この後ちょっと街に出てみようか。放課後に友達と寄り道をするっていうのも、今だから楽しめる学生の特権だと僕は思うよ」

「いいの?」

「もちろん。お店選びもまかせて」


学生時代のそれは、仕事帰りの寄り道とはまた違った良さがある。

こういう経験は貴重だ、楽しめるうちに楽しんでおいたほうが良い。


「ねえねえ、二人で何の話してんの?」

「寄り道って聞こえて来たぞー」


と、教室の前方でお喋りをしていた生徒達がマリアとの会話に割り込んできた。

ウェーブの効いたピンクブロンドが特徴的な少女と、アッシュグレーの髪の隙間から派手な金のピアスを揺らす少年。

ジルとレア。

このクラスでも指折りのウザ……いや、お喋り好きな二人組だ。


「え、何もしかしてデート? カイン君やるじゃん。ジル君や、これは妬まし羨ましなイチャイチャカップルというものではないかな?」

「いやいやレア嬢。万能型イケメン男子と超絶美少女カップルとか、もはや羨ましさすら湧いて来ねえよ。とは言え俺も可愛い恋人が欲しいナー。カイン、今度誰かいい子を紹介しろよ、俺もモテモテになりたい」

「ジル君は紹介されてもモテない気がするかなあ」

「それはレア嬢だって同じだろ、俺達二人で寂しくデートするカップルを見送るだけのモブさ」

「まったく世知辛いわねえ」


ねー。

と声を揃える二人に呆れ交じりのため息を吐く。

二人のことは嫌いではないし、ムードメーカーで愉快な少年少女ではあるのだが、セットで来るとどうにもウザ……賑やか過ぎる。


「あのさ。別に僕はモテてないし、そうやって誰彼構わず茶化して回るから二人共モテないんだよ。顔とかじゃなくてね?」

「正論ヤメテ」

「ぐうの音も出ねえ」


ぐぅ。

とまたもや二人声を揃える。いや、そういうところだよ。


「二人共、アンダーソン君にその手のいじりは通用しないって全然学ばないわね……」


声の方を向くと、前方の席から呆れ顔で振り返りながら少女が肩をすくめていた。

艶のある濃い茶髪の少女……ルースはクラスでも常識人枠の生徒で、平民出身ながらクラスメイトからは身分問わず一目置かれている。

ルースはマリアとも仲が良いようで、たまに二人でランチをしている所を見かけていた。

マリアがネームドキャラ以外と仲良くできているのを見ると何だか安心する。

どうにもその辺り、僕はちょっとマリアに対して過保護なのかもしれない。


「そしてアンダーソン君は二人とじゃれてないでマリアさんのフォローをするべきじゃないのかな?」

「え? あっ……」


促されてマリアの方を向くと、マリアは真っ赤な顔を手で覆ってデートって、カップルって……と呟いていた。

この手の揶揄い方をされた事が無かったのか、反応がやたら初で可愛い。

とは言えマリアとカップル扱いされるのは僕としても申し訳ない気持ちがあるので避けたいところだ。


「マリア、マリア落ち着いて。僕達を見てそんなこと言ってるのは、あそこのジルレアみたいな一部のモテない特殊な人だけだから、ね?」

「流れるような自然さで辛辣じゃんカイン君」

「なんか俺達ワンセットの単語みたいになってね?」

「僕達はあくまでも授業に必要なものを買いに行くだけだから。ね、そんなに緊張されちゃうと僕も照れちゃうからさ」


マリアを落ち着かせる後ろで無視するな―、と抗議の声が聞こえた気もするけど、きっと気のせいだろう。

やんやと騒ぎ立てる外野をスルーすると、帰り支度を済ませたマリアを連れて校舎を出た。



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