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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪 あや


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入学式と女主人公マリア(2/3)



ほどなくして、入学後によくある担任からの今後の説明や自己紹介を終えると、各々に地図が配られて一時解散となった。

初日からまだ出会って間もない者同士での校内散策というのは、集団行動が苦手なタイプの子供には酷なのではないか。と個人的には思うのだが、この学園はその辺りちょっとばかり厳しい教育方針らしい。

僕は元から人が苦手ではないし、何より前世では学生時代に複数の接客バイトもしていたし、社会人になってからは営業活動も経験してきた。

とは言え、今回のパートナーはあくまでもマリアだ。

そう決めている以上、僕のにわかコミュ力なんて今は必要ない。


「じゃあ、行こうかマリア」

「うん、色々見て行こうね!」


これは中々に幸先の良い学園生活の始まりではないだろうか。

マリアと共に、地図を片手に校内を見て回る。

今回の散策で移動が許可されているのは一年生の教室がある西棟と主な共用施設が集まっている中央棟の二箇所だ。

なるべく無駄な階段の昇り降りをしないように、ルートを決めて進んでいく。

順調に西棟を周り終えると、もう一度確認のために中央棟の地図を開く。

そしてその一階部分に目を留めた時に、ふと思い出したことがあった。


「マリア、ちょっと立ち寄りたい場所があるんだけど良いかな。ここなんだけど」

「良いよ、えーと……購買? 」


指し示した地図の場所を覗き込んだマリアが首を傾げる。

中央棟一階の隅にある小さな購買スペース。

平民の利用者が圧倒的に多いそこは、貴族が大半を占めるこの学園ではあまり目立たない。


「この学校、購買なんてあったんだね。何か足りないものでもあるの?」

「うん。ちょっとペンを忘れちゃったから、買っておきたいんだよね」




そして。


「やぁ新入生のカインくん、購買へようこそ! 早速女の子を連れてるなんて意外とやるじゃん。そんなわけで、実家の仕入れ担当改め、商会から派遣されて購買のお兄さんになったノアさんだよー。よろしく!」

「はいはいよろしくノアお兄さん、そこの鉱石ペンひとつくださいな」


購買に来た瞬間に馴れ馴れしく話しかけてくる、見覚えのありすぎる顔をスルーして目的のペンを指さすと、ノアはあからさまに拗ねた顔をする。

大の大人が唇を尖らせてもあまり可愛くはないな。


「えー、想定以上の塩対応じゃん。カインくんはもっと驚けよなぁ」

「まあ、どうせここにいるだろうとは思ってたからね」

「なんでだよ。お前ってそういうとこはほんと可愛くないな! これはマジで誰にも言ってなかったのに、未来予知でもしてるのかよ」


してるよ。とはさすがに言えないな。

そもそもゲーム内でのノアの役割は購買のお兄さん兼諜報員だ。

ここにいなかったら僕としてはそっちの方が怖い。

だけど、もちろんそんな事情をノアは知るはずもなく。

面白いくらいに打てば響くノアに、ついからかう気持ちが強く出てしまった。いつもちょっかいをかけてくる彼に対する、僕なりの意趣返しとも言う。

もちろん悪意はない。

現状学園で友達のほとんどいない僕にとってノアの存在はありがたいものだし、気軽な話し相手は大切だ。

だから、あくまでも愛情表現である。

ニコニコとノーコメントを貫く僕に、ノアは諦めたように息を吐いた。


「まぁいいや、俺がいるとわかってて来てくれたみたいだし。これからもよろしくな!」

「これからは毎日顔を合わせることになるね。暇な時は顔を出すつもりだからよろしく」

「おう。でも特にサービスはできないからな!」


そこまで言うと、ノアは僕の肩越しにマリアへと視線を向けた。


「で、そこの可愛いお嬢さんは?」

「はじめまして、カインと同じクラスのマリアです!」


少し緊張気味に答えるマリアが可愛い。

ノアも同じ感想を抱いているようで、僕といる時のものとは違う、微笑ましそうな視線をマリアに向けていた。


「マリアちゃんかぁ、こいつと違って素直で可愛いね。俺は購買の店員やってるノアだよ、よろしく」


明らかに一言余計だけど、マリアが素直で可愛いのはその通りなので敢えて黙っておく。

二人が面識を持つことは、僕にとってもそう悪い状況ではない。

ゲームにおけるマリアとノアは、親密になればなるほどマリアの死亡率が下がるような関係だった。

ノアは義理堅く人も良いから、任務内容とかち合わない限り好意的な人間を不幸な目に合わせたりしない。

もしマリアが特定の人間と親密になるエンディングに進むとしたら、僕は信頼できるノアが良いと思っている。

もちろん、彼女自身の意思を尊重した上での話だが。


「ねぇカイン……」

「うん、どうしたのマリア?」

「カインもだけど、カインの知り合いってみんなこんな感じなの?」

「こんなって?」

「なんと言うか、女性の扱い方とか」


恥ずかしそうに俯くマリアにあぁ、と納得する。

なるほど彼女は、初対面で可愛いって言われて動揺してるのか。

いやでもマリアは可愛いから可愛いって言うだろう、普通に考えれば。


「可愛い子に可愛いって言うのは普通だと思うよ?」


思考と言葉が重なるが、それくらい僕の中では当然の事だった。

もっとも、現代日本の感覚で言うとこれは少しセクハラじみていたかもしれない。気を付けよう。


「あ、うぅ」

「あと言っておくけど、僕は誰にでも可愛いって言って回ってるわけじゃないからね?」

「あんまり連呼しないで……」


真面目に言ったつもりだったけど、マリアには揶揄っているように受け取られたかもしれない。

湯気が出そうな程に顔を赤くさせながら軽く睨まれてしまった。

それもまた可愛かったけど、これ以上言ったら嫌われてしまいそうだ。


「いやカイン、お前キャラ変すげぇな。俺と全然対応違うじゃん……あ。そうか、もしかしてこの子が噂の観賞ちゃんか」

「ノアくん?」


マリアに変なあだ名をつけないでほしい。

そしてマリアと同じ対応をノアにするのは、さすがに何か違うだろう。

確かに付き合ってみればノアにも可愛げはあるが、マリアに言う可愛いのとはちょっと違う。


「おっと失言。しかし本当にマリアちゃんは可愛いな」

「そうだね、可愛いよね」

「いやなんでお前がそんなに得意気なんだよ」


それは前世から推してた古参ファン的な心理だよ。と心の中でだけ返しておく。


「あ、あの……ノアさんとカインってどういうご関係?」

「あぁ、ノアとは入学前からの友人なんだ。こんなだけど根は真面目でいい奴だよ。あ、でも風紀的にはちょっとだらしないところがあるから、もし軽いノリで言い寄られたらハッキリ断ったほうがいいからね」

「なる、ほど?」

「カインお前、初対面のお嬢さんに変な事吹き込んでくれるなよ」

「事実だからね。昔から色んな子を取っ替え引っ替えしてたじゃないか」


まぁ、多分それは仕事の情報収集のためだったり、恋人がいるフリをしていた分も含まれるだろうけど。

それでも出会った頃、成人したての彼は既に経験豊富そうだった、きっと学生時代に相当遊んでいたのだろう。


「待てって、あれは違くて、いや、あー……とにかくだらしないは余計だろ、これでも今はそれなりに一途だと思うんだけどな」

「……」

「なっ?」


わかった。

言いたいことはわかったから意味深な笑顔を向けるのはやめるんだ。

確かにある意味でノアは一途だ。

彼の守備範囲……つまりそれなりの年齢に僕が成長するまで待つ、と言い切ってしまうくらいには。

まぁ、その相手が僕でなければなお良かったのだが。

ノアのそれは諦めが悪いとも言えるが、これは友情を維持したくて彼からのアプローチを全部未来に先送りしている僕にも責任がある。

だけどマリアの前でそういうのを匂わせるのは本当にやめてほしい。


「ふふっ」


それまでやり取りを見ていたマリアがおかしそうに吹き出す。


「二人がとっても仲良しなのはよく分かりました!」

「まぁ、ノアとは結構付き合いも長いからね。大事な友人なのは間違いないよ。いわゆる、かけがえのない存在ってやつだね」

「……ほら、これだよ。こいつ、本当恥ずかしげもなくこういう事言うから、マリアちゃんも誑かされないように気を付けろよー。じゃないと俺みたいに、こいつが気になって恋人も作れないような体になっちまうぞ」


失礼な。

人の事を魅了持ちの魔物か何かみたいに言わないで欲しい。

こっちだって、どうしてノアが僕に入れ込んでるのかさっぱりわからないのに。

このやり取りにまたマリアがクスクスと笑い出す。

きっとノアなりの冗談か何かだと思っているのだろう。

うん。お願いだからそのまま勘違いしたままでいてくれ。


「あれ、でもノアさんには恋人がいるんじゃないんですか?」

「え、俺に? どうして?」

「だって、それ『翠の輝石』ですよね。ペアじゃないんですか?」


マリアがノアの付けているタイピンを指さす。

あぁ、本当だ。

装飾に使われている翡翠に似た石。これは翠の輝石だ。

これはこの国の南部で採れる、持っていると失せ物が見つかるという言い伝えのある希少な石で、通常ひとつの石を半分に割って採集する。

そうして分かたれたふたつの石は、離れた場所にあると互いに弱い力で引き合う特殊な性質を持っていた。

確か『リリスの匣庭』の続編では、分断された仲間が合流する時に用いたイベントアイテムだった。

これが国の南部にある一部の地域では、恋人や夫婦が持つペアの装飾品として使われているのだ。

もっともノアの場合は、普段の警護対称になっている王族と対で持たされているのだろうが。


「そうだよ、良く知ってるなあ。ま、これは大事な人からの預かり物なんだ。でも恋人とかそういうのとはちょっと違うな」

「そう、なんですか」


その時、一瞬だけマリアの肩が震えたように見えた。


「……マリア?」

「あっ、なんでもないよ! そろそろ次に行かないと時間なくなっちゃうかも」

「それもそうだね。じゃあまたね、ノア」

「おう、マリアちゃんもいつでも遊びに来てくれよー」


ヒラヒラと手を振るノアに会釈するマリアを連れて購買を後にする。

でも、どうしてだろう。

マリアの顔色は、購買に来る前よりも少し青くなっているようにも見えた。




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