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フェイタル・リンク・ハッピーエンド−異世界転生は咎人を救うのか−  作者: 紗雪 あや


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カインとノア 後編(3/4)



「ところでカイン」


飲み終えたカップをテーブルに戻すと、同じようにフォークを置いたノアが少し深めにソファに座った。


「お前はさ、この先やりたい事とかないのか?」

「やりたい事?」

「そ。剣術はあくまでもできる事を増やすため、なんだろ? それならお前は将来的に何がやりたいのかな。なんて、ふと思ってな」


将来とはまた藪から棒な。

だけどそれは、僕にとって答えるのが難しい質問でもあった。


「何をしたいかはともかく、十四歳になったら学園に通うつもりではいるよ」


ひとまずその方向に話題を逸らす。

するとノアも思いの外あっさりと話に乗って来た。


「あー。そう言えばそんな話してたな。でも何しに行くんだ? お前くらいの頭なら学園の教育なんてヌルすぎるだろ」

「ノアは僕を一体何だと思ってるんだよ……僕だってこの国の学問を専門的に修めてるわけじゃないし、成績や学力はそれなり止まりだと思うぞ。まぁ両親に講師は付けてもらってるから、絶対に学園卒の肩書が必要ってほど無知でもないのは確かだけどさ」


少なくとも子爵家の跡を継いで街を運営していく分には、今のままでも十分だとお墨付きは貰っている。

両親の期待に応えられて、なおかつ就職活動が要らない身分というのもまた贅沢な話だ。


「それマジで通う必要ないだろ。どうしてそんなに学園に通いたいんだよ」

「え、いいじゃないか学園。学園生活って言葉もなんか青春の香りがするだろ? 青臭くてみずみずしくてほろ苦い。そういう若さ、僕は結構好きだよ。見ていて飽きないよね」

「見ていてって、せめて当事者目線で語れよ。それだと青春を懐かしむ中年か何かだろ」

「まぁ、きっと僕の心は三十六歳のおじさんなんだよ。それなら若者達の青春を間近で見守る事に楽しみを見出してもおかしくないだろ?」

「いや三十六歳って。それだと俺よりかなり年上になるじゃんやっぱり学園行く必要ないだろ」


ははは、と笑ってからノアはいや笑えねえな……と頭を抱えた。

わかるよ、精神年齢三十六歳の十一歳児とか僕だって目の前にいたら対処に困る。何なら合算して四十七歳だし。


「すげーしっくり来る年齢設定やめろよ。お前が年上に思える瞬間が実際にあるの、本当にやだ。最初会った時はマジで年齢操作を疑ったんだぞ……お前なんなの」

「何度でも言うけど間違いなく十一歳児だよ。まぁ、僕が年上に見えるのならそう扱ってくれても構わないけどね。その時は僕もノアを手のかかる可愛い年下の子として見てあげるからさ」


事実としてノアを後輩のように思う時は割とある。

出会った時はまだ彼も十代だったし、年の離れた弟か、もしくは職場の新人を相手にしてる気分になる事も多い。


「嫌味なくサラッと言うのな。そういうところなんだよなぁ。お前の性格、俺ほんと好みなんだよなぁ。あと足りないのは外見の色気だけだな。本当に年上ならなぁ、なんでお前子供なんだよ。せめてもうちょっと育てばなぁ」

「うん、僕としてはそう言われると子供のままでいたくなるかな……」


バイセクシャルらしいノアと違って僕は前世も今も異性愛者だ。いくら育っても彼との関係を友情とは別のものに変えるつもりはない。

本当にどうしてノアは僕なんかを気に入っているのか。


「なんにせよ、学園に行くのは僕の中では決定事項だよ」

「そうか、そうなると本気で動機が謎だな。お前にしてはやけに学園にこだわってるし」

「建前としては今後のための人脈作りかな。学園は身分問わず色んな人間が通うだろ、もし僕が家を継ぐなら行って損はないよ。何だかんだ最後に物を言うのは人間関係だからね」

「ほんと悟ってんなぁ、でもそれ建前なのか。じゃあアレか、学園に気になる奴でもいるのか?」

「まぁ、確かに会いたい子ならいるかな」


どちらかというと僕の本命はこっちだ。

僕と同学年で入学する少女に、僕は会いたい。

『エディン・プリクエル』における女主人公という立ち位置にいる少女。名をマリアという。

会いたい。

単純な興味として、この世界に命をもって生きる彼女を見てみたい気持ちはあった。


「会いたい子?」

「うん。僕が学園に行く目的の半分はそれかな」

「……。それ、会ってどうするんだ?」

「え? どうするって、ただ会ってみたいだけだよ」


言ってから、ノアの表情がわずかに硬い事に気付く。

そこで初めてノアの懸念に気が付いた。

この国の王子、アベル。弟である彼と僕の接触をノアは危惧しているんだ。

濁してはいるがノアは僕の素性に気付いているし、学園には一年遅れでアベルも入学してくる。

仮に僕がゲームの『カイン』のように弟への嫉妬や復讐心を持っていたら、それは王家に仕えるノアにとって由々しき事態だ。

いくら僕達が友人同士とは言え、そこは警戒するのも仕方がない。

とは言え、その疑念を抱かれるのは王家と事を構えたくない僕にとっても都合が悪い。

さて、どうするか。


「うーん……まあ。別にノアになら会ってみたい子のこと、話してもいいけどさ。正直言って笑われる未来しか見えないからなあ」

「笑わない笑わない」


いや。これは絶対笑う。

明日の昼食を賭けてもいい。


「その、一度でいいから会ってみたい可愛い女の子が、偶然にも同学年で入学する予定があるってだけと言うか。その子を間近で見てみたいというか……って、ああこらやっぱり笑ってるじゃないかもうこの話はやめやめ!」

「んふっ、わ、わら、笑ってない……っふは」


いくらなんでもお腹抱えてプルプル震えてるのに笑ってないは無理がある。涙を滲ませてまで笑うな。

だから気が乗らなかったんだ。この話をするのは。

まだ見ぬマリアに会いたい。

本当にそれだけの理由だから、不本意ではあるがノアに笑われるのも妥当と言えば妥当だ。

それはそうなんだけど。

疑念を晴らすためとは言え、実際に目の前で笑われるのはなんか、こう、腹立たしい。


「それで、ノアくんはいつまで笑ってるつもりなのさ。壊れてるの? 何度か頭を叩いたら治るかな?」

「わ、悪い悪い……っふ、お前の口から、そんな、言葉が聞けると思わなくてな……って、あはははっ嘘だろお前顔真っ赤じゃん、初めて見るぞそんな顔! そっかぁ、マジで言ってるのかよ……っくく」

「そんな笑われたら誰だって恥ずかしいだろ。もうノアには絶対にこの手の話はしないからな」

「はー……笑った……いやだってなぁ。お前って年齢の割に枯れてるよなあ、とか常々思ってたからさ。意外だよ」

「思春期真っ盛りの青少年を勝手に枯らすなよ。これでも初恋にドキドキするようなお年頃だぞ」

「それは思春期に全く見えないお前が悪い。何が初恋にドキドキだ、心は三十六歳なんだろ都合のいい時だけ子供になるな」


正論だ。ぐうの音も出ない。

実際、思春期なんてあまりにも遠い昔で自分でもよく覚えていない。


「うん。今のはちょっと言ってて無理があるな、とは思ったよね……」

「いや自分で思うのかよ。そもそもお前、同年代の子に恋とかできそうにないよな」

「否定はしないよ。僕はどちらかと言うと心身ともに成熟してる子が好きだからね、保護者世代の方が魅力的なくらいだよ」

「え、それはマジで三十六歳の感性だな……保護者世代でも『子』扱いなのかよ」


そう言われても、僕の感覚では十代半ばの女の子なんてどんなに可愛くても性愛の対象にはならない。

前世で友人に自慢された子供も中学生くらいだったし、頼まれて預かる事もあった。

それもあってか、十代程度の子はほぼ親目線で見てしまう。

根本的に、可愛がる方向性が違うのだ。

今の僕と同年代の子に芽生える恋心、なんて犯罪としか思えない。


「それなのに学校に気になる子がいるのか?」

「そりゃあ肉体関係を持ったり生涯を添い遂げたい女性と、ただ愛玩……いや観賞? とにかく可愛がりたい子とじゃ感情のベクトルは違うよ。それに自分好みの容姿をした美少女がいるなら、見てみたくなるのが男だと僕は思うよ。別に恋とかじゃなくてもさ」


言うなれば画面の向こうのアイドル的なもの。

中にはアイドルに恋愛感情を抱く人もいるだろうが、少なくとも僕はそういった気持ちにはならない。


「いや観賞って」

「脱がす気も抱く気もない可愛い女の子なら、純粋にその可愛さを観賞するものじゃない?」

「えぇ……それはちょっと引くわ。せめて愛でるとか言えよ。お前って普段は常識人っぽいのに急に倫理観ぶん投げる時あるよな。しかもそのためだけに学園に通うのも変だろ。でもまぁ、お前らしいといえばらしいのかもな」

「はいはいどうも、どうせ僕は倫理観も行動も変ですよー。というか、君の中での僕らしさってどうなってるんだよ」

「あはは、褒めてるんだよ拗ねるなよー」


その文脈のどのあたりに褒めている要素があったというのか。

一度ノアの頭の中を分解して調べてみたくなる。



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