表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/39

3:亡命前夜2

皇宮内では、アビエルとほとんど会話を交わさない。皇太子の婚約者の護衛が、皇太子と話をする必要などないからだ。だから、亡命に関する進捗の情報交換は、最小限のやりとりを厩舎で行った。


ホールセンへの出発が明日に迫った日の早朝、厩舎で馬の手入れをしていると、彼がやってきた。


「おはよう、レオニー。アルカシードの機嫌はどうだ? 」


アルカシードはアビエルの馬の名前だ。


「先ほど、少し運動させたので、今から飼い葉をつけるところです。良く体も動いていましたし、体調に問題はなさそうです 」


「彼女は不安になっていないだろうか?」


「侍女にバレないか不安で眠れない日もあると言っていました。皇宮にお越しの際は気丈にされていますが、きっと日々緊張されていると思います 」


「そうだろうな。よく耐えていると思う。明日は、もう皇宮には来ないで出立するのだろう?」


「はい、その予定です。ですので、殿下も今日お会いになられたらお声をかけて差し上げてください 」


「そうだな、何か心が休まるように考えておくよ・・・・ところで、なんで殿下って呼ぶんだ 」


「周りに人がいるからですよ 」


「ばれやしないだろう。なんのためにタネール語で会話していると思ってるんだ 」


「さすがに名前はばれると思います 」


飼い葉桶を馬の前につるしながら、アビエルに呆れた顔をする。


「彼女が出立して、おまえがこちらへ帰ってきてからの方がたぶん大変だ。覚悟しておいてくれ 」


「そうですね。でも、命を取られることは無いと思いますので 」


そう言って笑って顔を上げると、アビエルの顔に笑いは浮かんでいなかった。


「今後、思いもかけないようなことがあるかもしれない。それでも、いつも私を信じていて欲しい 」


「もちろんですよ。私は殿下を守り傍にいると誓いましたから 」


いつも通りの笑顔で応える。それが彼を安心させる一番の方法だからだ。じっと見つめる顔が近づいてきそうな気配があったので、我に返らせるために、タネール語をやめ、


「殿下、アルカシードに馬服を着せますので、申し訳ありませんが、少し場所をあけていただいてよろしいでしょうか?」


我に返ったアビエルが、あぁ、よろしく頼む、と言って厩舎を出て行った。


◇◇◇


ホールセンへの道行きは、平和に進んだ。侍女3名と侍従が1名。レオノーラを含む護衛が4名。途中の街で二泊し、途中何度か景色の良いところで休憩を取りながら、ゆったりと進んだ。


フロレンティアは言葉少なで、物思いに(ふけ)っているようだった。車窓を流れる景色や宿で出される食事などにはしゃぐことなく、それらを静かに堪能(たんのう)していた。


「お疲れではありませんか?」


途中の休憩の際に、声をかけると、


「大丈夫ですわ、レオ様。私が馬車の旅に強いのはご存知でしょう?」


微笑んで、そう言うと帝都の方を見つめて、


「......次にこの景色を見れるのは、いつかしら、と思って、少し感傷的になって。でも、よく考えたら、今まで、この景色を見たことはなかったのでしたわ、私 」


ふふふ、と笑って続ける。


「今の私はどこにいても新しいものを見つけられるから、いつでもワクワクしていられるのかも。でも、それはこの国の中でも良かったんですのよね 」


フロレンティアのタンポポ色の髪が寒さの残る風に掻き乱される。


「迷っておられるなら、()めることもできるのですよ。そう約束しましたよね 」


この計画は、どの段階であってもフロレンティアが()めたくなれば即座に中止するというのを大前提としていた。フロレンティアの横顔を見ながら、そう伝える。


「いいえ‥‥いいえ、止めないわ。私は、この国にいては何もできないまま一生を終えてしまう。だから‥‥」


ゆっくりとこちらを向いて、決意に満ちた瞳がレオノーラを見つめた。


「だから、きちんと私の人生を生きようと決めたのです 」


初めて出会った時は、柔らかく笑うタンポポのような少女だった。でも、今、目の前に立っているのはどこにでも飛んでいける羽を身につけた、美しい一人の女性だった。レオノーラは、賞賛の笑みを浮かべて、フロレンティアを見つめ返した。

もし、このお話を好きだ!と思ったらイイねやブックマークを!

気になる、気に入ったと思ったらコメントや評価☆☆☆☆☆,をお願いします。大変喜びます♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ