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騎士と王冠<The Knight and the Crown>Ⅱ  作者: けもこ


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27:ルーテシア外交4

翌日の会談には、王と王太子に加え、財務・外務両大臣、そして国軍の将軍が列席していた。t帝国から来た外務官や国務官たちと互いに探り合うような静かな空気が部屋を満たしている。

誰もがそれぞれの思惑を胸に秘めて座っていた。


帝国からの提案は、敷設が進んでいる幹線道路を国境まで延ばす計画に連動し、ルーテシア国内でも王都と運河の街ヘレイラを起点に、主要な道路網を整備できないかというものだった。


「それには……いくつか乗り越えるべき課題がありますな」


王国側の財務大臣が困ったように口を引き結び、ゆっくりと口を開いた。その顔には、経済の重圧に疲れた男の本音が滲んでいた。


「現在、ヘレイラは戦時下にあります。実質的な戦地はゴルネア寄りではありますが。運河自体の被害は今のところ出ておりませんが、正常運営をするには人が足りないのです」


その言葉にウィレムが静かに頷き、現状について補足をした。彼の声には、長く続く緊張の中で感じてきた焦燥と諦めが混じっていた。


「前線に近い地では、誰も好んで働こうとはしません。その地で働く者たちも、日々の生活がいつ脅かされるかと、怯えて暮らしています。人々が“日常”を手放すことに、これ以上慣れてしまわないうちに、何とかしなくてはと思うのですが……」


「予算の面でも問題があります。戦争の長期化により、軍備や補償に多くを割かれておりまして……道路整備に充てる余裕は、正直なところ、ありません」


財務大臣の言葉には、国家の守り手としての責任感と、もはや絞り出す余白もない現実への無力感があった。


レオノーラは、アビエルが発した言葉を、ルーテシアの言葉に直し柔らかな声で語りかけた。


「その点は理解しております。帝国としても、必要であれば融資をご提案いたします。幹線道路の整備は双方に利益をもたらすことですから」


言葉を継ぎながら、アビエルが一瞬だけ、王の様子をうかがった。彼の言葉がこの場でどれほどの重みを持つか、まだ読み切れない。


「ただ……ひとつだけ、懸念があります。戦況の現状について、お聞かせいただけますか?」


沈黙が落ちた。将軍と王が目を見交わし、その間に流れる空気が重くなる。


「国境の紛争地帯では、断続的な衝突が続いています。常に戦闘が行われているわけではありませんが、予測できぬ襲撃が繰り返されている。夜明けに突然攻めてくることもあり、我々はほぼ防衛に徹している状況です。深入りはせず、国境を守る。それだけが、今の我々にできることです」


将軍が差し出した地図の上に手を置くと、アビエルは黙ってその動きを見守った。


「川を越え、沼地を抜けて、向こうから進んでくる者たちは、おそらく徴兵された農民たち。戦術も戦略も知らず、ただ命令に従って前に進む。そんな彼らを相手に、我々は毎度、同じ光景を目にするのです。自滅してゆく彼らの姿を見るたびに、胸の内にわだかまるものがあります」


王は深く息を吐き、静かに呟いた。


「……の国が、この戦いに何を望んでいるのか、私にはわからん。ヘレイラが手に入るとでも? 諦めれば良いものを……」


王の瞳には、苛立ちとともに、終わりの見えぬ戦へのやるせなさが色濃く宿っていた。


そのとき、ウィレムがやや前のめりにアビエルを見つめた。


「殿下。先日、ゴルネアの特使と会談されたと伺いました。辺境領への流入者問題について……彼らはどう応じましたか?」


アビエルは視線を落とし、ひと呼吸置いてから応じた。


「正式な合意には至っておりません。今回が初めての対話でしたので、まずはお互いに提案を出し合った形です。ただ……あくまで私個人の印象として申し上げれば、ゴルネアもまた、この戦争に疲れ果てているように見えました」


そう言いながら、アビエルはウィレムに目を向ける。その目は、言葉にできない重さをたたえていた。


「殿下。帝国が、再び休戦の仲介をしてくださることは……可能でしょうか?」


ウィレムの問いかけは、希望というより、願いに近かった。その言葉に、王も将軍も、声を上げることなく返答を待った。


アビエルは、大げさなほどに驚いたように瞬きをし、やがて静かに答える。


「この場で即答はできません。帝都へ戻り、皇帝陛下や宰相と慎重に話し合わなければなりません。……私個人としては、お力になりたいと心から思っています。ただ、帝国には“他国の戦に加担しない”という原則があり、それを逸脱することはできません」


その厳しい現実を受け入れるように、ウィレムは小さく肩を落とした。その仕草に、アビエルの目が優しく細められる。


「……けれど、もしゴルネアから休戦の申し出があれば、その時は私が責任を持って仲介に立ちましょう。あの国の経済状況を見る限り、その日も遠くないはずです」


その言葉に、室内の空気がわずかにやわらいだ。ウィレムの表情も、ほんの少しだけ緊張を解いたように見えた。


やがて会談の話題は、王都から道路建設を進める際の具体的な予算試算へと移り、午前の議論は一区切りを迎えた。


試案することが多くあるため、会談の続きは明日に持ち越されることとなり、この日の午後はウィレムの案内で、城郭内の施設見学をすることになった。

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