表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士と王冠<The Knight and the Crown>Ⅱ  作者: けもこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/39

11:皇太子の来訪1

雪が解け、辺境伯領の草原に黄色や青の小さな花が顔を出し始めた頃、先ぶれがやってきた。

「一週間後、皇太子殿下の馬車が到着される」と領主に伝えられたその報せに、館も城も騒然となった。


かつて皇族の訪問があったのは、もう何十年も前のこと。

久方ぶりの“本家”の来訪に、誰もがそわそわと落ち着かず、侍女も兵も、料理番までが小走りで駆け回っている。


すでに各地の小領主には通達してあり、不法流入民の状況、治安問題、中央からの援助の必要性などを整理しておくよう命じていた。

今回の巡幸では、皇太子自らが辺境の現状を把握し、北方との関係について各領と直接話し合うという。


――本気で、皇室が北の問題に乗り出すつもりなのだ。


「皇太子は外交任務から戻ったばかりで、その実務能力を内外に示そうとしている。辺境は北の防衛線として、皇太子殿下の目に留まっているようだ。これを機に、領民たちがより良い支援を受けられればいいが……」


思いにふけるベリテア伯爵の表情は、痛みと期待が交錯していた。


◇◇◇


レオノーラは、城壁塔の上から皇室の馬車列を見下ろしていた。

馬車での長旅を好まないアビエルが、馬車に揺られている。


(きっと、腰が痛くてたまらないでしょうね)


思わず口元が緩む。

自分が馬でこの地へ来たときは五日かかった。馬車なら、よほど道を整備していても一週間以上はかかるはず。

城郭の外門をゆっくりと通過していく馬車たちを見つめながら、レオノーラはそっと心の中で呟いた。


――ご苦労さまですね、殿下。


馬車のひとつに彼が乗っていると思うと、胸が落ち着かなくなる。

誰にも見られていないのをいいことに、思い切り頬を赤らめたり、ニヤニヤしたり、忙しなく心が跳ね回る。


夕方の交代で城壁塔を降りた後は、クロイエムとともに領内の見回りへ。

領主館と城との間には、整然と並べられた皇室の馬車がずらりと居並び、館の方からは出迎えの声と人のざわめきが絶えない。


「皇太子が来るなんて、かなり久しぶりらしいな。準備がえらい騒ぎになってる。料理番のボウマンがさ、料理長の気が変になりそうだってこぼしてた」


「料理長も、きっと領主様と何度も相談が必要だったでしょうね。お出しする料理ひとつにも、辺境伯家の面子がかかっているのだろうから」


「レオは、皇太子ってのを見たことあるんだろ? なんせ皇宮にいたんだし。俺たちと歳、そう変わらねぇんだよな?」


「そうね。クロイエムと同じくらいかしら。……とても、綺麗なお顔をしていらっしゃるわ」


「そりゃまあ、俺たちみたいに肉体労働はしてないだろうしな。陽に当たって肌が荒れてたりなんかしないんだろ」


「でも、剣術も体術も、私よりずっとお強いわよ。よく訓練なさってるし、立派な体躯をしていらっしゃるわ」


――ええ、本当に。大きくて温かい手。鍛え上げられた上半身。引き締まった腰。


そこまで想像してしまって、レオノーラは一気に頬を赤らめた。

頭に浮かんだ妄想を慌てて振り払うように首を振ったとき、ちょうど前方で荷馬車がぬかるみにはまり、立ち往生しているのが目に入った。


「……あれ、助けに行きましょう」


妖しい妄想を振り払うようにそう言って、歩みを早めた。

もし、このお話を好きだ!と思ったらイイねやブックマークを!

気になる、気に入ったと思ったらコメントや評価☆☆☆☆☆,をお願いします。大変喜びます♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ