10:想いあう二人
辺境領に再び冬がきた。昨年の初めての冬はその寒さに驚いた。では、今年はもう慣れたか、というとまったくそんなことは無かった。相変わらず寒いし、辛い。
冬の間は、雪に閉ざされ人の行き来が減り、物も届きにくい。以前にルグレンが学院の演習で言っていたが、とにかく備えを十分にして我慢をすることが辺境では生きるすべなのだ。
そんな中、この豪雪の時期に皇室から辺境伯に使いがあった。
雪解けの頃、皇太子が辺境伯領を西側から順に回って、領内での様々な視察や隣国との対峙の仕方についての会合を持つ予定だ、よってその準備をしておいて欲しいというものだった。
暖かくなったらアビエルが来る!と思うと、気持ちが沸き立って、詰所でずっとニヤニヤしてしまった。誰にも話しかけられなかったところを見ると、さぞ、気持ちが悪かったのだろう、寮に戻りながら盛大に反省した。
途中で、領主館の侍従に荷物が届いていると告げられた。
「さっき、使いの人が帝都からの郵便を持ってきてくれたぞ。おまえの分は部屋の前に置いといたから 」
部屋の前には大小五つの荷物が転がしてあり、どれが自分のかと思い確認したら、すべて「アドルフさん」から自分宛だった。
ずるずると部屋に荷物を引き込んで、大きいものからまず開けてみる。
白いクマ?だろうか、毛皮のベッドカバーだった。ふわふわでとんでもなく暖かそうだ。
『ずっと南に下ると、北と同じように雪が降る土地がある。そこに住むクマの毛皮はとても保温性が高いそうだ。温かい夜を過ごせると良いと思う。最愛に幸せな夜があるように。A.』
別の荷物には、南国の極彩色の鳥の羽で作られた羽ペンと見たことのない薄さの透かし模様の入った用紙が入っていた。
『ヤイバル諸島は、製薬で知られているが、製紙の技術も素晴らしい。薄い紙の隙間に緻密な模様を入れることができる。まるでおまえの作るレース編みのようだ。きっと美しい文字が映えるだろう。最愛の紡ぐ言葉を楽しみにしている。A.』
どれにもその贈り物への想いが書いてあり、開けてとても楽しかった。
一番小さな荷物は、旅の間に書き付けた旅日記になっていて、航海はどのようなものだったか、行った場所で見た物、食べた物、住む人についてなどを事細かく書いてあった。読んでいるだけで、まるで一緒に旅をしたような気持になった。荷物の間に座り込んで、旅日記を胸に抱きしめ、あまりの嬉しさに泣き笑いをしてしまった。
クマの毛皮のベッドカバーは驚くほど温かく、いつものように寝衣を来て寝ると汗をかくほどだった。
◇◇◇
アビエルは、船上で潮風を感じながら、ここに一緒にレオノーラがいたらどんなに喜んだだろうと思いを馳せた。
きっと海を眺め、遠くに見える島々、船に合わせて泳ぐ大きな魚、水平線の向こうからやってくる白い波の筋、すべてを楽しそうにキラキラした表情で眺めはしゃいだだろう。
最初の冬が始まる前に、辺境領の寒さを思い防寒具などを送った。市中の警備をしているアルフレッドに『レオノーラの叔父からの預かりもの』として出してもらった。
次の荷物を再び頼んだ時に、「そういえば、この間郵便局に行ったら、おじさん宛にレオノーラから手紙がきてたな。あれはおじさんが取りに行くのか?それとも、預かってアビエルに渡した方がいいの?」と暢気そうに伝えられた。
『なぜ、すぐに持って来ない!』と言う叫びを呑み込んだ。
「あぁ、私から渡すので、取って来てもらえると助かるな。今後も気付いたらそうしてくれ。その......届いている手紙だが、なるべく早く取ってきてもらえるだろうか 」
さすがにアルフレッドもなんとなく気付いたようで、『御意』と言ってニヤニヤしていた。
届いた手紙には、送った防寒具に対する感謝と辺境領での日常が綴ってあった。寒いけれど、寮の部屋には小さな暖炉があって、部屋で温かい食事も取れるので不自由はしていないこと、ルグレンと再会して結婚式に参加できてとても嬉しかったこと。
『ルーテシアとの国境付近の市で良い絹糸を見つけ、あなたを想って作りました。いつもその身に最大の加護がありますように。月の輝く夜に最愛に向けて。L.』
封筒の中には羊皮紙に包んだ美しい組紐が入っていた。剣の柄につける飾り紐で、神の加護を受けられるお守りとしてつけるものだ。
薄い青の糸の中に銀色の糸を混ぜその中に小さな黒曜石のビーズを緻密に配置して編み込んである。揺れると空色の艶やかな糸の中に黒い星がキラキラと散りばめられているようだ。自分の瞳の色とレオノーラの瞳の色が溶け合ったように感じて、堪らなく嬉しくなった。
毎月、中頃に届く手紙を心待ちにするようになった。今までこんな風に手紙をやりとりすることがないほど近くにいたので、心の中を文字にして見ているようで、これはこれでいいな、と感じる。レオノーラの美しく繊細な文字の書かれた手紙をベッドサイドのテーブルの引き出しに宝物のように入れて、時折読み返して心を温かくした。
帝都で神聖祭が祝われる頃、レオノーラから小さな小包が届いた。中から出て来たのは、縁に細かいバラの模様が編み込まれ、外側から中心に向けて伸びた蔓とその小さな葉の重なりが全て立体的な模様になるように作られた豪奢なレースのクラバットだった。まさしく芸術品だ。
いったいどれほどの時間をかけて編んだのか。少し口を尖らせて、足の指をグニグニと動かしながら何かに夢中になっている彼女の姿が浮かび、口元が緩む。端にアビエルのイニシャルが美しい飾り文字で縫い取られていた。
『毎夜、暖炉の前で、あなたを想い編みました。幸せな時間をくださってありがとう。神の祝福がありますように。最愛に向けて祈ります。L.』
宮廷で行われた神聖祭の夜会で身につけた。レオノーラと一緒にいるようでいつになく心が満たされていた。
泡立つ波を見ながら、これからの自分を思い描く。彼女と憂いなく笑い合って過ごすために、やらねばならないことがある。両のこぶしに自然と力が入る。どこにいても自分にこんな風に生きていく力をくれる彼女が神から与えられた加護そのものだと感じた。
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