第四話 初めての魔法
え? なんで四話で完結になってるのか、って……? フフ……後書きを『最後まで読めば』わかることでしょう……。(一番下まで見てね!)
俺がドロボー計画に失敗してから、五ヶ月たった。
「まぁま……」
「きゃーッ! あなた! リグが喋ったわよ!!」
俺は赤ん坊らしくまだ板についていない感じで無邪気に言った。
これなら誰もが可愛らしいと思うだろう。しかし無邪気なのは声だけで、その腹の中はというとこれでもかというほど邪気満載なのだ。
俺は一度目の〝計画〟に失敗した後、再度〝計画〟を実行して見事に成功を収めた。
その後は難解な辞書を何十日もかけて解読し、理解した。大変だったが、結構いい感じの暇つぶしにもなったので結果オーライだ。
ともあれ、後は発音をネイティブっぽく矯正すれば、この世界の出身者と変わりなく話せるはず。
俺が無邪気な赤ん坊の笑みの裏でそんなことを考えていると、何かがドタドタと駆けてくる音がした。ついでに。
「本当かああああああぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!」
うるさいおっさんの声も聞こえてきた。
扉をぶち破るくらいの勢いでハゲが部屋に突っ込んできた。どうやら、このハゲが俺の父親らしい。
父親がこんなに禿げてると……やっぱりあれだな。将来的には俺もハゲるんじゃないか、って心配になるな。別に髪がどうとか、そんなに執着しているわけじゃない。が、やっぱハゲるのはなんか嫌だ。
……まあそれはいいとして、このハゲ男は二十年前、優秀な魔道士として戦場に赴き、そこであげた多大な功績が国に認められ、男爵位を授かったらしい。
このハゲ親父が優秀な魔道士……? このハゲ親父が多大な功績……? にわかにはまったく信じられないがね。
ちなみに、俺はそんな叩き上げ男爵の息子なので、一応貴族という枠組みになるのだと思う。マナーとか多くて面倒くさそうだな、と。俺はそう思った。
「リグニス! 声を! 私のことを呼んでみておくれ! 早く!」
親父はそう言いながら俺に顔を近づけた。鬱陶しい。
「……おやぢ」
言われた通り彼のことを呼んだ。呼んでやった。だから鬱陶しい親父は、さっさと俺から離れてくれ。俺はそんな思いを込め、親父を見上げた。
「お、親父……?」
しかし、親父はなんだか微妙そうな顔をした。
「いや……もっと、パパとか……お父さん……とか…」
なんだコイツ。呼んでみてくれ、って言うから呼んであげたのに。赤ん坊が相手だとはいえ、失礼な奴め。俺は心のなかでそう悪態をついた。
その後、親父は少し落ち込んだ様子でしょんぼり部屋から出ていった。
母はそれから少し経って誰かから呼ばれて部屋からいなくなった。
俺は親父と母が部屋から十分離れたことを音で確認した後静かに立ち上がり、軽くため息をついた。
「やれやれまったく……。あのハゲ親父っていうのは、本当によくわからない生物だな……」
まあ、母さんの反応はまあわからんでもない。俺だって、前世では一人で妹を育てていた時期があったわけだし。あいつの成長を見ることほど嬉しくて、楽しみだったこともなかった。
だから自分の子どもが言葉を発するっていうのは我が子との初めてのコミュニケーションになるわけだし、嬉しくて叫んでしまったり、周りに
でも親父の反応はわからない。呼んでみろって言われたから呼んだのに、どうしてああいう反応をしたのだろう。
「もしかして、〝親父〟っていう呼び方が嫌だったのか?」
じゃあ、今度は〝父上〟って呼んであげよう。俺はそう思った。
「ま、それはひとまず置いといて……」
俺は辞書を持ち上げた。この辞書は結構重たくて、言語の知識を得て用済みになった後も筋トレ用のウエイトとして大活躍している。
さて、筋トレだ。ノルマはスクワット五十回、腕立て三十回、上体起こし五十回。そして、今日は新メニューを追加してみた。持久走だ。
ひとまず小手試しに、体力に限界がくるまで部屋の壁沿いをぐるぐる走ってみた。結果は無理をして18周。この結果を元にしばらくの間、持久走のノルマは壁沿いを休憩ありで20周ということになった。
そういえば、筋トレをした後に走ったほうがカロリーの消費が早くなる、みたいなことを聞いたことがある。
俺は早くこの脂肪を落とし、まるでマシュマロみたいなムチムチから開放されたい。そういう癖持ちでない俺からすれば、赤ちゃんプレイは屈辱以外の何者でもないのだ。
え? でもおっぱい吸えるやんけ!! とか思う人もいるだろうが、残念ながら俺はそういう物に魅力を感じない。
生まれつきか、スラムで育ったせいか、師匠の訓練の賜物だか知らないが、俺はどうしてか女体に魅力を感じることができない。性欲が欠如しているのだ。
これは思ったより大した問題だったりする。なにせ性欲は人間の三大欲求の一つだ。でも俺にはそれが欠けている。だから俺は、なにか心に穴が空いたような生物として言いようのない違和感、そんな感覚を覚えながら毎日を送っている。
「なんか筋トレしてムチムチじゃなくなった所で、赤ちゃんプレイが終わるような気はしないが……。まあ、いいか。どうせ毎日暇だしな」
俺はその後、早めに筋トレのメニューをこなして少し辞書を読んだ。辞書は最後のページに差し掛かっていて、そこには気になる言葉が記されていた。
魔法、と。最初は前世と同じくファンタジー上の物だとばかり思っていたが、『魔法学については300ページを参照。』とか『魔法の軍事利用については322ページを参照。』とか普通に書いてあるのだ。
魔法学については前世でいうところの哲学とか、そういう概念について考えてみよう! みたいな意味不明な学問と同じ物として消化することもできる。
だが軍事利用。机の上にしか存在しない概念を、哲学者たちの意味不明な戯言を砲や砲弾、戦車の代わりに軍事利用することなんてできるわけがない。
もしかしたら、こっちの世界には魔法というものが実在するんじゃないだろうか。だとしたら夢が大きく、どこまでも広がる。
「魔法かぁ……使えたら、なっか楽しそうだなあ」
俺はそんなことを考えつつ、あくびをして眠ったのだった。
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小鳥が囀り、素敵なメロディを奏でる暖かな陽気、風が窓を叩き、軽快なリズムを作り出す。それに合わせるように、青い木の葉は宙にて踊った。
かくいう俺はそんな木の葉を眺めながら、ニコニコとご機嫌な笑みを浮かべながら、鼻歌を奏でていた。
だって昨日は素晴らしいことがあったのだから。昨日の俺は幸福感に包まれていたし、今日の俺もまた、幸せの残り香をたっぷりと胸の奥に抱えている。
なんで俺はこんな多幸感に包まれているのだろうか。それは、数ヶ月前辞書で読んだ魔法、その使い方がわかったからだ。
あの辞書を読み、こっちの世界には魔法が実在しているのではないかという仮説を浮かべてから、俺は何度も書庫に忍び込んで魔法に関する本を探してみた。
そしたらそういう類の本が出るわ出るわ。なんとびっくり百冊以上も見つかってしまった。どうしてそんな物がそこまでたくさんあるのかは知らない。だが、俺はそのおかげで確証を得た。この世界には、どうやら魔法が存在するらしい、と。
しかし百冊もあるくせに、俺が求めていた内容の物は出てこなかった。それがなければ、どんなに素晴らしい文献であっても意味をなさない。
魔法の使い方。これだけは、どの本にも載っていなかった。しかし大抵の本は『ご存知の通り誰もが使い、常に人族の生活と共にあった魔法だが――』みたいな書き出しだった。
つまりは、「こんなこと当たり前だし、わざわざ書くまでもないよね!!」ということなのだ。俺は顔も知らない誰かに小馬鹿にされたような気がして、なんとなく不快に感じた。
そして、俺は親父に聞いてみようかと思った。そんな知らないと小馬鹿にされるような当たり前のことなら、親父も知ってるはずだ。
しかし、それに当たって一つ問題が浮上した。それは、俺がまだ赤ん坊であるということだ。
人は、まだ一人では何もできず、人間にすらなれていないような赤ん坊が突然流暢な人語を喋りだしたらどう思うだろうか。
多分、赤ん坊がそうすることへ違和感を覚えることができない間抜けか、それ以下の存在でもない限りは、不気味だと感じるだろう。少なくとも、俺だったらそう感じる。
それにここは異世界だ。前世ではそんなことないと思うが、この異世界では不気味な子どもなんて捨てちゃえ、とならないとも限らない。
もっと成長してからならまだしも、こんな体で捨てられてしまったら残された道は野垂れ死にか飢え死にか、とりあえず死ぬしかなくなる。
せっかく転生し、第二の人生を送れることになったのだからこんな赤ん坊の状態ではまだ死にたくない。故に俺は考える。不気味だと思われずに魔法の使い方を聞く方法。不気味だと感じられなくなるほどまでに人間を間抜けにする方法。
前者は数年後には可能かもしれない。だが、俺はそんなに待てない。ひたすらに暇だから。後者は今すぐ聞くことができそうだったが、肝心の間抜けにする方法がない。
中にはそういう魔法があるのかもしれないが、俺はその魔法の使い方を知りたいのだ。
俺は半ば諦めていた。間抜けにはできないし、それ以外に今すぐ聞き出す方法は思いつかなかった。俺は大人しく何年か暇に耐えながら待つしかないか、と思っていた。
だがその時は唐突にやってきた。
昨日、俺は誕生日を迎えた。つまり、一歳になってお祝いのパーティーも催されたわけだが、そこでだった。
親父はワインを一瓶まるまる飲んで、ベロンベロンになっていた。アルコールを摂取して、アホになっていたのだ。
偶然にも、後者の人間を間抜けにする方法が成り立ってしまった。
俺はその時を見逃さず、他の人たちに気づかれないように訊いてみた。魔法はどうやって使うの? と。
親父は焦点が合わない目で楽しそうに語ってくれた。
お酒が入っていたせいで内容はとっ散らかってたけど、要約するとこんな感じ。
――step1――
体を流れる魔力を感じる。
――step2――
魔力を出力。
――step3――
魔力を魔法に変換する。
――step4――
魔法を放つ。
step1,2,3はさっき試してみたらできたのでクリアである。特に三番はふわっとしすぎていてよくわからなかったが、思いの外簡単にできた。
というわけでstep4、魔法を放つをやってみようと思う。
親父いわく、最初の一回目は自分の魔力に合った魔法がポンっ! っと出てくるらしい。だから念の為、屋敷の敷地の外に出て撃ってみる。なんかの間違いで大魔法とか出て屋敷が吹き飛んでも困るし。
俺の部屋は二階にある。ここから出る方法は二つ。一つは普通に屋敷の中を通る方法。もう一つは二階から窓を使って庭に直接飛び降りる方法。俺は後者を選択した。
そして俺は庭に生える芝の上に降り立った。
庭から出る方法も二つ。
一つは普通に正門から出る方法。もう一つは柵を乗り越える方法。俺はまた後者を選択した。そもそも正門には騎士の人がいるから出れないのだ。
俺は柵を越え、屋敷の敷地の外に出た。脱走完了である。
裸足で歩きながら、俺は本で読んだ内容を整理する。
まず、魔法には火、水、風、土、氷、雷、光、闇、治癒、そして無属性の、全部で10種の属性に加え、固有魔法なんて物もあるらしい。
更にこの世界には人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、魔族、大別してこの五種類の人類がひしめいているそうで、どんな種族でも、それぞれその種族にしか使えない特別な魔法、種族固有魔法というのがあったり、結構特色があるのだとか。
例えば、魔族ならさっきの10種の属性に加え、陰魔法というのが発現することがあるらしい。そしてエルフなら10種の属性の魔法が使えない代わりに、精霊魔法とかいう物が使えるのだそう。
ついでに今挙げた六種族はいつもいがみ合っていて、どの種族も互いにとんでもなく仲が悪いらしい。確か今も、南の方ではドワーフ族とエルフ族が戦争、南西では獣人族と人族が戦争しているんだとか。
「平和が一番だと思うんだけどなぁ……」
そんなことを呟きながら三キロくらい歩いて空がオレンジ色になってきた頃、やっと俺は足を止めた。周囲を見渡し何もないことを確認する。
「……うん。この辺なら何が出ても問題ないな」
小高い丘に一本だけ佇む木の隣でオレンジ色の地平線を見る。
「よし、いっちょやりますか……!」
魔力を感じ、魔力を出力し、変換する。
「step1〜step3は問題なし……っと……」
そして、魔法を。
「放つ……」
体の奥底から何かが抜けていくような感覚を感じた。成功だ、と。そう感じた。
「……ん?」
なんだこれ……。それが一番最初に俺が抱いた感想だった。
半透明の四角い壁が宙に浮いてる。俺はてっきり、前世アニメとかで見た、すごいかっこいいのが出てくると思ったのだが。
「壁? 防御系の魔法なのか? 攻撃はできないのか?」
ひとまず、一通り眺めてみた。それでわかったのは、半透明で四角くて浮いてるなぁ……、っていう、一目見ればわかるようなことだけだった。
ふと気づくと、太陽が沈みかかっていた。今日は帰ろう。明日くらいに、また脱走して実験してみればいい。
俺は魔力の出力を止め、壁を消した。
そして俺は体内で魔力をこねくり回しながら、急がずにゆっくりと屋敷に帰ることにしたのだった。
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屋敷に帰ったら屋敷中の使用人、それに親父と母さん、更には騎士や料理人まで松明を片手に庭を徘徊していた。屋敷の敷地外に出ている人もちらほらいる。
何があったんだろうと思って観察していると、屋敷の敷地外の顔ぶれの中に知っているメイドさんがいた。
慎ましい体つき、茶色い髪に、ダークレッドの瞳、歳は多分二十歳くらい。俺が辞書を盗もうとした時、その邪魔をしたメイドのメルティアさんだ。
「丁度良かった……彼女に訊いてみよう……」
俺は気配を消して、メルティアさんの意識の外から彼女に接近していく。そして、メイド服のスカートを後ろから引っ張った。
そしていたいけな一歳児の真似をしつつ、メルティアさんに声をかけた。
「めるてあ? なにしてう?」
完璧な一歳児だ。俺は心のなかで自慢げに笑った。
「あ? え? リグ様!?」
メルティアさんはその顔に困惑の色を浮かべつつ俺を見下ろし。
「あ! そうだった! 奥様に報告しないと!」
そう言って、ハッとしたように俺のことを抱き上げ、屋敷の敷地内に駆け込んだ。
その後、俺はなぜか母さんに叱られた。こんな一歳児に何を怒っても無駄だと思うが、長かいお叱りだった。
まあ、ざっくりと要点だけまとめれば、母さんが言いたかったのは勝手に外に出るな、ってことだった。それが言いたいなら、最初からそう言えばいいのにな、と思った。
それから部屋に帰らされ、寝かされたのだった。
普段からお読みいただきありがとうございます。
この話、実はただの自己満足と暇つぶしで100話ほど書きだめ、せっかく書いたんだから投稿してみるか!! みたいな感じで掲載をはじみてみました。
だから思っていたんです。どうせ自己満足なわけだし、評価とかもらえなくても書き続けよう、って。思っていたんです。
だけどいざ掲載してみると、やっぱり、pvがあまり稼げないのは精神的に結構辛いものでした。
僕は考えてみました。pvが稼げなかったのはなんでだったんだろう、というふうに。
まずはプロットを立てずに書いていたこと。
最初は掲載する気なんてなかったから、ただ書ければいいかな、って。そう思っていたので、プロットを立てなかったんです。
おかげでストーリーは取っ散らかり、修正し修正し修正し……。そんなふうにしながらなんとか四話まで修正しました。
でもその修正の繰り返しは予想以上に大変でした。
そうして精神的に追い詰められ、修正後の話が面白くないものしか書けなくなってしまったのが一つ。
2つ目は文体です。
僕が小説を書きたいな、と思ったのは「幼女戦記」というライトノベルを読んだからでして、だから文体とかも、幼女戦記に憧れて書いていたんです。
でも憧れていたからといって、その文体が僕に合っていたか、といわれればそんなことはなく。
そして出来上がった僕の文も、なんだか僕の中でコレジャナイ感が拭いきれず……。
僕の心は折れてしまいました。なのでこの話が今後掲載されることはないかと思います。
短い間でしたが、ありがとうございました。(まだ続くよ!!↓)
なんてことをうだうだといってみましたが!! 実は心が折れたっていうの、嘘なんです。(エイプリルフールでもないのに、すみません!)
自己分析の結果、この話の改善するべき点はストーリー、文体でした。
というわけで、改善するべき点があるのなら、改善してしまいましょう!
一ヶ月後くらいには、この話の原型を留めつつ、読者の方々が読みやすいように改訂した、タイトルそのまんまのニューバージョンを投稿するつもりでいます!!
もしかしたらちょっと延びるかもしれませんが、放り出すことは絶対にしないのでご安心を!
皆様、一ヶ月後をお楽しみに!! (3日後くらいにはこの話、消すことにします)