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第二話 前世の記憶

 結局あの後、俺は女性に抱えられたまま何をされるわけでもなく廊下を連れ回され、安っぽい美術品を見せられて回った。


 俺にそうすることで、抱っこが下手くそなアマは一体何をしたかったのだろう。


 何か意図があるのだと思うが、俺にはちっともわからなかった。


 ただ、念の為にしておいた死の覚悟が無駄になって、本当によかったと思っている。


 そうしてしばらくして、俺は眠気に襲われた。


 やはり、体が赤ん坊だからだろうか。乳児は16時間ほど寝るというし、体が乳児になった影響が出てきていても何もおかしいことではない。


 俺は眠りに落ちた。眠くなっちゃうのは赤ん坊の性というやつなのだ。だから仕方ない。


 そんなこんなで目を瞑ってから少し経ち、俺の視界に光が写った。


 そして俺は、夢を見た。前世の夢。俺の名前が鈴木渡という名だった頃の記憶。心の奥底に焼き付けられた血の足跡。


 目を覚ました時、俺は赤ん坊の手をまじまじと見つめてみた。手を握り、拳を開き、感覚を確かめてみた。


「現実……」


その手はやっぱり俺のもので、現実だった。


さっき目を覚まし、俺はこの現実が夢なのではないかと思ってしまった。


 夢で見た前世の記憶を、つい昨日まで忘れてしまっていたことが信じられなかったから。


 俺は前世、裏社会で殺し屋紛いの仕事をして食ってきた。


 人として何か大切なものをすり減らしながら、たった一人の家族、妹を生かすために俺はその手を血に染め、汚し、生きてきた。


 俺の前世。それは成し遂げなくてはいけなかったことのために手段を選ばずひたすら殺し続け、金を集め、最後には集めきったが、その先を見届けることはできずに終わった。


 いわば碌でもない、血濡れた足跡の薄汚れた記憶だ。だが、だからこそ、そんなただ辛かっただけの人生だったからこそ、忘れてしまっていたことが信じられなかった。


「……でも、そんな前世があったからこそ、今があるのだとするなら……」


 悪くないかもな、と俺は思う。


 前世では、何をどんなに削ぎ落としてでも成し遂げたかったことを成し遂げる、その一歩手前まで達し、そして死んだ。


 だが、そしてその最後の一歩は死に際、妹に託したのだ。


 あいつは昔から聞き分けがよかったし、家族として俺のことも慕っていてくれたはずだ。


 だから俺が託した俺の人生を棒に振るような、そんな真似はしないだろう。しないはずだ……。……本当にしないよな?


 いや、棒に振らない。そのはずだ。そう思わないとやっていられない。もし棒に振られていたら、ちょっと前世の俺が不憫すぎて泣けてくる。


妹は俺がしたかったこと、その最後の一歩を引き継いで、ちゃんと踏み出してくれているはずだ。多分、絶対。……マジでしてくれているんだろうか?


 いや、もう考えんのやめよ。俺はそう思った。このままだと、どんどん疑心暗鬼が深まっていくだけだと思ったから。


 ……まあとにかく、最後の一歩は妹に託した。そしてどういうわけだか知らないが、俺は新たな人生を謳歌することができるようになったのだ。


 よく考えてみればデメリットはない。


 ……とか思っていたのだが、実際によく考えてみると一つだけあった。


「師匠の耐拷問トレーニング……あれについて思い出したのは、どう考えてもデメリットだな……」


 思い出しただけでも身震いしてしまうようなとんでもない記憶。あんなの、ずっと忘れていたかった。


 ああ、やっぱり、思い出しただけでも寒気がする。


 俺は『師匠の耐拷問トレーニング』についてはもう考えない、思い出さないことに決めたのだった。


「……でもどうするか。こっちの世界に転生したはいいが、目的がないな……」


 前世では一応生きるうえでの目標みたいなのがあった。だが、この世界にきたばかりの俺にそんな物はない。


「せっかく心機一転、読んで字の如くセカンドライフを送ることになったんだし……やっぱりなんか生きるうえでの目標的な物がほしいが……」


 俺はしばらく黙り込んで、考えた。


 俺は過去の、昨日までの自分にさよならを告げたのだ。だから俺は前世は前世、今世は今世として生きるうえでの目標、道標みちしるべがほしい。


 そうして考えた末、俺は答えにたどりついた。それは。


「まあ、生きてたらなんかそのうち見つかるか……」


 と、なんとも行き当たりばったりな感じの答えだった。


 だけどそもそも、この世界に生を受けて一年も経っていないような俺が人生の目標、生きる目的なんて大それた物を決めることができた方がおかしい。


 俺はそういうの、ゆっくり探して決めていけばいいかな、と思ったのだった。


「でも何をするにしても、言葉と文字がわからないと困るんだよな……」


 文字はまだいいとして、言葉がわからないのはさすがに困る。


 簡単な単語なら理解できる。そのくらいにはしておかなくては、いくらなんでもマズイだろう。


 俺は俯いて、思考を巡らせる。どうやってこの世界の言葉を学ぼうか、と。


「あ、そうだ……」


 そして俺は思いついた。言葉をできるかぎり早急に学ぶ方策を。


「うんうん。いいじゃないか。よし、これでいこう……」


 俺はかなりシンプルながら、効果は最も覿面てきめんであろう案を思いついた。そうして俺が自慢げに独り言を呟いていると。


〔声が聞こえるわよ? 誰かいるの?〕


女声で俺がこれから学ぼうとしている、例の謎言語が聞こえてきた。


この声は多分、あの子供を抱くのが信じられないほど下手くそなアマの物だろう。


〔入るわよ?〕


 そう何か言葉が聞こえた後、ドアノブがひねられた。低く唸り声をあげながら、扉が開かれていった。


〔あら? 誰もいないのかしら? おかしいわね……〕


 部屋の中に踏み込んだ女性は、何かを探すように部屋の中をキョロキョロと見回した。


 あのアマが何を探しているのかは知らないが、とりあえず俺の赤ん坊の演技は完璧らしい。


 俺はニヤニヤと笑いながらキャッキャッと声を出したのだった。

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 第三話は2025年5月11日に投稿予定です!!

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