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第一話 転生

 俺はどうしてか、何も見えない暗闇の中にいた。


 その暗闇は何故か暖かく、そんな暖かさは俺に心地よさを与えた。しかし、同時に俺は不安も与えられることになった。出どころのわからない心地よさが、俺の不安を煽ったのだ。


 俺はこの不安から逃れるために何でもいいから情報を得ようと、耳を澄ました。


 すると、ボヤがかかったような誰かの声と心臓の鼓動に似た一定のリズムが耳に直接響いてきた。


(……うるさい……。ここはどこなんだよ……。俺はどうなってんだよ……!)


 俺自身が今一体どういう状況に陥っているのか、様々な憶測が頭の中をよぎった。


 だが憶測は憶測のままただの想像でしかく、実際に俺自身の身に起ったのだと考えることができるような物は、一つもありはしなかった。


 俺は不安に耐えきれず、なんとかして逃げ出す方法を思案する。俺の周りは真っ暗な暗闇だった。が、なにかできることはあるはずなのだ。


 俺は不安を紛らわすためにも、思いついたことを片っ端から試していくことにした。


 まず俺は、無造作に片足を突き出した。だが突き出した脚はまるで水の中にいるかのような抵抗を受け、思い通りに動かすことができなかった。手応えもなかった。


 しかし、この程度で折れる俺じゃない。気合を入れてもう一度、先ほどよりもいくらか強く、足を伸ばした。


 すると、今度は手応えがあった。何か、ブニブニとした肉のような、柔らかい感触だ。なんだろう。めっちゃキモい。


 だが、何度も蹴れば、もしかしたら蹴破ることができるかもしれないと思った。俺は次々と蹴りを繰り出した。


 放った蹴りの回数が10回に達した頃だっただろうか。楽しそうな腹立たしい笑い声が耳に入った。俺のことを嘲笑っているのだろうか。


 クソ!! 笑うな! 俺のことを嘲笑うな!! 畜生が!!


 と。罵倒の一つや二つ、投げつけてやりたい気持ちになる。


 しかし俺は今、実はなぜか声を出すことができない。それどころか、呼吸すらしていないみたいだ。


 じゃあなんで生きてんだよ、と声が聞こえてきそうだが、俺にもよくわからない。むしろ俺が訊きたいくらいだし。


 さて当たり前のことだが、声を出すためには息を吸うことが必要だ。



しかし俺は今、なぜか声を出すことができない。それどころか、息すらしていない。


しかし、俺は今、なんでか知らないが息を吸うことができない。


 したがって、俺のことを嗤っている誰かに対して罵詈雑言をぶつける、そんなことは俺が呼吸できずにいる限り、絶対に叶わないわけだ。


 なんかめっちゃ悔しい。


 俺はそんな悔しさをバネに、脱出のために色々と現状でできることを試してみた。


 脚をバタバタしてみたり、更に何回か壁を蹴ってみたり、改めて声を出そうとしてみたり……とにかく色々だ。


 しかし、やるだけ無駄なのだということに気付くのに、そう長い時間は要さなかった。


 脚をバタバタしてみればすぐに疲れて動けなくなるし、蹴れば嘲笑うような声が大きくなる。


 なのに俺が声を出し、笑うな、と嘲笑う声の主に訴えかけることはどんなに頑張っても叶わなかった。


 息を吸うこと、吐くことすらできなかった。


 さあどうするか。俺は考える。


 これでやれることはすべてやってしまったし、できることももうなくなってしまった。


 そして、俺は悟った。あぁ。これは……アレだな……。アレなんだな。


(詰みか……。チェックメイトか……)


 と。そんなふうに。


よし。もう諦めよう。これだけやったのにどうにもならないなら、もうどうしようもない。


 そう開き直った俺だったが、あることをふと考えてしまった。


これから俺は、一体どうなるのだろうか、と。


 まあ、そこまで想像に難しいことでもない。


 呼吸もできないし、何も見えないし、大方これから死ぬことになるのだろう。


 死ぬのは死ぬほど嫌なのだが、何もできないのでは仕方がないから。


 俺は全てを諦め、静かに死を受け入れるかのように意識を手放そうとした。


 ……しかしどうしてだろう。


(……前にもどこかでこんな風に意識を手放したことがあるような気がするんだけど……どこでだったっけな……)


俺は思い出そうとしてみたが記憶にモヤがかかったようになっていて、上手く思い出すことができない。


そうしている間にも、俺の意識に向かって睡魔がゆっくりと手を伸ばしてきた。


(眠い……。確か、死に際も……こんな……)


 心の中でそこまで呟きかけて、俺は意識を手放した。


〜〜〜


 目が覚めると俺はなぜか、白い天井にぶら下がる、安っぽい木製のシャンデリアを見上げていた。


(ここはどこなんだろう? 病院か? まぁ、失血死寸前の人間が運び込まれる場所なんて病院以外にありえないし、病院なんだろうな……)

 

 そう考えてしまい、俺はふと不思議に思う。失血死寸前? なんで俺がそんなことになって病院に? 思い出せない。


 どうしてだろう。記憶が色々と混乱している気がする。なんで俺はここにいる? 俺は確か市内の港でターゲットを相手にしていて、それであいつが……妹が……そうだ、あいつは!?


 俺は反射的に起き上がって、妹を探そうとした。しかし、起き上がれない。


 なにかに拘束されている感じではなく、ただ力が足りなくて体が起こせないような……。


 よく感じてみれば、体が動かせないこと以外にも不思議なことがいくつもあった。


 妙に視界が狭かったり、視力が少し落ちているような気がしたり、とにかくたくさん。


 しかしそれらは不思議と同時に、何故か懐かしかった。俺はこの懐かしさにしばらく浸ることに――


 ――ってそうじゃないだろ。あいつは? 妹はどこにいるんだ……。


 ……いや、ちょっと待て。


 俺は自らの思考に待ったを掛けた。


 妹? 誰のことだったっけか……。


 俺は考えてみたが、全く心あたりが無かった。


 ……いや、今それはどうでもいい。それよりなんで体が起こせないんだ?


 俺はとりあえず立ち上がろうと身をよじり、手足をジタバタさせてみた。


 そしたら、視界の端に何かが映り込んだ。


 なんだこれ、と。俺はその視界の端にあったものに目を向けた。


 結論から言おう。視界に映り込んだそれは、クリームパンだった。


 正確にはクリームパンみたいな手、と言う方が正しいんだと思う。多分……。


(……なんでこんなものが俺の目の前にあるんだ?)


 そうしてそれを見つめ、観察しているうちに、俺は目を疑うことになった。


(うわ! 動いた!)


 クリームパンが動いた。それも俺の意思に沿って。


 俺が手を開こうとすると、クリームパンは開いて、小さな赤ん坊の手に。逆に握ってみると、小さな手は握られ、紛うことなきクリームパンへと変貌した。


 俺は面白くなってしばらくクリームパンを閉じたり、開いたりして遊んでいた。しかし、どうして俺の意思に沿ってクリームパンが動くのだろうか。


(……クリームパンを操る超能力でも開花したのか? それとも、この手って俺のだったりするのか?)


 考えうる限りでは、この二択だ。でもまあ、多分後者なのだろう。だって超能力とかありえないし。そもそもクリームパンを操る超能力って何だよ、って話だし。


 だがそれはそれとして、このクリームパンの件が超能力ではないとするのならば、それはつまり、俺は赤ん坊になった、と。そういうことになるのではないだろうか。


 ならば何故? 


 俺は中学三年生の15歳だったはずなのだ。それがどうして15年も退化して、赤ん坊になってしまっているのだろうか。


 俺は頭を捻ってみたが、それを考えるためにはまだ情報が足りなかった。俺は周囲を見渡し、判断材料を探す。


 白い壁に白い天井、木製の床、木製の大きめの扉。ここまでなら割と普通だが、普通でないのはこの部屋を照らす光源だ。


 ランプやろうそく。電気が主流となった今の時代では考えられない。明らかに文明レベルが後退している。


(ふむ……どこかで見たことがあるようなシチュエーションだな……)


そう、見せられたことがある。なんか流行ってたアレ。主人公が死んで、別の世界に生まれ変わり、そっちの世界で色々と活躍するアレ。


(異世界転生……)


 俺は心の中で静かに呟く。しかし、だとするならば俺は死んだことになる。ならばどうして死んだのか。


 俺は異世界に転生した理由、死因を思い出そうと記憶の霧に片手を突っ込んだ。が、その瞬間、突如として俺の頭部を激痛が襲った。


(痛……)


 少しは耐えたが、あまりの激痛に俺は思わず思い出そうとすることをやめてしまった。


 その後も俺は覚悟を決め、何度か思い出そうとしてみたが、その度に激痛が俺を襲った。


(うっ……。やっぱり無理。もう限界だ……)


 俺は十数回目の挑戦の時、ついに心を折ってしまった。肉体が赤ん坊だからか、普段よりもずっと体に響くのだ。


 にしても、赤ん坊の体は本当に貧弱だ。赤ん坊じゃなければこんな痛み、俺にはまったく効くはずがないのだから。なにせあの師匠の対拷問トレーニングが……。


(ん? 師匠? 師匠って誰だ?)


 それに突然、頭痛との比較対象に現れた『師匠の対拷問トレーニング』とかいうパワーワード。


(いや、そもそも何だよ対拷問トレーニングって……。物騒すぎるだろ……)


 そう考えた瞬間、俺の脳裏を何かえげつないものが悪寒をばら撒きながら過ぎていったような気がした。


 おかげで俺は不意に身震いをしてしまったのだった。


(思い出そうとするのは……やっぱりもうやめとこ……。対拷問トレーニングとかヤバそうだし……絶対思い出したくないし……)


 俺は対拷問トレーニングに関する記憶の一切を思い出さないようにするため、自身の前世について考えるのはやめにした。


 そんな時、突然俺の耳に物音が飛び込んできた。


 俺は反射的に物音の方向、この部屋の扉へ目をやった。


 扉の側には茶髪のメイドが一人立っていた。そしてその向こうから二十代くらいの女性が一人、更にその後に続いて、まったく同じ顔の男児が二人、俺がいた部屋に入ってきた。


〔あ! お母さん! リグ、起きてる! こっち見てる!〕

〔あら。本当ね〕


 俺が知る限りではどれにも当てはまらない謎言語を口にしつつ、女性は優しく俺のことを抱き上げる。


 女性はよくわからないことを口走り、俺の背中を優しくぽんぽんと叩きながら体を揺らした。


 すごく屈辱的なので本当にやめてほしい。


〔母さん! リグと行こう! 僕、リグに見せたいのがある!〕

〔うん! それいい!〕


 男児がそれぞれ言った。


〔じゃあ皆で行きましょう。さぁ、リグ。こっちよ〕


 女性はそう言って、俺を抱えたまま扉の外に歩き出した。どこに連れて行かれるんだろう、と俺の脳裏に一抹の不安がはしる。


 しかし、赤ん坊の俺がたとえ何をどう足掻こうとも所詮は赤子。どうやったってなるようにしかならない。


 だって俺のどんな行動も、それこそ赤子の手をひねるよりも簡単にねじ伏せられてしまうのだから。


 俺は流れに身を委ね、念の為死を覚悟した。


 ……ところでこの女、赤ん坊を抱くのが信じられないほど下手くそだ。さっきから歩く度に首がガクンガクンして馬鹿にならないほど痛い。


〔お母さん、早く行く!〕


 子どもが謎言語で何かを言い、女性が幸せそうに微笑んだ。俺は何笑ってんだよ、と心のなかで女性に罵倒をぶつけた。


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