閃光
リサ・モリスは、NASAの屋上から空を見上げていた。
空は、もはや空ではなかった。
地磁気が崩壊し、大気が宇宙空間へ流出したことで、空は漆黒に染まり、星々が異様なほどはっきりと輝いていた。
それは、美しくも、恐ろしくもあった。
「まるで、もう地球じゃないみたいね……。」
隣に立つジャックが、静かに頷いた。
「地球は、もう地球じゃなくなったのさ。」
彼が指をさした先で、大気の乱流が発生し、燃え盛るオーロラのような光が渦巻いていた。
「上空の酸素が燃えてる……?」
リサは、ぞっとした。
酸素が消失しつつある今、大気圏では小さな隕石ですら燃え尽きることなく落下し、火の雨のように地上を焼き尽くしていた。
NASAのモニターには、地球各地の崩壊が映し出されていた。
•アフリカのサハラ砂漠は、地殻の陥没によって巨大な裂け目と化した。
•ヨーロッパのアルプスは、気圧の異常低下により山々が一瞬で崩れ去る。
•アジアの沿岸都市は、海の蒸発によって陸地がむき出しになり、ひび割れている。
•アメリカ大陸では、重力異常によって建物が浮き上がり、やがて崩落していく。
地球は、もはや惑星としての形を保てなくなっていた
彼は、ゆっくりと空を指さした。
「見ろよ、リサ。」
リサが見上げると、夜空に向かって飛び立つ最後のシャトルが見えた。
「これで……地球に残るのは、俺たちだけか。」
ジャックの言葉に、リサは静かに頷いた。
「私たちは、この星と運命を共にする。」
ジャックは、苦笑しながら肩をすくめた。
「悪くないな、こんな最期も。」
「本当に?」
「もちろんさ。俺は、この星で生まれた。この星で死ぬのも、悪くない。」
リサは、静かに微笑んだ。
「ジャック、ありがとう。あなたと一緒にここまで来られてよかった。」
ジャックは照れ臭そうに笑いながら、リサの肩を軽く叩いた。
彼は、夜空を見上げた。
「……リサ、お前は、まだ後悔してるか?」
リサは、少しの間、沈黙した。
そして、ゆっくりと首を振った。
「……もう、してない。」
ジャックは、リサの肩を抱き寄せた。
その瞬間——。
地球のコアが、限界を迎えた。
大地が轟音とともに裂け、地殻が崩壊していく。
リサとジャックの立つNASAの建物も、ゆっくりと沈み始めた。
リサは、目を閉じた。
空には、最後のシャトルが、小さな光点として浮かんでいた。
そして——
地球は、閃光とともに崩壊した。
地球は完全に崩壊し、全てが静寂に包まれた。だが、リサの心の中では、家族との絆が最後の力となり、世界が崩れていく中でも、愛だけは残った。
宇宙船の中で、選ばれた人々が地球の最期を見つめていた。
「……もう、帰る場所はないのか。」
船内の誰かが、呟いた。
「これから、どうする?」
「分からない。でも、生きていくしかない。」
その船内の一室——。
少女が、目を開ける。
窓の外には、何もない。
かつてそこにあったはずの地球は、どこにもなかった。
少女は、震える指で窓に触れた。
そして、小さく息を吸い込む。
エミリー・モリスは、宇宙の闇の中で目を覚ました。
これで完結です。ご愛読ありがとうございました。