滅びの境界線
「……地球は、もう持たない。」
リサ・モリスは、NASAの最新解析データを見つめていた。
マントル対流の異常活性化——それは、地球の寿命を数百万年単位で縮めるどころか、あと48時間で崩壊させる結果となった。
「地殻の崩壊速度が加速してる……。あちこちで大規模な陥没が発生し、地表の重力が乱れ始めてるわ。」
「地球全体の膨張と収縮がランダムに起こっている。」
ジャックが指を滑らせながら画面を拡大する。
「重力異常が局所的に発生してる地域がある。たとえば、アフリカ北部では重力が一時的に増大し、人間の歩行すら困難になった。逆に、南米の一部では重力が弱まり、物体が浮遊する現象が発生している。」
リサは目を閉じた。
「……コアのバランスが完全に崩れたのね。」
地球の核は、マントルの流れによって安定を保っている。だが、爆発による影響で流れが予測不能なほど加速し、コアの膨張と収縮が繰り返されているのだ。
「このまま進めば、いずれコアの圧力が限界を超え、地球が内側から砕ける。」
ジャックが乾いた笑いを漏らした。「皮肉なもんだな……地球を救おうとした結果が、これか。」
NASAの緊急会議では、各国の代表が映像越しに集まっていた。
「日本の関東地方が沈降を始めました。」
「ニューヨークのマンハッタンが、部分的に崩壊した。」
「中国の黄土高原では、地面が裂けて発光する現象が発生。おそらく、地下のプラズマエネルギーが噴出してる。」
地球の終焉は、もはや時間の問題だった。
「残された選択肢は一つ——人類を可能な限り脱出させる。」
「各国の宇宙機関が、緊急避難用の宇宙船を発射する計画を進めています。」
NASAのスタッフが情報をまとめる。
「乗員は最大10万人。人類の総人口の0.001%にも満たない……。」
リサは苦々しく呟いた。「それで、人類が存続できるの?」
「生存確率は低い。でも、地球に残れば確実に死ぬ。」
「……。」
リサは視線を落とした。
「リサ、お前は優先リストに入ってるぞ。」
ジャックが言った。
だが、リサが探した名前は、ただ一つだった。
エミリー・モリス——彼女の娘の名前は、リストにはなかった。
リサは電話をかけた。
「ママ……?」
エミリーの声が震えている。
「迎えに行くわ。」
「ママ、こっちの空が変なの……赤くて、光ってて……。」
リサの胸が締め付けられる。
「大丈夫。ママが絶対に守るから。」
彼女は、地球最後の選択をしなければならなかった。
科学者として宇宙へ向かうのか、それとも母として娘と共に残るのか。
そして、彼女は決断した——。