最後の賭け
「これは、単なる地殻変動なんかじゃない……。」
リサ・モリスは、研究所のスクリーンに映し出された地震データを見つめていた。
砂漠の裂け目は、もはや亀裂というレベルではなかった。地下のマントル層にまで達し、地殻が支えを失い崩壊を始めている。
だが、それだけではない。
「地球全体の密度が、わずかに低下している……?」
リサは眉をひそめ、データを拡大表示した。
「質量保存の法則に反するけど……何かが、地球内部で“消えて”いるとしか思えない。」
NASAの地球物理学者が、別の観測データを提示した。
「地球のコアが、不安定化しています。通常ならマントル対流が均衡を保つはずなのに、対流が極端に遅くなり、コアの圧力が異常に蓄積されている。」
「つまり?」
「地球内部の熱が逃げ場を失い、膨張しつつある。このままでは、地殻全体が内側から崩壊する。」
リサの心臓が一瞬止まったように感じた。
「そんな……。」
ジャックが苦々しく呟く。「このままじゃ、地球のマントルが対流を完全に停止し、地殻ごと崩れ落ちる。」
その夜、リサはエミリーとビデオ通話を繋いだ。
「ママ、もうすぐ帰ってくるんでしょ?」
エミリーの瞳には、不安が滲んでいた。
「もう少しだけ……あと少しだけ待ってね。」
「……ママ、本当に大丈夫なの?」
リサは胸が締め付けられるような思いだった。
「大丈夫よ。ママは、絶対にエミリーを守るから。」
そう言いながら、自分の言葉に確信が持てない自分がいた。
「このままじゃダメだ……何か手を打たないと!」
リサは世界中の科学者と緊急会議を開いた。
「マントルの動きを元に戻す方法は?」
「通常ならプレートの動きや火山活動が自然に調整するが、今回はコアの膨張が極端すぎる。熱と圧力が均衡を失い、地殻が崩れようとしている。」
「じゃあ、コアにエネルギーを与えて、一気に熱対流を活性化させるのは?」
NASAの科学者が、一瞬沈黙した後、慎重に答えた。
「……それは、核爆発級のエネルギーを注入するってことか?」
リサは真剣な眼差しで頷いた。
「そうよ。マントル対流を再起動させるために、人工的な爆発を起こす。」
会議室は一瞬静まり返った。
「そんなこと……本当にできるのか?」
「理論上は可能。でも、もし失敗すれば——」
「地球は即座に崩壊する。」
リスクは大きすぎる。
だが、もはや他に選択肢はなかった。
「爆発の規模は?」
「核弾頭10,000メガトン相当の爆発エネルギーが必要だ。」
「そんな量、どこに?」
「各国の核弾頭を集約すれば可能だ。」
人類が築き上げた最も破壊的な兵器を、地球を救うために使う——。
皮肉な話だった。
砂漠の裂け目に、巨大な耐熱カプセルが降下する。
「目標地点まであと3000メートル……。」
爆弾は、マントル対流の停滞点に送り込まれる。
「起爆準備完了。」
「カウントダウン開始。」
10、9、8……
リサは画面を見つめながら、祈るように手を握る。
「……お願い、動いて。」
3、2、1——起爆。
次の瞬間——。
轟音とともに、地球全体が震えた。
リサは息をのんだ。
「どうなった!?」
観測データが急激に変化する。
「マントル対流が——」
だが、その後に続いた言葉は、絶望を意味していた。
「……暴走してる!!」
マントルの流れが活性化しすぎ、異常な速度でマグマが膨張を始めた。
「くそっ……! 熱圏のバランスが崩れた!!」
「地殻が耐えられない! 地球全体が……!!」
次の瞬間——。
大地が割れた。
「地球は、もう持たない……。」
NASAの最新解析が示したのは、地球があと48時間で完全崩壊するというデータだった。
「もう、地球を救う方法はない。」
「人類を脱出させるしかない……!」
「だが、全員は無理だ。」
地球に残るか、宇宙へ逃げるか——。
リサは、最後の選択を迫られた。