表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

終末の足音

リサ・モリスは、研究所の薄暗いラボでスクリーンに映る最新のデータを見つめていた。


アメリカ中西部の砂漠地帯に突如現れた亀裂は、予想をはるかに超える速さで拡大していた。わずか数週間で裂け目の幅は数十キロに広がり、最新の観測では深さが計測不能になっている。


「こんなペースで広がるなんて……。」


隣でジャックがデータをスクロールしながら息を呑んだ。


「リサ、地下の構造が崩壊し始めている。熱流の上昇速度が異常だ。」


リサは彼の言葉に頷き、画面に映る地震波のデータを指さした。


「これを見て。通常の地震波とは違うパターンよ。まるで地殻が空洞の中に崩れ落ちているみたい。」


「つまり……地球の内部が崩壊しつつある?」


ジャックの言葉に、リサの胸が締め付けられた。


「もしこのまま進行すれば、地球のバランスが崩れ、全体が連鎖的に崩壊する可能性がある……。」


彼女は画面を睨みながら、考えを巡らせた。この現象の原因は何なのか? どうすれば止められるのか?


その答えは、まだ見えなかった。


その夜、リサはホテルのベッドに腰掛け、エミリーとのビデオ通話を繋いだ。


「ママ! 今日は学校で宇宙の勉強したんだよ!」


エミリーの無邪気な声に、リサは自然と微笑んだ。


「そうなの? どんなことを習ったの?」


「ブラックホールの話! なんだか、ママが調べてる地球の穴みたい!」


リサの胸に、ズキリと鋭い痛みが走った。


「……そうね。でも、ママが調べてる穴は、ブラックホールとは違うの。」


「でも、大きくなったら、地球がなくなっちゃうの?」


エミリーの言葉に、リサは一瞬言葉を失った。


「……そんなことにはならないわ。ママがちゃんと止めるから。」


そう言いながら、自分の言葉に確信が持てない自分がいた。


「ママ……今度こそ、約束守れる?」


リサはエミリーの瞳を見つめた。その問いは、母としての彼女を突き刺した。


「もちろんよ。すぐに帰るから。」


しかし、彼女は知っていた。今は、帰ることすらできないかもしれない状況にあることを。


翌朝、リサたちは再び砂漠の亀裂へと向かった。


空には奇妙な赤黒い雲が広がり、風は灼熱の空気を運んでいた。裂け目の周囲では地表がわずかに波打ち、遠くで微かな地鳴りが聞こえる。


「なんだ、この音は……?」


ジャックが足元を見つめると、砂が静かに渦を巻くように沈んでいくのが見えた。


「まるで、大地が吸い込まれているみたいだ。」


リサは慎重に裂け目の縁へと近づいた。


その瞬間——。


ズズズズ……!


突然、裂け目の奥深くから、巨大な光の柱が噴き上がった。


「な、何だ……!?」


光はただの発光ではなかった。まるで大地そのものが輝いているような、未知のエネルギーだった。


「これは……何かが地下で変化している証拠かもしれない……。」


リサはすぐにスペクトル分析を試みた。


「この光……地球のコアの成分に近い……? でも、なぜこんなところから……?」


ジャックは呆然としながら、計測データを確認した。


「重力場がさらに乱れている。もう、この地域は通常の物理法則が通用しなくなってるかもしれない。」


「つまり……地球そのものが崩れつつあるってこと?」


リサの言葉に、ジャックは押し黙った。


もはや、理論では説明できない領域に踏み込んでいるのかもしれない。


研究所に戻ったリサは、世界各地の研究者たちと緊急オンライン会議を開いた。


「このままでは、地球の地殻が崩壊し、内部の圧力バランスが崩れる危険があります。」


「つまり、それは……?」


画面の向こうで、日本の地震学者が慎重に尋ねる。


「地球全体が、収縮し始める可能性がある。」


静寂が会議を包んだ。


「それが意味するのは、地球の自壊……?」


リサは小さく頷いた。


「まだ確証はありませんが、もしこの現象が止まらなければ、最終的に地球は耐えきれず、内部から崩壊する可能性が高い。」


会議室は重苦しい沈黙に包まれた。


「解決策は?」


「今のところ、まだないわ。」


リサの胸に、焦燥が募った。


彼女はエミリーとの会話を思い出す。


「ママ……今度こそ、約束守れる?」


(私に……この地球を救うことができるのだろうか?)


彼女は深く息を吸い込み、スクリーンを見つめた。


「何があっても、この地球と、私の家族を守る。」


たとえ、それがどんな絶望の先に続いていようとも——。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ