第6話 二万七千円の現実
アニセカ小説大賞に応募しています。
よかったら読んで行ってください。
異能アクションありのオカルティックコメディです。
「わぁぁ……ひろーい♪」
「2LDKだからな。元々ファミリー用に設計されているから一人暮らしじゃ広すぎるくらいだよ」
「あ、大きな冷蔵庫ある! 洗濯機も! ねえ、もしかしてここの家具って備え付け?」
「いや、違うよ。前に住んでいた人が置いて行ったんだ。今年出たばかりの最新式だし、処分するのがもったいないからそのままにしている。使いたけりゃご自由に」
「マジで!? やったー! もうわざわざコインランドリーに行かなくて済むぅ♪」
コインランドリーは遠いと結構面倒だ。
洗濯終了まで見張らなければいけないし、自宅に洗濯機があるのはありがたいだろう。
けどまあ、すぐにコインランドリー最高と思うようになる。
今までお持ち帰りしてきた女子たちと同じように。
「キッチンも広いしおしゃれだし、料理の作り甲斐がありそうね」
「あれ? 物部って料理できるの?」
「できるけど? あ、もしかして私のこと料理ができない女とか思ってるんでしょ? できるからね? 小さい時から両親に鍛えられていたから、食べられるものならなんだって調理できちゃうんだから」
「ふーん、じゃあセミとか調理できる?」
「何でセミなの!? っていうか、セミって食材なの!?」
セミは食材です。
タケオオツクツクという中国から入ってきた外来種のセミは特に美味い。
どれくらい美味いかというと、高級店のシェフが作るこだわりのスープくらい美味い。
――いやあ、去年の夏頃は本当にお世話になったぜ、竹夫くん。
農学部の友達や教授と一緒に捕まえまくってラーメンを作ったところ、これがめちゃくちゃ美味かった。
そのおかげで特定外来生物の駆除という非常にメンドくさいアルバイトが、とっても美味しいグルメな思い出に書き換わった一郎だった。
――夏まであと三ヶ月か……
――今年もやってくれないかな、教授。
「ふぅ……やれやれ。セミを調理できないくせに『何でも調理できる』とか。そんな料理上手の虚偽申告はミスコンなら通じたかもしれないが、この俺には通じんな!」
「いや……だって普通セミは食べないでしょ……」
「住む世界が違うやつの考え方だな。充実した食生活を送れるセレブな学生は、毎日雑草やパンの耳を食べる貧乏学生の食べるものなどわからないか」
「きみはセレブ側の人間じゃないの! こんな億ションの最上階に住んでて貧乏アピールなんてしないでくれる!?」
まあ、それはそうだ。
貧乏生活は一郎がある目的のために自主的にやっているので、偽貧乏と言われてしまっても仕方がないのかもしれない。
「ところで田中くん、ここにきて疑問に思ったんだけど」
「うん?」
「どうして貧乏生活なんてしているの? 合コンでガチ食いをしていたから、好きでやっているわけじゃないんでしょ?」
「そりゃね。誰も好き好んで貧乏生活なんてしませんよ。 大昔の苦行僧じゃないんだし」
「じゃあどうして?」
「ああ、それは……お、もうここに来て15分も経過してたのか。じゃあきっと――」
――すぐにわかるよ。
――ガタガタガタガタガタガタ!
――ガタガタガタガタガタガタ!
きたきた。
「え!? 何!?」
「ポルターガイストだよ。知らない? 物が勝手に動くやつ」
「そのぐらい知ってるわよ! え? 何どういうことなの!?」
「どういうことも何も、こういうことだよ。っていうかおかしいと思わなかったのか? 一部屋月額ウン十万からウン百万の部屋を二万七千円で貸してやるとか、何かやばい理由があるに決まってるだろ」
ここに来るまで、他にも不自然なことは色々とあったはずだ。
他に住んでいる人が一人もいないとか。
オーナーの息子とはいえ、コンシュルジュがマスターキーを預けるとか。
「お、納まったな。知ってるか? ポルターガイストが起こった後ってちょっと暖かいんだぜ?」
呆然としている幽子を無視して一郎は続ける。
「このマンション全体に幽霊が出るんだよ。だから俺以外誰も住んでいないし、家賃も意味がわからんくらい安い」
そう説明すると、ピシッと小さな音がテレビから鳴った。
「で、どうすんの? 引っ越すの? こんなこと言われてるけど」
出て行け
よかったら評価をお願いします!