表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/44

エピローグ 夏の始まり

アニセカ小説大賞に応募しています。

異能アクションありのオカルティックラブコメミステリーです。

ラノベ一冊分の分量なので、よかったら最初から読んでみてください!


これにて完結です!

お付き合いいただきありがとうございました!

 武山麗華(たけやまれいか)消息(しょうそく)(ふたた)び確認されたのは、彼女が自宅(じたく)から消えて三日後のことだった。


 時刻(じこく)深夜(しんや)0時――居酒屋(いざかや)帰りの大学生が、聖蹟桜ヶ丘(せいせきさくらがおか)駅前のコンビニ近くにある廃品回収(はいひんかいしゅう)場所にて、ゴミ(ぶくろ)()もれていた彼女を発見した。


 彼女は非常(ひじょう)衰弱(すいじゃく)していたが、発見後すぐに救急搬送(きゅうきゅうはんそう)されたため命に別条(べつじょう)はなかった。


 現在意識(いしき)を取り戻したため、自宅からの突然の失踪(しっそう)の理由とこの三日間どこでどうしていたかを警察(けいさつ)は質問したが、(たず)ねる度に(ひど)錯乱(さくらん)するため捜査(そうさ)難航中(なんこうちゅう)である。


 発見時に彼女が所持(しょじ)していたスマートフォンに何らかの手がかりが残されていることを期待(きたい)したい。


 ……

 …………

 ………………


「あれ? ねこっち?」

猫山(ねこやま)さん?」

「お、ゆーちゃみといっくんじゃん。二人も(ひめ)のお見舞(みま)いに来た感じ?」


 麗華の様子を見に来た帰り道、幽子と一郎は帝央(ていおう)大学病院の入り口にて友人の猫山寧々子(ねねこ)と出会った。


「まあ、そんなとこ」

「どうでもいいけど俺ときみって今日で会ったの三回目だよな? 実質(じっしつ)二時間くらいしか一緒(いっしょ)の時間を()ごしていないわけだが、いっくん呼ばわりはどうなんだろう?」


(こま)けえことは良いんだよ! ほら、よく言うでしょ? 友情は時間の長さに関係ナッシングって。一緒に飯食って酒飲んだ(なか)じゃん。もう友達通り()して親友(マブダチ)だろコノヤロー♪」


 ギャルの親友認定(にんてい)早いな――と一郎は思った。

 幽子の友達だし、裏表のない素直(すなお)な子だし、まあいいか。


「もう行ってきたんでしょ? 姫の様子どうだった?」

「まあ、何というか……」


「行かない方がいいかも……」

「え? マ? そんな(ひど)いの?」


 無言で幽子が首肯(しゅこう)する。

 目は(くぼ)み、(はだ)はガサガサ。


 極度(きょくど)栄養失調(えいようしっちょう)で全身は()(ほそ)り、肋骨(あばらぼね)がくっきりと()かび上がっている。


 何があったのか分からないが、恐怖(きょうふ)(かみ)の半分が()()白髪(しらが)()じりに。

 その上全身に歯形(はがた)のような(あざ)(きざ)まれ、かつての容姿(ようし)は見る(かげ)もない。


「今は鎮静剤(ちんせいざい)(ねむ)っているけど、()きている間はずっと錯乱(さくらん)しているみたい」

「泣いて(あやま)りながら失禁(しっきん)()(かえ)しているとか何とか」


「そんなにかー……じゃあお見舞いとかしない方がいい感じっぽいなあ。退院後を考えるとそんな姿見られたくないだろうし」


 退院――正直できるかは(あや)しいと思う。

 幽子の見立(みた)てでは、彼女の心は半分ほど食われていた。


 心が元通りになるまでには長い時間がかかるだろう。

 また、元に戻ったとしても、もう普通(ふつう)の生活が送れないことは確定(かくてい)している。


 今回の失踪事件を調べる過程(かてい)で、彼女のしてきた動物への虐待(ぎゃくたい)が明るみに出たのだ。

 こちらの(けん)も警察が調べているので、外部に()れるのは時間の問題だろう。


 犬の血で湯浴(ゆあ)みする女子大生。

 現代のエリザベート=バートリー夫人。


 そんな見出しでマスコミが(さわ)ぎ立てるのはそう遠くない。

 彼女の両親もこの件に関わっているため、実家の方も大炎上待ったなし。


 恐怖に心を(むしば)まれたままの入院生活と、退院後に一生石を投げられるであろう生活。

 どちらにしても彼女に待っている今後の人生は地獄(じごく)以外にない。


「やっぱあたしこのまま帰るわ。二人とも車で来てるんでしょ? 乗せてってよ」

「いいけど、ちょっと()り道するぞ?」


「どこに?」

「武山さんの住んでた方の家。五匹ほど犬がいるのよ」

「彼女がああなっちゃったから世話(せわ)しているんだ」


 ……

 …………

 ………………


 武山邸に到着(とうちゃく)した三人は裏庭のドッグランへ向かった。

 五匹の犬はのびのびと(あそ)んでいたが、三人の姿を見るなり(おび)えて小屋の中に逃げてしまう。


 しかし、この数日世話をしたことで幽子と一郎の(にお)いを(おぼ)えたのか、(おそ)る恐るだが姿を見せてくれるようになり始めている。


 もうしばらく人間に()れてくれたら、信用できるブリーダーさんを探して(たく)すのがいいだろう。

 (つら)い目に合ってきた犬たちだから、今度こそ幸せになって()しい。


「あぁ~♪ かわいい♪ うちの子にした~い♪」

「猫って名前に入っているのに犬が好きなの?」


「うっせえな(笑)。犬も猫もかわいいからいいんだよ!」

「そんなかわいい存在にめっちゃ怯えて距離(きょり)取られてるんだが」


「うぉぉぉぉ……マジでショック! こらーっ! お前らあたしにびびるな! 仲良くしろーっ!」


 寧々子が犬たちを追いかけ回す。

 犬たちのストレスにならないかちょっと心配だが、まあ大丈夫だろう。


 犬は他者の感情に(さと)い動物だ。

 寧々子に敵意(てきい)がないことはそのうちわかる。


 犬たちのことは寧々子に(まか)せ、二人はその場を(はな)れて犬たちの(はか)へ向かう。

 二人でしゃがんで手を合わせた後、一郎は父親に電話をかけた。


 麗華のやったことは近いうちに世間(せけん)に広まり、この屋敷(やしき)と土地はワケあり物件として売り出されるのは間違いない。

 その時に安く購入(こうにゅう)しておけば、後々実家の利益(りえき)になる。


 何より実家の物にしておけば、その間はここで眠る犬たちが静かに()らせるだろう。

 ワケあり物件が適正相場(てきせいそうば)に戻るには、長い時間が必要だから。


 ――ワンッ。


 そろそろ帰ろう――と、影から出てきたロクが()えた。

 二人はロクをひと()ですると立ち上がり、一礼してその場を後にする。


「なあ、幽子」

「うん?」


「今回の件、多分ロクも……」

「私もそう思う。見つけた場所が場所だったから……」


「俺、武山さんを許せねえよ。正直、あんなになって可哀想(かわいそう)だとか微塵(みじん)も思ってない。ざまあみろっていう気持ちしか()かないんだ」


 彼女のやったことは動物虐待(ぎゃくたい)、命への冒涜(ぼうとく)だ。

 今あんなことになっているのは当然の(むく)いだと思う。


 でも、どんな罪であれあんな姿を見てしまったら、まともな人間ならば多少なりとも同情(どうじょう)(ねん)(いだ)くのが普通だと思う。


 自分にはそれがない。

 (まった)くそんな気持ちが浮かばないのだ。


「自分じゃまともだと思っていたけど最近まで(かる)(こじ)らせてたし、俺……人としてどこか(こわ)れているのかな?」


「別にそれでもいいんじゃない?」


 わりと重い質問にも関わらず、幽子は実にあっけらかんとそう答えた。

 どうでもいい――と。


「社会生活に問題なければ壊れてようがそうでなかろうが関係ないわ。人間の心なんてだいたいどこか大なり小なり壊れてるもんよ。子どもの(ころ)ならともかく、大人になるにつれ社会に()まれて、精神すり()らしていくわけだし、どこか()けるのが普通でしょ」


「……そんなもんか」

「ええ、そんなもんよ。だからその程度(ていど)の壊れ方で気に()む必要は一切(いっさい)なーし! っていうか、一郎くんの壊れ具合(ぐあい)なんてせいぜいこんなもんだし」


 そこらに落ちていた木の(えだ)(ひろ)って、両手でペキンと()()げた。


「ぶっちゃけ私なんてこんなもんじゃないから。悪霊が()んでるワケあり物件(ぶっけん)大好きで、ストレス解消(かいしょう)のためにイジメ()いて精神的(せいしんてき)()()めるのが趣味(しゅみ)の女よ、私? 壊れ具合を(たと)えたら只今(ただいま)絶賛(ぜっさん)半壊中(はんかいちゅう)の武山さん()、もしくはそのご家庭(かてい)レベルだもん。やべー女だと思わない? やばいくらいぶっ壊れているわよ?」


「自分がやべー女だという自覚(じかく)はあったんだな」

「もちろん。悪霊イジメるの大好きとかやべー女以外の何者でもないでしょ。でも、私はそのやべー部分と上手く付き合えているもん。だから、全く気にしていないわ」


 (むね)()って幽子は言う。

 その言葉に一郎は心が軽くなった。


「さてと、もう少し歩くペース上げよっか。話しているうちにロクの姿見えなくなっちゃったし」

「そうだな。早く追いついて影の中に入れないと猫山さんに見つかる」


「いやいや、ねこっちにロクは見えないでしょ」

「わかんないぞ? 猫って苗字(みょうじ)に入っているから霊感(れいかん)強そうなイメージあるし」


「もし見つかったら何言われるかな?」

「あたしも欲しい一択(いったく)じゃないか? 幽霊だからって差別(さべつ)しなさそうだし」


「そしたらあげる?」

「あげるわけないだろ。ロクは俺ん()()だぞ。成仏(じょうぶつ)するまで面倒(めんどう)見るさ」


 そして面倒を見ている間は、できるだけ幸せな時間を作りたいと思っている。

 その時間を作るためには、自分一人では役不足(やくぶそく)だとも。


「幽子」

「何?」


 (なら)んで歩く幽子に、一郎は唐突(とうとつ)に話しかける。


「好きだ。俺と付き合ってくれ」

「うん、いいよ」


 五月の下旬(げじゅん)――春の終わりに一組のワケありカップルが誕生(たんじょう)した。

 今年はきっと『熱い』夏になる。

 (つな)いだ手の間に生まれた(あせ)が、一郎にそう予感させた。

流行ジャンルじゃないけど書いてて楽しかったです。

予定通りのラノベ一冊分の文量にまとめられたし、好きなように好きなものを書けて満足しています。


評価ポイントをポチってくれたり、お気に入りに登録してくれるともっと満足できるし嬉しいので、よかったらポチッとお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ