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2、何でもない日常


「で、お兄ちゃん成績どうだったの?」

「にひひ、全国58番」

「やばぁ、きもぉ。勉強オタクキモ…キモ」

「聞いておいて、それはなくない?」

うちには親は家族はいない。だからこの広い家には俺と妹の渚の2人しか住んでない。

保険金?がおりたようで家のローンばかりでなく、当分の生活に困らないお金が樹神家には支払われた。

特に身寄りの無い俺たちはそのまま元の家に住み、生活を続けている。

当然、お金の管理は…妹だ。

妹は中学校の成績こそ悪いものの要領がよくしっかりしている。いかにもスポーツやってますと言わんばかりのミディアムショートの運動系少女。

でも実は部活に入っていない。

「ね、キモオタ」

「お兄ちゃんにそれはやめなさい」

ってか別に全くオタクじゃないからね。ってか勉強オタクってなんだよ。

「ね、最近、勉強頑張ってるのってさ…やっぱり」

渚が珍しく歯切れが悪そうな顔をしている。

「あー。まぁ確かにいい大学行って大企業に入って生活に困らないようなお金を稼げるようになりたいからだよ。それこそ渚が金の心配なんかしなくていいぐらいにな」

ドヤ顔で言う。

「やっぱりね…。ってか全部いうなよ。…内緒にしておけばかっこいいのに」

ボソボソ言ってて最後の方はあまり聞き取れなかった。

「ってか私が大学に行く時、就職するんだからまだお給料貰ってないんじゃ…」

「うっ」

「本当抜けてるキモオタ兄…」

そう。いくら成績がよくても、俺は弱虫で間抜けなままだ。


学校に着いた。

隣の女子が僕を見てる。

「ねぇ、聞いた?あの話」

「え、なんのは」

なしって言おうとして、俺に聞いたんじゃなくて俺の隣の女子に聞いた話だと気づいて口を噤む。

ってか、俺越しに会話するなよ。おかげで途中でもごもごしてよりキモオタ感出てしまった。

…いかんな、妹にキモオタって言われすぎて自己暗示がかかってる。

「いや、2組の飯田さん。まだ帰ってこないって」

狭い田舎の高校だ。こんな感じで誰かの噂話はあっという間に広がる。

俺は窓の外を飛ぶカモメを見ながらボーッとその噂話を聞いていた。初夏の陽気に心が落ち着いてくる。

「おーっし、席につけ!」

今日も一日が始まる。

「おい、優希」

「あいよ」

横の幼なじみが話しかけてくる。

「お前、今日、宿題やってきたか?」

「やってきたけど、洋には見せない」

「えっ、なんでだよー!」

こいつはいつも俺の宿題を丸写ししている。たまにはこうでもしないと本人のためにならない。

「昔は優しくてなんでも見せてくれたのになぁ」

「僕は昔とは変わったんだ」

洋は俺が本当に小さい時から仲が良かった幼なじみ。

ここ最近では彼女に振られたとかで事ある毎に俺に絡んでくる。

「勉強のし過ぎで頭おかしくなったか」

「お前に見せてた今までの俺がおかしかったんだよ」

「やー、全国トップクラス様はホントにお高いこと」

殺伐としたやりとりに見えるかもしれないがなんてことも無い。いつものやり取りだ。証拠に憎まれ口を叩きながらも洋の顔は何処吹く風だ。

「お前、最近寝れてるのか?」

急に真面目顔になった洋が問いかけてくる。

「なんだよ急に」

「いや、別に。ただちょっと気になっただけだ」

「変なやつ」

別に寝不足だと思うようなことはないと思う。今だって普通に元気だ。でも付き合いが長い洋の事だ。俺の些細な何かに気がついたのだろう。

「とりあえず、俺は元気だよ」

「あとさ、前から言おうと思ってたけど」

「なんだよ」

「無理して”俺”っていうの似合ってないぜ。俺は”僕”のままの方がお前らしくて良かったと思うぜ」

茶化す訳でも無くそう言う。

こういう嫌味のないところが洋のいい所だ。余計なお世話だけど。

「うるせー、俺は変わったんだ」

「さいですか。なぁまだ気にしてるのか”あの事”」

「…違うよ」

違うといいつつも、頭がチリッとする。心の奥から黒いモヤが上がってくるような不快な感覚。

「…悪かった。とにかくお前は考えすぎるなよ」

「…ありがとう、洋」

俺は静かに教科書を開く。

言葉少なくても何となく察してくれる。この友人には何度助けられたか。

「あ、悪い…、教科書忘れたから見せてくれ」

気まずそうに洋が言う。

「お前のそういうところ、嫌い」

こういう所にも何度も迷惑をかけられたけど。


「ゆうきくん」

「あ、はい」

授業後いきなり声をかけられる。

「あの、さ」

少し話しづらそうにしてる。この人誰だっけか。

「あれ、葵ちゃん、コイツに用事?」

帰り支度をしている洋が声をかけてくる。

そうだ、葵ちゃんだ。

クラスの人気者がはて何用か。

…いや、頭の中の自問自答がもうキモオタだな。

「どどうしたの?」

ちょっとどもる。

「えと、あの、今度の進路希望調査まだ貰ってないんだー」

サイドテールがぴょこぴょこ跳ねる。

明るい、楽しいという単語が似合う愛され元気系キャラ。

俺はあまり話したことはないが、別のグループにいても目を引く。

「一応先生からゆうきくんのを貰うように言われてて」

上目遣いで聞いてくる。

絶対的な美人タイプというより、小動物のような動き、陽気な性格、鈴を転がすような、でも凛とした声に自然と目で追ってしまうような子。

結構近所に住んでるらしいんだけど、何気に話すのは初めてに近い。

「あー」

「あー、じゃねぇー。あれ1か月前じゃね?締切」

「ご、ごめんねっ、私が声掛けてなかったのも悪いんだけどね」

「暗いからなこいつ!」

「失敬な!」

一度話したら結構喋る!と言いたいところだが、確かに初対面の人からは話しかけにくいのだろう。

「ごめん!明日出すよ、迷惑かけちゃってごめんね」

「ううん、大丈夫だよ!」

首を横に振る。

なんか、その表情や仕草の節々に女の子っぽさ、言ってしまえば色気を感じるんだよな。その仕草は男の胸をうつように洗練されていて、本当に頭の上に汗マークが見えるようだ。

妹の渚は(躾の悪い)小型犬って感じだが、この子はウサギ系だな…などと失礼なことを考えてると、初めて話すのに居たたまれなくなった葵ちゃんが、目を”><”にしながらさらに続ける。

「彼女いるからってあんまり遊んでちゃダメだよー」

顔の前でバツを作って諌めてくる。動作がいちいち可愛い。

ん、彼女?

思わず目を見開く。

え?俺が?いつ?

洋の、え?お前彼女いたの?、という無言の睨みに首を横に振る。

「え、だってよく休日に綺麗な子と2人でいるとこ見るし」

…多分渚のことだ。

確かに歳の割には大人びてるがあいつは中学生だ…。そしてなんで知ってるんだ。

「妹だよ!」

「えっ、そうなの??」

「そうそう、しかも中学生ね」

「あ、なんだそうなんだねっ。この前キスしてたからてっきり彼女かと」

「待て待て待て待て」

「え、お前…、うわ、マジか…」

「いやいやいやいや、俺は妹とキスなんてしてない!実妹とキスする訳ねぇだろ!」

しかも渚と?有り得ねぇ!

「結構大人びてるんだなぁって…」

「待て待て待て待て待て!」

”照れ”じゃないんだよな。

コイツ結構地雷だぞ…。

「えー、でも原っぱで気持ちよさそーに膝枕されてたよ」

「え…ゆうき、おまえ…、え?」

洋が最早汚物を見るような目でこっちを見る。

これは…あまりの不快感に二の句が告げない顔だ。

「いやいや、待て絶対違うから!葵ちゃん多分間違ってる!」

あれ?

「多分…」

そんなことは有り得ないんだが何かが引っかかる。

葵ちゃんは頭のネジは少し緩そうだが嘘をつくタイプには見えない。

「おい、…お前、マジ?」

「いや、そんなわけない!渚と?有り得ない有り得ない!」

「え、そう…だったのかなぁ」

うーん、と考える。しっぽがついてたらパタパタ動いているだろうな。

「そうだったのかもしれない」

あははーと頭をポリポリかく。

結構適当なのかもしれない。

「適当か」

洋がつっこむ。

「ごめんよー」

この軽いノリが人気者の秘訣なんだろうな。

「そっかー、…でも良かった、あっ」

「ん?」

「な、なんでもない!それじゃあ私帰るねっ!」

焦る様にそのまま返事を待たず帰ってしまった。

「嵐が過ぎ去った後って感じだな」

「同じこと思ったよ」

平和な日常だ。

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