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山の上の薬草園  作者: 大甘財閥
山の上の薬草園
15/97

ランチ

 午前中に何とかパウルの部屋以外の二階の掃除が終わったので、昼食に取り掛かることにした。


 台所に入ると、トマスが駆け寄ってきた。

「お昼はサンドイッチです、トマス様。しばらくお待ちくださいね」


 朝、焼いたパン(ゼンメル)があるので、それを半分に切り、バターを塗ったらレタスとチーズ、トマトと薄切りハムを数枚挟んだ物を作ろうと考えていた。


 足元に目を落とすと、じっとトマスが見上げている。リーザは床に座り、膝に抱き上げた。

「どうかしましたか」

 撫でる手に擦り寄ってくる。


 これはトマスが甘えたい時の行動だ。数日しか一緒にいないが、その間でも何度かこういう場面があった。

 こうなったら、トマスが飽きるまで側にいるしかない。


 まだ三歳の子供なのだ。

 親から引き離されて、不安だし寂しい思いをしているはずなのだから。

「トマス様、大丈夫ですよ」

 何度も大丈夫と言って、体を撫でる。


 しばらくそうしていると、パウルが午前の仕事を終えて戻ってきた。

 台所を覗いた彼の眉がわずかに寄る。

「トマス、具合悪いの?」

 リーザは軽く首を横に振った。

「甘やかし時間タイムです」


 説明すると、パウルの眉は、寄ってできた皺は元に戻ったが、今度は片方の眉だけ上がる。

「じゃあ、今度は僕の甘やかし時間タイムだ」

 両手でトマスを抱き上げて、昼食の準備をよろしくと言って出て行ってしまった。


 パウルもトマスを構いたいのだろう。彼が犬好きでよかった、とリーザは立ち上がりエプロンの皺を伸ばした。


 大急ぎで昼食に取り掛かり、サンドイッチとサラダ、フライドポテトとりんごと人参のジュースをお盆に載せて台所を出た。


 応接の部屋ではパウルとトマスは床に腹這いになって、図鑑を広げて読んでいた。

 同じ格好だったので、思わず吹き出しそうになってしまった。

「お待たせしました、トマス様、パウルさん。お昼にしましょう」

 二人は同時に振り向いて、起き上がった。



 午後の仕事を早めに切り上げたのか、午後四時にはパウルが事務所に戻ってきた。

 事務の仕事が溜まっているので片付けなくてはならないのと、仕事終わりに山を下るので準備をするためだという。

「町に行って来るけど、何か買ってきて欲しい物があったら言ってね」

 パウルはそう言ったが、食料もたっぷりあるし、日用品も揃っているようなので、特にはなかった。


 十六時四十五分きっかりに、開けた出窓にヴァイツが舞い降りた。

「こんばんは、ヴァイツさん」

 パウルとリーザが声を揃えて言うと、ヴァイツはミミズクの姿のままでこくんと頷いた。


 頭をくるっと回すと人型になる。

「こんばんは、パウル、リーザ、トマス」

 まん丸の大きな目はパウルに留まる。

「新しい髪型だ」

 町へ行くというので髪を戻すように提案したのだが、パウルはこのままでいいという。それならばと、大分ほつれてきているので、先程もう一度編み直してあげた。

 快適なんだ、とヴァイツにも笑顔で言っているので、気に入ってしまったようだ。


「特に引き継ぎはないんだけど、これから町まで下りてくるのでよろしくお願いします」

「わかった。ごゆっくり」


 ヴァイツは十七時きっかりに窓から出て、勤務に就く。


 この時期は二十時近くまで日が暮れないので、それまでには帰ってくると言って、パウルは山を下りていった。


 夕食は町で食べてくるというので、今晩はトマスと二人きりだ。

「さて、何を作りましょうか」



   ☆

 暮れかけている町のあちこちにランプの火が灯る。

 飲食店以外は十八時に閉まってしまうので、パウルは真っ先に目的の店に向かい、ぎりぎりで買い物を済ませた。


「よう! ミュラーじゃないか」

 店を出たところで声を掛けられた。振り向くと、癖の強い赤髪で、がっちりした体型の男が立っていた。


「お久しぶりです、ハースさん」

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