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魔法世界の妖憑き  作者: Lilac
第三章『全知の物語編』

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22時の部屋

(前略……私、数時間気絶していたらしいです……)



 気がつくとそこは盤星寮。モニカの部屋だった。暖かい毛布に包まれたモニカはもう見慣れた天井を見上げ、小さくため息をついた。身体の疲れとは比べものにならないほど脳が疲労している。次に瞼を閉じてしまえばそのまま眠ってしまえそうなほどだ。

 ふと、お腹の辺りに温もりを感じてモニカが布団をめくると、そこには丸くなって眠っているソラがいた。いつの間にか潜り込んでいたらしい。耳をぴこぴこと動かして、可愛らしい寝顔を見せてくれている。



「……風」



 少しだけ空いた窓から風が吹き込んでくる。心地よい風を運んでくるが、開けた覚えは無い。



(誰か開けてくれたのかな……)



 閉じようとするが、お腹にはソラが乗っていて動くことができない。少し肌寒い気もしたが、諦めてモニカは毛布に包まれる。じんわりと身体が芯まで暖まる。

 しかし、身体だけでなく精神まで疲れているはずなのに、どうしてか寝付けない。先程までの眠気が嘘のようだ。することも無く、天井を見つめてボーッとしていると、モニカはぼんやりと今日のことを思い出す。



(そうだ、あの本……どこに)



 辺りを見渡しても魔導書(グリモワール)はなかった。しかし、それだけではない。



(赤い本が、ない……!)



 古書館で見つけた古い本。『妖なる者』と記された本がなかった。モニカが焦るのは、その本が妖を知る手がかりだったからだけではない。



(確かに、あの本には旭の家族に関することが書かれてた)



 すべて鵜呑みにしているわけではない。それが真実であるかどうかは、その本の著者にしか分からない。だが、それを理解した上で、あの本の内容は知られていいものではないとモニカは考える。あの本に『騎獅道』の何が書かれているのか、モニカはそれを朧気にも理解できていた。



(きっと、よくないことが書かれてる)



 信じたくはないが、恐らくそれが真実なのだ。



(どうしよう……あれが誰かの目に付いたら……)



 すると、いきなり部屋がふっと暗くなった。



「ん?」



 どうやら月明かりが消えたようで、窓から光が見えない。雲で覆われてしまったのかとモニカが窓に目をやると、そこには、この盤星寮にいてはいけない人物がいた。



「よう、エストレイラ」


「あ、旭……君!? なんで、ここ……女子寮……」


「バカ、静かにしろ。黙って忍び込んでんだから」



 旭が窓から部屋に侵入してくる。やりきったかのように旭は一息つく。丁寧に部屋に入る前に靴も脱いでいるようで、窓上の(ひさし)に靴の影が見えた。

 旭が足音を立てずに近づいてくる。ふと、モニカが机の上に置いてあった鏡に目を向ける。そして、今の自分の格好を見たモニカはハッとして、全身を毛布で覆って隠れてしまった。



「来ないで! 今はダメ!」


「はぁ? なんで」


「だ、だって……今、服が……それに髪も……」


「気にしねぇって。ちょっと話にきただけだから、そのままでも構わねぇよ」


「……そう?」



 お腹の上に乗るソラをあまり刺激しないように、モニカは身体を動かす。そして、モニカは器用にも毛布から顔だけを見せる。



「ミノムシ」


「い、いいでしょ! 見られたくないの!」



 みんなが寝静まる頃。モニカと旭は他の誰にも聞こえないほどの小さな声で話している。



「それで? 話って?」


「あ〜……いや、なんていうか……」


「何? はっきり言ってよ」


「…………その、体調とか……どうだ?」



 恥ずかしそうに目を逸らしながら旭はモニカの想像の斜め上の発言をした。つい先日までは、他人のことなど気にもとめないような、高圧的で自分勝手だった男が、自分の心配をしているのかと思うと、モニカは笑いが止まらなくなる。



「ぷっ……あはは! 何それ、心配してくれてるの?」


「くそ……笑いたきゃ笑えよ。俺らしくないなんて、そんなこと分かってんだ」


「ふふっ……でも嬉しい。ありがと」


「……おう」



 旭はまたモニカから目を逸らす。だが、その表情は至って真剣だった。ただ事ではないと察したモニカは落ち着いた声で言った。



「なんとなくね、分かるんだ。私に宿った力」


「……()()を知ってるのは、アステシアとジョカ。それと、一部のクラスメイトたちだけだ」


「今なら分かるよ。私、気絶してたんじゃないって」



 モニカの脳の疲労の理由は、ただの知恵熱ではない。モニカに宿った力。()()によって脳内に伝達し、流し込まれる膨大な情報量。モニカの身体は、その情報を処理するために、スリープモード(休眠状態)になっていた。



「意識するとね、使えるようになるの」



 モニカが目覚めたということは、全知の情報処理を終えたということだろう。脳の疲労はつい先程まで情報処理でフル稼働していたからだ。



「なんで目覚めれたんだろうね。普通なら、()()に耐えきれなくて拒絶するはずなのに」


「さぁな」


「明日、エモール先輩にお礼しにいかないとね」


「……はぁ。隠し事も無意味ってことね」


「ふふ、イジワルしちゃった」



 だから、モニカは分かっている。部屋に来てから、ずっと旭が隠しているものの正体も。旭は観念してあるものをモニカに差し出した。



「……読んだ?」


「あぁ」



 それは、モニカがなくしたはずの()()()だった。表表紙には『妖なる者』と書かれている、ボロボロの古い本だった。

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