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魔法世界の妖憑き  作者: Lilac
第三章『全知の物語編』

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朧月

 煙に紛れ、薄月のように霞む女が魔女マーリンを見下ろす。片手にはぐったりと力の抜けてしまっている旭を抱え、月の下で唯一輝く。



「ルナ・アステシア!」



 アステシアは鋭い目つきで魔女マーリンを睨む。敵意を明らかにしたアステシアと対峙する魔女マーリンの頬に汗が伝う。一瞬の油断も許されない緊張が走る。ぴんと張り詰めた空気を破ったのは、魔女マーリンだった。



「”終極の閃光(デッドエンド・レイ)



 だが――



「……っ!?」


「どうかしたか?」


(くそっ、いつの間に……!)



 魔法は発動しない。煽るようなしたり顔で見下ろすアステシアは実に気分が良さそうに見える。予想外の展開に魔女マーリンは顔を歪ませる。アステシアと魔女マーリンの距離は縮まらない。

 魔法使いの適切な間合いは20メートルと言われている。それ以上近づかれることがあれば接近戦を苦手とする魔法使いは為す術がない。それ以上の距離がある場合、大抵の魔法の出力は相手に届く前に落ちてしまう。魔法使いは、この20メートルという領域を守りつつ一定の距離を取って戦う。

 だがそれは、()()()()()使()()の話だ。今対峙しているのは、魔法使いの頂点、『大魔法使い』の1人であるアステシア。そして、その大魔法使いと同等の実力を持つ『魔女』マーリンだ。



(……遠いな)



 戦闘のペースは完全にアステシアが握っていた。魔女マーリンの魔法を受け付けない距離でかつ、自身の実力を最大限発揮できる距離。魔女マーリンはそれより先のアステシアの領域に近づくことはできない。



(これがルナ・アステシアの絶対領域か……!)



 三日月が2人を照らす。差し込む光が円を作り出し、アステシアの領域を露わにする。


 一瞬の静寂。その静寂を破ったのは、アステシアでも魔女マーリンでもなく――



「刻んで、屠る! この刃にかけて――!」



 アステシアの絶対領域を、木曜(フエベス)が切り破った。首元に刃で斬られたような鋭利な傷を負った木曜(フエベス)が均衡を崩す。



「”空葬(そらとむら)い”!」



 凶刃が2人を襲う。ぷつんと切られた緊張の糸。あまりにも突然出現した木曜(フエベス)への対応が遅れる。1秒にも満たない2人の油断。だが、木曜(フエベス)はそれを逃さない。

 国綱の『流桜(りゅうおう)』にも似た歩法。アステシアと魔女マーリンが体勢を立て直すまでの数秒。木曜(フエベス)の凶刃が襲いかかる。



(手ぶらでは帰らない! 大魔法使い、魔女。どちらか殺せればいい!)



 何度も斬りつけ、刺突し、肉を裂く。しかし、たかが数秒だ。木曜(フエベス)の凶刃は致命には至らない。反撃するには十分経った。だが――



「ここは、あたしの領域だ!」



 木曜(フエベス)がアステシアに詰め寄る。2メートルほどの超近距離。それは、魔法使いが最も苦手とする()()()。魔法が使えなくなっている木曜(フエベス)は2本の刃で何度もアステシアを斬りつける。



(これなら、魔法は関係ない!)



 たが木曜(フエベス)が前にしているのは――



「ここへ来る前に、なぜ魔法が使えないのかくらいは調べておくべきだったな。『七曜』よ」



 ()()()()()使()()ではない。



「”三日月(クレセントムーン)”」



 バチりと、アステシアと木曜(フエベス)が目を合わせると、その間に火花が散る。その直後、木曜(フエベス)はぐらんと身体を揺らし、その場に力無く倒れ込んだ。

 アステシアは木曜(フエベス)が地面に伏す前に身体を受け止め、旭を抱えている反対側の腕に抱え込む。



「目的は達した。私はこれで失礼する」


「おいおい、ここまで来て逃げるのかい?」


「……貴女の探し物はそこです」



 アステシアが指を指す先には、白い服を着た師匠が横になっている。魔女マーリンが師匠に駆け寄り、アステシアから目を離した隙に、旭と木曜(フエベス)を連れてアステシアは姿を消した。

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