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魔法世界の妖憑き  作者: Lilac
『つめあわせ』

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魔女

 魔女。それは、大魔法使い級の実力でありながら、どの派閥にも属さない者のことを指す。あるものは自由気ままに世界を放浪し、またあるものはただ魔法を究めるためにひたすら研鑽を積む。もしくは、魔法を独占し、叛逆を企てるものも魔女と呼ばれる。



「……また失敗か」



 そして、この女もまた、魔女と呼ばれる人間である。



「おっかしいなぁ。やり方は間違ってないはずなんだが……」



 ぽふんと、気の抜けるような音を出した杖から白い煙が出ている。



「いいや、ちょっと休憩しよ」



 ひとりぼっちで書を読み、魔女はおもむろに昼寝をし始める。魔女らしい黒いローブを身に纏い、本を片手に杖を遊ばせながら、本を顔の上に置いて人目を気にせずに。さながら曲芸師だ。

 魔女と言っても、そのすべてが悪人ではない。9割以上が自分勝手の自由人ではあり、有害でも無害でもないのが基本だ。

 この魔女も例外ではなく、益も不益ももたらすことはない。ただ己の好奇心に従うまま生き、死んでいくのが魔女だ。そのためか、世間は魔女にさほど関心を示さない。それもそのはずで、ほとんどの魔女は人と関わらず生活しているのだ。人里離れた森の奥。封印された洞窟。自分で創り出した空間。それぞれが、それぞれの世界でほそぼそと生きている。



「あ、そういやこの本の貸出期限っていつまでだっけ」



 だが、この魔女は違う。



「げぇ! 今日まで!? ちょっと、司書さ〜ん!」



 世界樹の古書館に入り浸っている1人の魔女。魔女と司書のやり取りはもはや1つの名物になっている。毎日のように世界樹の古書館に通い、書を読み、魔法を吟味している魔女を、人々は『凡常(ぼんじょう)の魔女』と呼ぶ。



「魔女さん、古書館では静かにしてください」


「ちょっと聞いてよ! この本の貸出期限が今日までだったの! まだ読み切ってないんだよ?」


「また借りればいいじゃないですか」


「おぉ、天才?」



 凡常の魔女は子犬のように司書の後について行く。貸出期限更新の手続きをするためには、貸出者と管理人、つまり司書のサインが必要になる。



「はい、いつも通りここに名前を」


「りょーかーい」



 どこからか羽根ペンを取り出し、いつの間にかインクもつけてサラサラと慣れた手つきでサインをする。世間に知れ渡っている『二つ名』を持つ魔法使いは、本当の名を隠していることが多い。むしろ、獄蝶のジョカや凡常の魔女は、自らの名前を隠すために『二つ名』をつけていると言っても差し支えない。

 司書が確認したサインには、少し癖のある読みづらい字で何かが書かれている。司書も読み方の分からない字に最初は戸惑ったが、今では気にもならない。だが、凡常の魔女が扱う字は、少なくとも、世間一般で使われている文字では無いことだけは確かだ。



「相変わらず、なんて書いてあるんですか? 歴史書物はたまに読みますが、こんな字は見たことがありません」


「ん〜? まぁ、おいおい分かるようになるさ」


「なりませんよ。貴女の名前以外にこの字を見ることはありませんから」


「……ふふ、それは……どうだろうね」



 何か含みのある言い方をする凡常の魔女の言葉を、司書は聴き逃した。凡常の魔女は引き止める司書の制止を無視して、期限が更新された本を手に神精樹の古書館を後にする。

 この日、凡常の魔女はとある忘れ物をしていた。魔法の研究の過程で生まれた、世界を揺るがしうる忘れ物。たった一冊の本を、凡常の魔女は神精樹の古書館に忘れてしまった。だが、凡常の魔女がそれに気がつくのは、もう少し先の話。

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