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魔法世界の妖憑き  作者: Lilac
『つめあわせ』

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2人の関係

「ジョカ、呑みに行くぞ」


「……うん。この仕事終わらせたら行くから、待ってて」


「あぁ」



 そう言ってアステシアは職員室を出て少し早歩きで廊下を歩く。浮き足立っているような、焦っているようにも見えるアステシアの足取りは、通り過ぎる生徒たちに恐れられながら見られている。

 バウディアムスで教師をしている2人の大魔法使い。妙に近しく感じられる2人の関係を正しく言葉にすることはできない。2人の不安定で不揃いなこの関係は、誰にだって説明することはできない。



「アステシア先生とジョカ先生って、どんな関係なんですか!?」



 当人である2人の以外は。



「なぜここにいる、エストレイラ……」


「今日授業で使ったプリントを届けに!」


「そうか。安全に帰れよ」


「話をそらさないでください」


「くっ……お前くらいだぞ。そんなに踏み込んでくる生徒は」



 アステシアのペースが遅くなる。隣で小さい歩幅で必死に追いついてくるモニカに合わせるように、ゆっくりと余裕のあるペースで歩く。アステシアの肩ほどまでしかないモニカが執拗なまでに引っ付いて離れない。



「……私たちは戦争孤児だった」


「ジョカ先生も、そうだったんですよね」


「あぁ。あの頃は……楽しかったな」



 モニカは、その時初めてアステシアの笑顔を見た。窓から見える満月に照らされた、可愛さよりも美しさが強い笑顔。『月下美人』という言葉が誰よりも似合う女だとモニカは思った。



「……私、お2人はなんていうか……その、いかがわしい関係なのかと……」


「はぁ? 何を言っているんだお前は」


「す、すみません!」



 モニカの言葉をアステシアは堂々と否定し、そんな関係ではないと、モニカを睨みつけている。では、2人は一体どんな関係なのか。戦争孤児だった時からの付き合い。同じ場所を目指し、魔法使いの頂点に2人は立つ。遠すぎず、近すぎない。不思議な関係。その関係にあえて名前を付けてしまうならば、『相棒』というものだろう。



「……私も、同じような関係の子がいるんです」


「クラウディアか」


「はい。ずっと前からの友達で、私の憧れの人です。でも、最近は……パーシーのことが分からない」



 モニカがアステシアにあんな質問をしたのは、単にその関係が気になったからではない。



「……いえ、()()()んです。パーシーが、何を、どんな関係を望んでいるのかが」



 同じような関係であるアステシアに、助言を求めにきたのだ。『友達』以上の関係を望むパーシーの心を知るために。



「教えてください。私は……どうすべきなんでしょうか」


「知るか自分で考えろ」


「……えっ!?」


「そんなこと私の管轄ではない。お前たちの問題だろう。当人同士で解決しろ。それに、私にそっちの気はない」


「そ、そんなぁ!」



 モニカに合わせていた歩幅が大きくなり、モニカはみるみる置いていかれてしまう。少し2人の距離に間ができると、アステシアはくるりと振り返って言った。



「お前はどう思っている」


「……え?」


「私の意見など必要ない。大切なのはお前の考えだ」


「私、の」


「エストレイラ、お前は嫌いなのか。クラウディアが。嫌なのか。『友達』以上になるのが」


「そんなことないです!」



 モニカの意志とは反して、咄嗟に否定の言葉が出た。自分でも理解できていないようで、モニカは自分自身の言葉に戸惑う。



「……それが答えだ。後は好きにするといい。生徒の関係にまで口は出さん」



 アステシアはまた早歩きで去っていく。モニカは、遠くなっていくアステシアに何も言うことができないまま、ぐっと感情を堪えて立ち止まる。そんなモニカの後ろから、物凄い速さで何かが迫ってくる。広い廊下を、箒に乗った大魔法使いが、最高速度で突風を巻き上げながら爆進する。



「ルナ〜! 仕事終わったよ!」


「じょ、ジョカ先生……!?」



 獄蝶のジョカはあっという間に、小さくなったアステシアに追いつく。年季の入った箒から降りて、アステシアの隣を歩く姿は、やはり『相棒』のような姿に見えた。



(……相棒、かぁ。そういうのもあるのかな)



 そう考えてモニカが再び前を向いた。その瞬間、モニカの目に映ったのは、アステシアのほほに口付けする獄蝶のジョカの姿だった。



(え、ええぇぇぇえぇぇぇ!?)



 しかも、遠目に見ても2人がかすかに頬を赤らめて照れているように見える。その2人の姿は、『相棒』などではなく、むしろ――



「や、やっぱり不純だ……!」



 そんなこともあって、モニカは余計にアステシアの事が分からなくなってしまったのだった。

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