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魔法世界の妖憑き  作者: Lilac
『つめあわせ』

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秘密

 この数日で、学んだことが2つある。



「報告は以上です」


「――ご苦労。ガイア」


「……はい」



 1つは、もう逃げることはできないということ。目を背けることも、背を向けることも、もうできなくなった。俯いても、這いずってでも、前に進むしかないのだということを理解した。

 通話ボタンを切り、液晶画面を閉じる。わざと大きくため息をつき、周りを見渡すが、辺りには誰もいなかった。ぺたんと地面に腰を下ろし、自分のしていることを再度認識する。



(……こんなこと、やめなければ)



 2つ目の学んだこと。それは、後悔した時にはもう遅いということ。任務のことを考える度に自分のことが嫌になってしまう。



「私は……一体どうすればよいのですか。お母様」


「ヴェローニカさん、どうかしたのかい?」


「っ!? 誰!」


「ご、ごめん。うずくまってたから、調子でも悪いのかと……」



 人気のない場所のはずだったそこには、いつの間にか国綱がいた。相変わらず腰には2本の刀を携えており、顔には本音の見えない薄っぺらい表情が貼り付けられている。



「こんな寂れた場所で何をしていたんだい?」


「な、なんでもいいでしょう!」



 ヴェローニカが国綱から目を逸らすと、金色の美しい長髪が揺れる。色白な肌に良く似合う金髪を見て国綱は頬を赤らめて赤面する。



「髪、綺麗……ですね」


「え? 髪?」



 腰を低くして、国綱がヴェローニカの髪に触れると、触れた指からサラサラとした感触が伝わってくる。髪を梳き、ヴェールのように隔たれた先の景色、ヴェローニカの耳や首筋が見えそうになった瞬間、国綱の手をヴェローニカが叩いた。



「触らないで!」



 ヒステリックに声を荒らげて顔を真っ青にするヴェローニカを見て、国綱の口から出たのは謝罪ではなく心配だった。



「やっぱり、何かあっただろ」


「……貴方には関係ありません」


「ならいいんだけど」



 赤くなった左手を抑えながら、国綱は立ち去るわけでもなく、ヴェローニカの隣の壁に体を預ける。



「……どこかへ行ってください」


「無理だね。せめて、君が泣き止むまではここにいる」



 鼻をすすりながら涙を堪えるのも限界らしく、ヴェローニカはついに涙を零した。



「……君は強いね」


「やはり、聞いていたのですか」


「深くは聞かないよ。君にも事情があるんだろう。否定はしないし、ここで君を切って捨てることもしない」



 国綱は刀に手を当て、わざとらしく音を鳴らす。



「ここで僕が見たことは秘密にしておくよ」


「……なんで」



 ここでようやくヴェローニカが口を開いた。掠れるような声だったが、国綱はそれを聞き逃さなかった。何も言わず目を閉じてヴェローニカの言葉に耳を傾ける。



「なんで何も聞かないの!」


「聞かれたくないだろう」


「沢山あるでしょう! 知りたいことも、問い詰めたいことも! なのになんで!」



 自暴自棄になっていることはすぐに分かった。ヴェローニカは国綱に襲いかかり、腕を大きく振り下ろすが、簡単に止められてしまう。ビクともしない掴まれた腕を動かそうとすることも諦め、ヴェローニカは力無く地面にへたり込む。



「ごめんなさい……ごめんなさい……」


「……ヴェローニカさんは、随分疲れているようだ。保健室まで連れていくよ」


「はい……お願いします……」



 国綱はすべてを知り、察した上で何も聞かなかった。踏み込もうともせず、口を閉ざすことを心に決めた。この決断が、一体どのような未来を導くのか、2人はまだ知らない。

 日常が崩れていく音がする。ヴェローニカは国綱の背中から感じる暖かい人肌を心地よく感じながら、ゆっくりと目を閉じた。ヴェローニカが寝たことを確認すると、突如として国綱の頭の中に最悪な想像が膨らむ。



(……『目標は太陽の子と接触』、か)



 携帯機器を通してヴェローニカが何者かに伝えていた『報告』。隠れてその全容を聞いていた国綱の頭に、1つの可能性が過ぎる。


 ガイア・ヴェローニカはバウディアムスの敵


 主語が大きいが、正確には、ヴェローニカは話していた『目標』をどうにかしようとしているのだ。ヴェローニカが一体誰と繋がり、『目標』とらやで何をしようとしているのか、それまでは分からないが、国綱の想像はほとんど確信に近いものになっていた。



「さて、どうしたものかね」



 口は堅い自信がある国綱だったが、あまりにも重い秘密を背負ってしまったことを改めて自覚する。少し考えてから、まぁどうにかなるだろうと、くに綱はしっかりとヴェローニカを背負い、遅い足取りで2人の時間を噛み締めながら、ゆっくりと保健室へと歩いて行くのだった。

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