空を飛ぶ箒
「ソラ〜、迎えに来たよ〜!」
「あっ! モニカ!」
休日、モニカは久しぶりに家に帰ってソラを引き取りに来た。
「ごめんね〜。準備に時間かかっちゃって」
いきなり寮に住み着くと安全確認ができないということで、ソラはしばらくモニカと離れて家で過ごしていたのだ。
「これからは一緒に寮だよ。小福さんに感謝しないとね」
盤星寮の寮長、座敷わらしの小福。モニカは女子会前に偶然知り合った小福を通して、ソラが寮で暮らす許可をもらったのだ。
モニカは慣れたように箒に跨り、前の方にソラを乗せる。あれほど飛翔が使えないと嘆いたモニカは、今では当たり前のように空を飛べている。
「モニカ、いつの間に飛べるようになったのですか?」
「うっ……き、気になっちゃう?」
「気になるのです!」
ソラの純粋無垢の瞳を前に、モニカが断れるわけもなく、しぶしぶ空を飛べている原理について話すのだった。
「これ、飛翔は使ってないんだよね」
「ならどうやってるのですか?」
「星の奇跡を使って誤魔化してるの」
これは少し前にモニカがパーシーと一緒に編み出した星の奇跡の応用だ。飛翔は『人が空を飛ぶ』魔法なのだが、この魔法をモニカは使うことができない。そもそも、モニカは未だに”星の奇跡以外の魔法を使うことができないのだ。
そこで、モニカは星の奇跡を箒に使うことによって、箒を空に飛ばして飛翔を使っている風に見せているのだ。今のモニカは空を飛ぶ箒に乗っているだけで、モニカ自身が空を飛んでいるわけではない。
「むぅ……難しいお話ですね……」
「そう? でも、こうやって新しい魔法を作るの楽しいよ」
「この新しい魔法は、なんという名前なのですか?」
「そっか。全部星の奇跡じゃ分かりづらいよね」
モニカは箒に乗りながら頭をひねらせる。空を切る心地よい風で心が洗われるような気分でスッキリした頭で思考を巡らせる。
「……”飛翔の奇跡”、とか……ダサいかな」
「えへへ、いいと思います!」
「そう? じゃあ、決まり!」
ソラはモニカの意見を肯定しかしないということをまだ知らないまま、魔法の名前はあっさりと決められてしまった。
(……魔法の名前って、こんな簡単に決めちゃっていいのかな!?)
神精樹の面影が見えてくると、ソラの体が興奮でふるふると震え始める。ぴこぴこと耳を動かし、ぶんぶんしっぽを揺らす。モニカの顎を撫でるようにソラのもふもふした白い毛が往復する。
「んふふ、くすぐったいよ!」
「わ、わざとじゃないですよ!?」
ソラは、実の母親だった八重が消えたとは思えないほど明るい笑顔を見せる。
「……気にしてないの? 八重さんがいなくなっちゃったこと」
「全然気にしてません!」
そういうソラの口調は、まったく大丈夫そうに聞こえなかった。
「……とは、やっぱり言えません」
「ソラ……」
「でも、不安じゃありません!」
くるりと顔だけ振り向くソラの顔に、言葉通り不安はなかった。華々しく笑顔を咲かせて、モニカを心配させまいと笑っているのだろう。ソラの体にはは興奮とは違う震えがあった。
「おかあさまは、私を信じてくれました。今度は、私が信じます」
「……うん、そうだね」
あまりにも大きい八重の残した形に残らない想い。それぞれが、八重の心を受け取っている。旭も、ソラも。そして――
(私も、頑張らないと)
モニカ・エストレイラも、例外ではない。




