女子会 ―2―
丸いチョコレートを頬張り、ソフィア・アマルが視線を独り占めにする。チョコレートを飲み込み、モニカとばっちり目が合うと同時に、ソフィアは視線に気がついた。
「え? 私なんか変なこと言った?」
だが、ソフィアは戸惑うことなく、また丸いチョコレートを口に含む。沈黙する空気に耐えきれず、口を開いたのはモニカだった。
「嘘だって思わないの? 変じゃない?」
「え? 嘘なの?」
「う、そじゃ、ないけど……」
「だって、ヴァンちゃん、どう?」
野菜ジュースを飲みながら、ソフィアが声をかけたのは、部屋の隅でオドオドとしているメルティ・ヴァンチャットだった。ぴぇ、と驚いたような声を捻り出して、両手で持っていた飲み物をこぼしそうになっている。
「な、なんであたし……」
「ヴァンちゃんの魔法なら分かるでしょ」
「う、うぅ……」
のそのその体を動かしてメルティがモニカに近づき、一呼吸置いて言う。
「りょ、両手を出してください……」
言われるがままモニカが両手をメルティに差し出す。上に向けられたモニカの手のひらと合わせるようにメルティも手のひらをくっつける。そして、メルティはうるうるとした今にも泣き出しそうな目でソフィアに何かを訴えかける。
「あ、それで準備オッケーなんだっけ?」
「は、はい……緊張するので、お願いします」
「はいはーい。じゃ、もう1回聞くね」
人差し指だけで丸いチョコレートを上に投げ飛ばし、器用にもソフィアの口に落っこちる。先程までは舐め溶かしていたチョコレートを噛み砕き、ごくりと飲み込んでから、真剣な表情でソフィは言う。
「妖が見えるって本当? 正直に答えて」
「ほ、本当……だよ!」
その瞬間、モニカとメルティが感じたのは、手のひらを突き破るような刺激だった。声にならない声を上げてモニカは苦悶の表情を浮かべる。平然としているメルティに対して、モニカはこれまでにない痛みを感じ、ヒリヒリとする手のひらを反射的に離して、両手で手のひらの存在を確かめた。
「こ、この辺穴とか空いてない……?」
「空いてるわけないでしょ……」
「あっははは! やっぱヴァンちゃんの魔法面白ーい!」
「い、今のは……?」
「この子の魔法だよ」
『嘘の魔法』。それが、メルティ・ヴァンチャットの固有魔法だ。
「嘘破り。相手に質問をして、本当のことを言うと電気刺激が起こるらしいの。天邪鬼だよね〜」
「って、ことは……」
「電気が走ったってことは、嘘をついてないってことだよ」
ぐっと、胸が熱くなるような感覚にモニカは包まれる。他人に、妖が見えることを信じられなくなった日から、モニカはずっと嫌な想像をしてきた。それは、『妖が自分の見ている幻覚だったら』という想像だ。本当は、妖なんて存在はなくて、全て自分の見ている幻なのではないかと考えていた。
「ご、ごめん……泣くところじゃないよね……」
家族とパーシーしか、妖が見えることを信じてくれる人はいなかった。それ以外の全員は、モニカの言葉を信じなかった。妖が見えることを信じず、誰よりも1番疑っていたのは他でもないモニカ自身だった。
「あー、ヴァンちゃん泣かせた〜」
「ひぇ……わ、私ですか……!?」
ポロポロと涙を流すモニカは数分と経たずにパーシーたちに囲まれた。後ろからモニカを抱きしめるパーシー。左から頭を撫でるヨナ。両手をがっしりと掴んでモニカの涙を拭うヴェローニカ。ぎゅっと詰め込まれたように抱き合っている。
「……羨ましいなぁ」
「や、やりませんよ……?」
ソフィアは小言を言ってメルティの方を見たが、残念ながら断られてしまった。ふん、と怒ったようにまたソフィアはチョコレートを頬張る。
「ふ、太っちゃいますよ、ソフィアさん……ア――」
メルティが何かを言いかけた瞬間、ソフィアの手のひらによってメルティの口が塞がれる。メルティの視線は綺羅星のように輝くソフィアの瞳に奪われた。その振動でこぼれたジュースが服を汚したことも気にならないほどだ。
「それ以上言っちゃだめでしょ? ヴァンちゃん、もう約束忘れちゃった?」
「……む、むむ」
「あぁ、口塞いでちゃ喋れないか」
「ご、ごめんなさい……!」
パッとソフィアが口から手を離した瞬間にメルティが謝罪をする。それに続けてまたメルティが何かを言おうとする。
「私、全然ダメですよね……ごめ――」
卑屈なことを話し出すメルティの口に、ソフィアがチョコレートをねじ込む。もごもごと口を動かすメルティの両頬をむにっとつまんで無理やり咀嚼させる。
「ねぇヴァンちゃん分かってる? 女子会なんだから、そういうことは無し。楽しまなきゃ損だよ。そっちも聞いてる!?」
「そ、そうですよね!……」
ソフィアの一言で女子会は再開された。盛り上げ上手なパーシーとソフィのおかげで、しんみりとした空気はかき消された。今日だけはカロリーなんてものは気にせず、ジュースもお菓子もぱくぱくと口に運んでいく。
「な、なんか……みんな顔赤くない?」
「えぇ〜、そんなこと〜にゃいけど〜……」
そういうパーシーは顔を真っ赤にしている。相反する色をした、美しく束ねられた青い髪がよく目立っている。モニカが必死に肩を揺らしてもパーシーは、ふへへと口を緩ませて笑っているばかりで意思疎通は全くできない。
「うーん、熱かな……」
そう言ってモニカがパーシーに顔を近づける。




