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魔法世界の妖憑き  作者: Lilac
第二章『焔と恩讐編』

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あけぼの寮

「なんか、アホっぽい名前」



 それが、レオノールがあけぼの寮に入寮する時に名前を聞いた時の正直な感想だった。数十分の説明を終え、大体の荷物を運び終わったレオノールは、ベッドの上に寝そべって身体の疲れを癒していた。



「ん、もう寝るのか?」


「いんや、まだ。ただちょっと疲れてな」


「まぁ、今日は色々あったし、仕方ないね。明日からは本格的に授業も始まる。休んでおいた方がいい」



 同室に住まう国綱はレオノールを労いながら、堂々と白銀の刀の手入れをしている。あけぼの寮の部屋数は全部で30室。その中の10室は2人の生徒がシェアして使うことができる。あけぼの寮は男子寮で、異性の立ち入りも禁止されていることからできることだろう。

 レオノールと国綱もその一室を使っている。2人で過ごすことから、他の部屋と比べて室内はかなり広く、ベッドを2つ置いても広々とした空きスペースができるほどだ。



「にしても、刀なんてよく持ち込めたよな……」


「こいつは()()という扱いになっているからね。常に魔具を携帯している魔法使いは少ないわけじゃない」


「そういう嘘つくのは得意だよな」


「狡猾でなければ楽には生きられないよ。真面目であればあるほど苦労する」



 月明かりに照らされて刃がキラリと光る。



「……旭は今頃何してんだろうな」


「さぁ? 宿屋か、どこかで野宿でもしてるんじゃないか」



 2人は、ここにはいないもう1人に思いを馳せる。今までずっと、()()()の元で育てられ、共に生きてきた。もはや3人は、切っても切れない何かで繋がっている。しかし、今になって、その絆のような何かが、断ち切られるような感覚がしていた。



「思い返して見りゃ、ノーチェスに来てからずっと変だったな」



 生まれ育った地である極東を離れ、遥か遠いノーチェスに訪れたその日から、旭の様子は徐々におかしくなっていた。焦燥感のようなものに駆られて、いつも以上に魔法の鍛錬に取り組んで、学園で姿を見た時は、今にも倒れそうなほど摩耗していた。



「あんな旭、初めて見たぜ」



 旭、レオノール、国綱の中で、最も実力が秀でていたのが旭だった。魔法という才に恵まれ、師からの教えの飲み込みは早く、常に2人の1歩も2歩も先の道を歩んでいた。

 だからこそレオノールには分からなかった。それほどまでに優秀な人間が、一体何にそこまで突き動かされるのか。



「……レオノールは聞いたことあるかい? あいつが、あれほどまで努力して、わざわざこんな国に来て、魔法を(きわ)めてまで成したいこと」


「んぁ〜、聞いた事ねぇ」



 一瞬、国綱は言い淀んだ。これを、本当に伝えてしまっていいのかどうか。この旭の秘密は、国綱との信頼と信用の上に成り立っているもので、破ってしまえば、壊れてしまうかもしれない。



「復讐だそうだ」



 けれど、国綱はそれを口にした。「聞かなかったことにしてくれ」、なんて都合のいいことはもう言えない。旭との約束を破ってしまったことの後悔は、もう遅い。



「へ〜、そんなんなのか」


「……驚かないのか?」


「え? なんで?」


「復讐だぞ?! もっとなんか、あるだろ?」



 完全に予想と外れたレオノールの反応に、国綱のテンポが崩される。らしくもなく言葉を荒げて、レオノールに問いかけるも、ケロッとした顔で、当たり前のように返された。



「いやだって、別に普通なんじゃねぇの? それ」


「普通って……」



 レオノールは続ける。



「俺はさ、師匠(せんせい)みたいに、好きだから魔法使いになるやつの方が少ないと思う。魔法ってのは、ちょっと見方を変えれば、都合よく人を傷つけることができる道具だろ」


「それは、まあ……そうだけど」


「でも仮にさ、あいつが復讐を成したら、その次は何すると思う?」



 レオノールの言葉に、国綱は返すことができなかった。想像ができなかったからではなく、その姿をより鮮明に思い浮かべていたから。



「多分、あいつは魔法が好きなんだよ。じゃなきゃあんなに魔法の探求なんてできないし、才能があるっつっても、好きじゃなきゃ続けようとは思わないだろ?」



 国綱が想像したのは、レオノールの言葉通り、楽しそうに笑いながら魔法を使う旭の姿だった。



「大事なのは、魔法を使う()()だと思うんだ。別に、復讐だけなら魔法じゃなくたっていいだろ? でも、旭は魔法を選んだ。それは多分、あいつが魔法を好きだからだよ」


「そうかな」


「そうだよ」



 問答が途切れる。それは、国綱が納得したことの合図だろう。レオノールの愚直な考えに、国綱の中の疑問はすべて解かれてしまったのだ。



「……はぁ、レオノールみたいに素直に物事を考えられるようになったら、少しは楽になるかもね」


「ははっ、頭悪くてもいいとこあるんだぜ」


「もういい、これ以上話していたら僕までバカになる」


「はぁ!? 今バカっつったか?!」


「言ってない。電気消すぞ」



 かちりと、部屋の電気が消える。きっと、旭も大丈夫だろうと、2人は笑いながら瞼を落とした。

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