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魔法世界の妖憑き  作者: Lilac
第二章『焔と恩讐編』

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クラス・アステシア

 現在、魔法世界に存在する大魔法使いは、5()()。総人口、約80億人。内、魔法使いは約1万人以上。そのすべての魔法使いの、この世すべての魔法の頂点に君臨する、たった5人の魔法使いを、人々は、「大魔法使い」と呼ぶ。そして、大魔法使いは、()()に1人ずつ存在する。


 極東 『獄蝶のジョカ』


 言わずと知れた、最強の大魔法使い。世界を旅する流浪の魔法使い。正体不明の魔法、『獄蝶』を扱う、魔法探求の学にも秀でている奇才変人。現代における攻撃魔法の基礎を作り上げた()()として、歴史に名を残す偉大な人物でもある。



「それが、私ってわけさ」


「自慢はいいんですけど……」


「自慢じゃなくて自己紹介ね?!」



 クラス・ジョカ。大魔法使いが1人、獄蝶のジョカが担当するクラスでは既に自己紹介が始まっていた。



「ほらほら、君たちが目指す人物が目の前にいるんだよ? 何か質問とかないのかい?!」



 少しイラついている獄蝶のジョカに、何人かの生徒が言った。



「先生の本当の名前は?」


「それは秘密」


「獄蝶の魔法の使い方とか」


「それも秘密」


「なんで極東からノーチェスまで来たんですか?」


「秘密!」


(全部だめじゃん……)



 生徒たちは肩を落とす。難攻不落、というかハナから教える気がなさそうな獄蝶のジョカの苛立ちは更に募っていく。誰もが獄蝶のジョカが納得するような質問を考えている中、1人の生徒が言った。



「そういえば……ノーチェスの大魔法使いって、誰なんですか?」


「……なんだ、故郷だってのにそんなことも知らないのか」



 そして獄蝶のジョカが名前を上げたのは、知らぬ者からすれば、信じられないような人間だった。偉大さとはほど遠い、怠惰でずぼら、面倒臭がりで常に気だるげ。けれど、魔法に対しては誰よりも真摯で熱心。



「その魔法使いの名前はね―――」



 *



「ここが、クラス・アステシア。私が担当する魔法科のクラスだ」



 クラス・アステシア。先程まできちっと着こなしていた礼装を着崩して、いかにもやる気がなさそうに見える。いわゆる『ハズレ』を引き当てたとガッカリする生徒たちをよそ目に、モニカは目を輝かせる。



「私の担当は実技と占星術だ。それから―――」


「ルナ・アステシア!」


「…………あぁ、そうだが? あと……」


「やっぱり!」



 モニカとアステシアが顔を合わせたのは2回。1回目はソラと出会った時。黒いローブを身にまとい、ソラを探している際に偶然出くわした。2回目は試験の日。騒ぎを聞きつけて現れた、その後も実技試験を見学しに来た時に出会っている。

 どの場面でも、モニカはじっくりとアステシアの顔を見たことがない。それ故に、モニカの憶測が確信に変わることはなかった。もしかしたら、とは心の中で思いつつも、勘違いであると思っていた。だが今日、モニカがクラス・アステシアに選ばれたことでモニカは確信を持てるようになった。



「『月詠(つくよみ)の大魔法使い』、ルナ・アステシアですよね!」


「お、おう……その通りだが……まずは」


「私、月詠の大魔法使いにサイン貰うのが夢だったんです!」



 この時のモニカは興奮のあまり周りが見えていない暴走状態にあった。目の前のことに集中しすぎて自分を静止する声を聞こえない、正しく暴走列車。案の定、言うことを聞こうとしないモニカに怒るアステシアのことも見えてはいない。

 周りの生徒たちがなんとかモニカの暴走を止めたが、時は既に遅く、モニカはかなり厚い当番日誌の角で頭を小突かれてようやく冷静さを取り戻す。



「まずは私の話を黙って聞け。それと、ここではアステシア『先生』だ。分かったな、エストレイラ」


「は、はい……」



 頭を抑えるモニカを気にもとめず、アステシアは話を続ける。



「おかげで説明が省けた。あのバカの言う通り、ノーチェスの大魔法使いはこの私。ルナ・アステシアだ」



『月詠の大魔法使い』 ルナ・アステシア


 全魔法使いの4分の1ほどが活動していると言われている魔都ノーチェス。信じられないかもしれないが、この国の頂点に立つ魔法使いこそが、月詠の大魔法使い、ルナ・アステシアなのだ。



「まぁ、称号(こんなもの)なんてのは飾りだ。私も、お前たちも、1人の魔法使いに過ぎない」



 アステシアは続ける。



「しかし、お前たちは運がいい。史上最難関のバウディアムスに合格し、最高最上の設備の元で魔法を学ぶことができる。ここでの5年間は貴重だぞ」



 最強の大魔法使い、獄蝶のジョカをもって、『私が唯一勝てない女』と言わしめる正真正銘の()()



「卒業ラインは厳しいが、安心しろ。私は()()()魔法使いだからな」



 これは、そんな女の挨拶だ。道端で出会った友達ににこやかに手を振るのと同じこと。廊下ですれ違った後輩に気さくに声をかけることと何ら変わらない。だがそれは、モニカたちを恐怖させるに十分な威圧だった。



「血反吐を吐いても、心が折れようと、私は決してお前たちを見捨てない。心も身体もボロボロになろうとも、()()まで背中を押してやろう」



 アステシアの『最後』という言葉が別の意味に聞こえたのは言うまでもないだろう。



「では出席を取る。自己紹介はこの後勝手にやってろ」



 そして名前を呼ばれるのは、これからバウディムスにて、モニカと5年間という長い年月を共にする仲間たち。友情を育み、共に学び、共に競い合い、苦楽を共にするもの達である。



「アリシア・トルリーン」



「ヴェーノス・ウミストラ」



「ウェールズ・ダモクレス」



「ガイア・ヴェローニカ」



「騎獅道 旭」



「ソフィア・アマル」



「パーシー・クラウディア」



「宮本 国綱」



「メルティ・ヴァンチャット」



「モニカ・エストレイラ」



「ヨナ・アージェント」



「レノオール・ブラックハウンド」



 クラス・アステシア、総勢12名。魔法学園バウディアムスでの生活が始まる。

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