星の奇跡 ―3―
(やっぱり、落ちてきてるよね!?)
ノーチェスの大地目掛けて、否、モニカ目掛けて真っ直ぐに星が降る。速度を上げて落ちてくるそれは、なぜかモニカを目指して軌道を変えた。
(ちょっ……ちょっと待って! 私、防御魔法なんて使えなっ――)
目を離してはいなかった。落ちてくるほうき星は、目にも留まらぬ速さで、既にモニカの目の前まで接近していた。
(間に合わないッッ!――)
ぽすんっと、
気の抜けるような音を立ててそれはモニカのお腹に落下した。呆気にとられて、思考が一瞬停止する。しかしそれも束の間、もぞもぞとうごめく白い毛玉から感じる、微かな温もりでモニカは正気を取り戻した。
「……なっ、なに!? なになに、なんなのこれ!」
視界が悪く、暗い夜でも輝いて見える純白の毛玉は、蹴りやすいボールくらいの大きさで、よく見ると小さなしっぽが左右にぶんぶんと揺れている。
「い、生き物……?」
違う
本能が囁く。これは、この世の生き物ではない。モニカにしか分からないであろう、理屈では説明できない何かを感じていた。かといって、この毛玉は今までモニカが見てきた何とも異なる。まずこれには、触れることができた。今まで見ることしかできなかった、実際に存在しているのかもあやふやなものではない。
(つまり、これは幽霊じゃない……?)
この時点で、モニカの理性は崩壊しつつあった。何を隠そう、モニカは大の可愛い物好きなのである。得体の知れない『何か』だろうと、モニカは目の前の純白の毛玉をモフりたい衝動は抑えられなかった。
「……ちょ、ちょっとくらいなら……いいよね」
モニカが毛玉に手を伸ばしたその瞬間、毛玉からピコりと、2つの耳が生えてきた。
(お、お耳ぃいいぃぃ!!! ぴょこんって! 今ぴょこんって出てきた!)
理性が決壊する。たまらず抱えあげた毛玉は至福の触り心地であった。まるで幸福そのものに包み込まれているような感覚で思わずモニカは我を忘れている。
(す、吸えるかな……)
モニカが毛玉に顔を埋めようとした直後、毛玉は白煙を上げてモニカの手の上から転がり落ちた。
「あぁ……! 大丈夫!?」
慌てて拾い上げようと毛玉に近づくと、思いがけずモニカはそれと目が合ってしまった。絵に書いたような丸顔、大きくて輝いている淡い青と赤の瞳、微かにピンクに染まった頬、小さな手足。
(あ、思い出した……)
それは、かつて父に見せてもらった絵本に描かれていたとある妖のことだった。9つの尾を生やした牙を持つ獣。純白の毛と妖しげな青い炎を纏う爪を持つ獣。
「えへへ、よろしくお願いします……」
名を、九尾の狐。大昔、極東と呼ばれる大地を、その大いなる美貌によって滅ぼしたとされる神獣。
人と妖。決して結ばれることのない2つが結ばれたこの日、ノーチェスに降り注いだ奇跡と共に、モニカの人生を大きく変えることになる。
「こ、こちらこそ……?」