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魔法世界の妖憑き  作者: Lilac
第二章『焔と恩讐編』

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閑話 大魔法使いたちの夜遊び

 実技試験が終わり、いつも以上に慌ただしくなるバウディアムス。空に手が届きそうなほど高い神精樹の上で、2人の大魔法使いが楽しそうに話している。空では、紅い蝶が宵月と共に踊っている。アステシアはタバコを片手に、白い煙を吐きながら月を見ている。



「今回の試験、アレの正体はなんだ」


「え〜、分かんなかったの〜?」



 箒に乗ることすらせず、獄蝶のジョカが夜を泳ぐ。獄蝶のジョカは、普通の魔法使いには理解もできないような魔法を扱う。紅い蝶の魔法を好んで使用しているようで、得意げにいつも周囲に飛ばしている。獄蝶のジョカは月に照らされ、からかうように嘲笑い、ついにネタばらしをした。



「あれは、極東の化け物だよ。(あやかし)ってやつさ。向こうで見つけたはいいんだけど、処理に困ってね。せっかくだから実技試験に使っちゃお〜って思って」


「それで、あわよくば奴らに倒してもらおう、という魂胆か」


「あったり〜」


「発想はいいがリスクと見合っていない。負傷者も出ているんだぞ」


「いいじゃ〜ん。そういう試験だろ?」



 悪気はないと主張するわけでもなく、獄蝶のジョカはくるくると髪を弄る。赤みがかった薄い茶髪を振り乱して、獄蝶のジョカは無邪気にはしゃぐ。対してアステシアは憂鬱に目を半開き、退屈そうにタバコを咥える。吐き出された白い煙が月を朧にさせる。



「にしても、今回の候補生たちは優秀だね。総合評価断トツのパーシー・クラウディア。うちの弟子たちはもうちょっと頑張れたかな」


「……お前、弟子なんて取っていたのか」


「極東にいた時にね。しばらく顔見てなかったけど、まさか追っかけてきちゃうとはね」


「追いかけて……か」



 何か言いたげにアステシアが月を見る。



「お前に師は向いていないな」


「え〜、なんでさ」


「自分の弟子のことも分かっていない。教師も務まるかどうか……」



 愚痴をこぼすアステシアを気にもとめず、獄蝶のジョカが3色に彩られた団子を頬張る。



「おい、それは私のだ」


「これはお月見だよ? お団子がなきゃやってられないね」


「お前の分はさっきなくなった。早く返せ」


「へへ、返して欲しかったら飛んで取り返してみるといいよ」


「くそ、私が飛べないことくらい知っているはずだろう!」



 子どものように、舌を出して獄蝶のジョカが煽る。どうにか懲らしめてやろうと試行錯誤するも、アステシアに状況を変えるような手はなかった。ついにアステシアは団子が無くなり、空になった皿に手をかける。そしてそれを手に持ち、大きく振りかぶった瞬間、2人の大魔法使いの夜遊びが終わりを告げる。



「そんなところでサボってたんですか!」


「わぁ!」



 最上階の窓から顔を出し、フィスティシアが大声を出す。不意をつかれてか、獄蝶のジョカは姿勢を崩し、箒を片手に落ちていく。



「あ〜れ〜!」


「ちょっと!」


「放っておけ。どうせ死なん」



 下の方で、かすかに紅く光が灯るのが見えた。それを見てアステシアは惜しい、と小さな声で呟く。そのままアステシアは、軽い身のこなしで室内に侵入し、何事も無かったかのようにスタスタと歩き去ってしまう。



「誤魔化されませんよ」


「くそっ」


「仕事をほったらかして、2人で何をしていたんですか」


「極東の文化、『月見(つきみ)』と言うやつだ。」


「なんですかそれは」


「君たちはものを知らないね〜。よく今まで生きてこられたね、感心するよ」



 嫌味ったらしく獄蝶のジョカが窓の外から顔を出す。アステシアは露骨に嫌そうな顔をしている。そして鼻を高くして、誰も聞いていないというのに説明を始めた。



「月見っていうのはね、月を眺めを見てを楽しむことだよ。ホントは満月だと美しくていいんだけど」


「……それ、何が楽しいんですか」


「いつかエトゥラにも分かる時がくるさ」



 2人の大魔法使い。その実力はエトゥラにも底が知れないほどだ。ぴくりと、指を動かした瞬間に反撃を喰らわされる、それが鮮明に想像できる。



「どうかしたかい? 早く仕事に戻ろうよ」


「あなたたちが先にサボってたんです!」



 そして、また月が顔を隠す。バウディアムスの職務室はまた一段と慌ただしくなり、ついに静まり返る。

 今にも落ちてきそうな藍色の空の下。若き魔法使いたちが目を覚ます時、待ちわびた結果発表が行われる。

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