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魔法世界の妖憑き  作者: Lilac
第二章『焔と恩讐編』

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実技試験 ―4―

「ねぇエトゥラ。エトゥラにはアレ、見える?」



 実技試験を眺めているエトゥラに、ビアスは質問した。余程姿が気になるのか、目を凝らしてじっと空を見つめている。



「……アレの正体は分からんが、神隠しの仕組みなら理解できる」


「獄蝶さんでしょ」


「そうだ」



 実際に、見越し入道に神隠しの力は備わっていない。獄蝶のジョカが魔法を使って、バレないように受験者をどこかに『転移』させている。転移させる受験者は獄蝶のジョカの独断と偏見、あとは気分によって決められる。



「雰囲気作りのためにここまでやるのか……あの人は」


「いつの間にか、全然人いないね」


「最初からこうしていればよかったものを。なんて回りくどい方法だ」



 その事に気づいた者も何人かいるようで、既に振り返って受験者たちはそれぞれ攻撃を試みる。だが、姿の見えない見越し入道には当たりもせずに宙を翔るのみだ。そして、獄蝶のジョカの期待に添えなかった受験者から消されていく。



「エトゥラならこの状況、どうする?」


「無茶を言うな。カタチ無き物とどう戦えという。やるだけやってリタイアだリタイア。無駄な消費は避けるべきだ」


「とか言って、実際にあそこに立ったら何とかしちゃうんでしょ?」



 似合わないメガネを装着して、ビアスはまた目を凝らし始めた。いつだったか、エトゥラが聞いた話では、ビアスのメガネには魔法が組み込まれているらしく、『魔力の流れ』を見ることができるらしい。物質に付着した微かな魔力や、誰かが残した魔力の残穢まで見ることができると、楽しそうに自慢していた。



「……お前にメガネは似合わん。コンタクトにしろ」


「う〜ん、どちらかと言うとエトゥラの方が似合うしね、メガネ」



 生徒会長らしく整った顔つきに、そこそこ高い身長。歳の割に大人びたスレンダーな体格。ビアスの言う通り、メガネの似合う真面目そうな顔をしている、バウディアムスの生徒会長。エトゥラは何か怪しいものを見るような鋭い目で試験を見届ける。その視線の先にいるのは――



「あの子、やっぱり気になっちゃう?」


「……モニカ・エストレイラ」



 魔法使いに不可能はない、などと聞くことがある。魔法を使えば、魔法使いにできないことはない。だが、もちろん例外はある。人によって使える魔法は異なる。魔法の性質はそれぞれ得意不得意があり、当然エトゥラにも使うことのできない魔法もある。魔法に不可能はないだろう。あらゆる性質の魔法がある。傷を癒し、空を飛び、海を割ることだって、不可能ではない。だが、それらの魔法すべてを使える魔法使いなど、存在しない。



「あの魔法は……ダメだ」



 あの魔法はおかしい。『奇跡』を起こす魔法など、あってはならないのだ。



「魔法には、原理がある。私の魔法にも、もちろん、お前の魔法にもな。だが、あれは違う」


「……原理がないから奇跡なんでしょ?」


「そこがダメだ。矛盾している。魔法のバランスを覆しかねない」


「うーんと、原理が分からないと魔法としておかしくて、原理を解明すると奇跡として成り立たない……ってこと?」


「そうだ。今のモニカ・エストレイラの状態は前者だな」


「じゃあ、どうすればいいの?」


「簡単だ。原理を解明し、奇跡としても成り立たせればいい」



 真顔でそういうエトゥラの横顔をビアスは呆けた顔で2度見した。ビアスには、エトゥラの言っている意味が全く分からなかった。それこそ矛盾している。しばらく頭を悩ませて、何か合点がいったように閃かせた。



「じゃあ、原理を解明させず、魔法として奇跡を確立させる方法はないの?」


「ふふっ……」



 耐えきれず、アステシアが吹き出した。



「お前たちは……ふふっ……本当に面白いな」


「何が面白いんですか?」


「不要な心配だ。あれは既に魔法として確立されているし、奇跡としての原理もある」


「どうやって?」


「そのうち分かるさ」



 スクスクと笑いながら、アステシアはモニカの方を見るように促す。もう訓練所に残っている者は残りわずかだ。その中で運良く、モニカも生き残っている。あくまでも回避を優先する他の受験者達と、好戦的に再び攻撃を試みる旭が飛翔する。

 焔が、紅く燃え上がる。熱く、煙を上げて空に駆けて猛る。あまりにも洗練され尽くした魔法だった。青い蝶が真っ先に選ぶのも当然だろう。揺らぎ、魅了するように燃え盛る、紅い焔。



「それでも、アレには届かない」



 虚しくも、轟々と音を立てて空を飛んでいく。これっぽっちも手応えは感じられない。大きな舌打ちが、遠くで観戦しているエトゥラたちにも聞こえてきた。その次の瞬間、旭を襲ったのはとてつもない危機感だった。このままではマズいと回避行動を取るが、間に合わない。



「パーシー! 急いで!」



 モニカが駆ける。パーシーを引き連れて、今にも見越し入道の両手で叩き潰されようとしている旭の元へ猛ダッシュで走っていく。



「”超重力(ギガ・グラビティ)二倍(ダブル)”――!!!」


「――っ!」



 パーシーの掛け声と共に、旭が物凄い速度で地面に引き寄せられる。半ば強引ではあるが、見越し入道の攻撃を回避してパーシーは重力を抑える。しかし、旭は勢いのまま背中を強打したようで、背中をさすりながら悶えている。呼吸が激しくなり、モニカは地面に腰を下ろした。



「よかった〜……あんなの食らったら一溜りもないよ……」



 まるで、その攻撃が()()()()()かのように話すモニカ。その言葉を聞いて、旭とパーシーがモニカに視線を向ける。そして、何かを確かめるように、旭が何もないはずの空を指さしてモニカに問いかける。



「……お前、アレが見えるのか」


「う、うん……」


「あぁ〜なるほど、そっち系ね」


「え? どっち系?」



 誰よりも早く、パーシーが見えない魔獣の正体に勘づいた。自分を含めた受験者には見えない、モニカにしか見えない『不可視の魔獣』。そんなもの1つしか考えられない。そしてパーシーは嬉しそうに笑った。



「俺には見えない」



 そして、旭もこの試験の『鍵』を見つける。ニタニタと、獄蝶のジョカは気に食わない笑い顔を浮かべる。そして、旭はふと、獄蝶のジョカの言葉を思い出した。



「……存在している次元が違う」


「今回の試験はモニカがキーだね」



 2人の魔法使いが、解を導き出す。



「手を貸せ、星の女」


「モニカ! 私に力を貸して!」

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