星の奇跡 ―2―
モニカ・エストレイラは魔法が使えない。
通常、初等教育が完了する頃には、個人差はあれどほとんどの基礎魔法を使えるようになるはずだった。モニカも例に漏れず、「魔法の発現が少し遅い子」だと思われていた。だが、モニカが12歳になっても魔法は発言しなかった。飛翔、引寄、光源、防御魔法……など、数ある魔法のたったひとつでさえ、モニカは扱うことが出来なかったのだ。しかし幸いなことに、明るく、社交的だったモニカは魔法が使えずとも周囲に馴染むことができていた。
そう、魔法が使えないことは、モニカにとって大した問題ではなかった。問題だったのは、それでいて、モニカが「特別」だったからだ。
(また……視える)
魔法の代わりにモニカに与えられた力。それは、『見えないものを見る目』だった。物心つく前から、モニカには実体のない『何か』が見えていた。
(星……綺麗だなぁ)
モニカの見上げた夜空に、星はなかった。三日月の浮かぶノーチェスの空は、一瞬でも気を緩めてしまえば吸い込まれてしまいそうなほど深い藍で染まっている。星など、あるはずがない。
モニカは時折、今日のように芝生の上で大の字になりながら、愚痴をこぼすことがある。子供の頃からのストレス発散だったそれは、歳を重ねるごとに増えていき、14歳になった今では週に2、3回にまで増え、今では習慣になってしまった。
「……こんな「目」じゃなくて、魔法を使いたかったな」
モニカの目には、何が見えているのか。それは本人もよく分かっていなかった。それは幽霊かもしれないし、妖精かもしれないし、妖かもしれない。もしくは気とも言えるだろう。少なくとも、モニカは『この世のものではない何か』と繋がっている。
「も〜! なんで運命ってこんなに残酷なの〜!」
そう、繋がっているのだ。本人は気づきもしていないが、モニカは、この世と、この世ではないどこかの世界を繋ぐ架け橋になっている。そして、何かの拍子に、その2点を繋ぐ『扉』が開いてしまったら……一体どうなるだろうか。
「はぁ〜あ、何かの間違いで魔法、使えるようにならないかな」
ふと、空を見上げて、モニカは母の言っていたおまじないの言葉を思い出した。今でも、心の中で唱えると、心が落ち着く言葉。
「……ストラト・ステラ―」
思えば、初めてその言葉を口に出したような気がした。どんな時でも、モニカを安心させてくれる魔法のような言葉。
(星……私にしか見えない、空に浮かぶ星……)
モニカが自分だけの景色に浸っていると、ふと、空に一筋のほうき星が流れた。指を組んで、願いを星に込める。このほうき星が消えるまでに……
(……願い事とか、あんまり思い浮かばないけど、もし、私の願いが叶うのなら、どうか――)
ほうき星が宙を駆ける。9つの尾を引き、ノーチェスの宙を廻る。星を伝い、まるで何かを描くように流れるほうき星は、やがて……
(あれ、落ちてきてない……?)