魔法使い ―5―
やっとの思いで家に着く。既に部屋の明かりが灯されていた。パーシーは『疲れたから先行ってて』と言って少し後ろで休憩している。心強い味方がいなくなってしまったと肩を落とし、モニカは何かを覚悟したかのように息を飲む。すると、その緊張を解すように、後ろから声をかけられた。
「あの、モニカさん」
ふと振り返ると、そこにいたのはヨナ・アージェントだった。
「本日は、申し訳ありませんでした。診察もまともに出来ず、私たちはただ見守っているばかりで……」
「え!? いやいやそんな! 悪いのは私の方だよ。勝手に飛び出しちゃったし、挙句死ぬ寸前だったしさ」
ヨナは表情を変えない。モニカは無理に笑って見せるが、ヨナの心配そうな表情が刺さる。見ず知らずの人とはいえ、迷惑をかけてしまった。きっと、母にも同じことで怒られるだろうと、モニカの背筋がまた伸びる。すると、ヨナがまた口を開いた。
「私……私は、母と一緒に魔法を使った医療を専門に学んでいます。今日は、二度とない体験をしました」
「私はあんまり実感ないんだけどね。生き返ったって言われても……」
「とにかく、お礼をさせてください。ありがとうございました」
深々とヨナが頭を下げる。
「そ、そんな! 別にお礼なんて! こっちがしたいくらいです」
「それで、その……私」
「……?」
「私、今年バウディアムスに行くんです」
「え?」
バウディアムス魔法学園。ノーチェスに存在する唯一の魔法科学園。『魔法使い』としてノーチェスで活動するためには、バウディアムス魔法学園で魔法使いとして認められなければならない。モニカほどの歳になった魔法使いを目指すものたちが集う場所だ。しかし、バウディアムスの試験の難易度は他の魔法学園よりも数倍高く、最高難易度とまで言われている。そして、数ヶ月前まで、ヨナと同じようにモニカの目指していた魔法学園でもある。
「私の専攻している医療には魔法を使わなければならないので……それと、医学の知識をより深めるために……」
「そ、そうなんだ。頑張って!」
何となく、気まずくなってモニカはそれくらいの感想しか出てこなかった。ここに来ても、また才能の格差を思い知らされる。実の所、モニカはパーシーにも同じようなことを伝えられていた。試験を受けるためには、バウディアムスから封書が送られてくるのだが、パーシーには既にそれが送られてきているらしい。もちろん、魔法の使えないモニカには送られていない。ヨナがああ言っているということは、つまりそういうことなのだろうと、モニカは頭の中で合点した。
「それで、モニカさんさえよければ……」
「は〜い、それ以上はダメ」
ヨナが何を言おうとしたのか、モニカには検討がついていたが、それを聞き入れる覚悟まではできていなかった。きっと、それ以上聞いてしまったら、間違いなく笑顔を見せることはできなかっただろう。何かを察したのか、後ろからパーシーが現れヨナの口を塞いだ。
「離して」
「怖……睨まないでよ。すぐ離すからさ」
2人が目線だけで火花を散らす中、バツが悪そうにモニカが笑いながら言った。
「ごめんね。バウディアムスには行きたいんだけど……私、魔法……使えないから」
「モニカ……」
「いいの、パーシー。事実だし……」
「魔法が……使えない……?」
不思議そうにヨナがモニカを見て訝しむ。様々な患者と関わり、見てきたヨナになら分かる。その中で、魔法が使えないものとも何度か会ったことがある。何故、魔法が使えないはずがないと、ヨナが疑問を抱くのか。それは、モニカに、魔法が知覚できているからだ。モニカは、パーシーの重力操作の魔法を意識的に避けていた。
魔法は基本、魔力と呼ばれるエネルギーを使って発動させる。魔力の量には個人差があり、ヨナは平均より少し下。パーシーは平均を大きく上回っている。そして、この魔力には、『魔力を持つものにしか近くできない』という特性がある。つまり、魔力のないものは、魔法を見ることすら出来ないのだ。
(にも関わらず、モニカはしっかりと魔力を視認できてる……それなのに、魔法が使えない?)
「ヨナさん?」
「……失礼しました。少し考え事を」
「いつまでいるのよ。リズさんが待ってるわよ」
「あなたに言われなくてもわかってる。それじゃあ、またいつかどこかで会いましょう」
「うん、じゃあね!」
リズとヨナが空を飛ぶ。またどこかで、会うことがあれば、今度はちゃんとお礼をしようと、モニカは大きく手を振り、2人を見送った。




