星の奇跡 ―1―
それは、突然の出会いだった。
運命とは、正しくこういうことなのだろう。
目をぱちくりと開けたその生き物を見て、私は何度も目を疑った。
奇跡とも言えるこの出会いは、私の人生を大きく変えることになった。
「えへへ、よろしくお願いします……」
魔都ノーチェス郊外――
「ね〜モニカ〜! ほんとにやるの〜!? 絶対無理だって!」
足が竦むほど高い崖の縁に立ち、深呼吸をする。恐怖心を煽るように吹く風が短い髪を靡かせる。下から聞こえてくる忠告はもう耳に入ってこない。言うことを聞かずふるふると震える腕を押さえつけながら、モニカは覚悟を決めた。
「挑戦は大事だけど! 飛べるわけないじゃん! この高さだよ!? ほんとにっ━━━━━!」
「飛べなかったら、ちゃんと受け止めてよね! パーシー!」
飛び落ちる瞬間、小さいながらも、顔を真っ青にする親友の姿が見えた。まだ何かを叫んでいる様子だったが、もう間に合わない。奥歯を噛み締め、モニカは数十メートル先の地面に真っ逆さまに落ちていった。
「ひゃっほ〜〜〜〜〜〜う!!!!!」
バサバサと音を立てて服が風を切る。高所から見下ろす魔都の姿に感動しながらも、刻一刻と近づくあの瞬間が近づいてくる。興奮と恐怖の狭間、アドレナリンが脳を満たしていく。
(大丈夫大丈夫大丈夫、飛べる。飛べるって! 私ならいける!)
―”飛翔”!―
心の中で叫ぶ。しかし、反応はまったくなかった。モニカは依然として地面へと落ちていく。もう、手を伸ばせば、地面に手が届いてしまう。
「”反重力”」
パーシーがそう唱えると、モニカの身体は重力に逆らい、ふわりと持ち上がる。あとほんの数秒遅かったら……そう考えるとまた全身に鳥肌が立った。パーシーはため息をついて下からモニカを見上げていた。さっきまで煽るように吹いていた風はよそよそと冷や汗を乾かしている。ほっと、息をついたその瞬間、モニカの視界が180度回転した。突然のことで対応が出来ず、モニカはまた地面へと真っ逆さまに落ちていく。
「ほぇ?」
「あ、ごめん!?」
頭から地面に激突する。綺麗なほど文字通りなゴンっ!という音が辺りに響く。目を塞ぎつつ、パーシーは恐る恐る指の間からモニカを観察する。
「ったた……」
「よ……よかった〜。大丈夫? 怪我してない?」
「ま、また失敗しちゃった……」
「もう、あと一瞬遅かったら危なかったんだからね!」
「うん、私も……もうやりたくないかも」
差し伸べられたパーシーの手を握って、モニカはにっこりと笑顔を見せた。ひとたびその陽気に当てられてしまえば、怒る気力も失ってしまう。けれど、それは無くならず、別の感情に変わる。
「……こんなこと、あんまし言いたくないけどさ。やっぱり、魔法使いになるのは諦めたら? 魔法使えなくてもさ、なんにも変わんないよ」
「でもっ!」
「それに、ほら、モニカは魔法使えないじゃん」
あまりにも残酷な現実に、モニカは息を飲み込んだ。俯きながら、パーシーは何故か悲しそうに笑った。精一杯の笑顔で、モニカを傷つけまいと言葉を選んで言った。
「私、モニカのことずっと友達だと思ってるよ。他の人はそうじゃなかったけど、私は――」
「ごめん、パーシー」
遮るように、モニカは勢いよく立ち上がった。パーシーの手を借りることなく、まだ痛むであろう足を引きずって背を向けてしまった。
「もう、聞きたくないや」
「ま、待って、モニカ!」
走り去っていく背を追うことは出来なかった。ただ、だんだんと遠ざかっていく姿を、何も出来ず眺めているばかりだった。
そしてまもなく、夜の都に星が降る。