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2025/2/13

皆さまからいただきました感想を見て、大幅加筆修正しました。

あのパーティからすぐ。

リンクドール伯爵家から盛大な謝罪の手紙が届いたが、気にするなと一言書いて返信しておいた。


平民の内に何かを成し遂げてこいと言われて送り出されていた私は、ライアンの父であるミゲルの話を聞いて「これだ」と思った。

とりあえずやってみようと試行錯誤して臨んだものの、貴族アンジェに摘み取られる結果となる。

父からは「甘い」と叱咤され、ミゲルの夢も一緒に摘み取られてしまったことを猛省した。

匿名やきちんとした書類を残さずそのまま推し進めたことも失敗の要因だった。

自分は本当に考えの甘いお貴族様だったのだと現実を叩きつけられた。


では、貴族アンジェに負けないものを作り上げる。

今度は絶対に失敗しない。


そう意気込んで作ったコーヒーのテイクアウト専門の出店は瞬く間にヒットした。


今ではアンジェが手掛ける喫茶店を凌駕する勢いだ。

様々なコーヒーを楽しめるコンセプトにしたのが受けたのだった。


例えば、コーヒーにココアを混ぜ、その上に生クリームをトッピングしたり。

キャラメルやチョコをブレンドしたり、夏にはコーヒー味のフロートにしたり。


もちろんミゲルの腕もいいので、仕事の合間のひと時のお供として男女問わずに人気となる。



リンクドール伯爵家は数日の内にライアンとの婚約の話を白紙に戻すこととなった。

ライアンが変わらないと判断したのだろう。

あのままライアンと結婚していれば社交界での爪弾きは避けられない。


ただでさえ、あの一件でリンクドールは満足できる社交はできない状態なのだから、これ以上のリスクは犯したくなかったのだろう。

そしてアンジェもきっと一生貴族と結婚することはできない。

これから先社交が満足にできない、そしてきっと自分の家も同じような扱いを受けると分かっていて、普通の貴族なら誰も手はあげないだろうから。


ちなみに平民に戻ったライアンにあの店の所有権はない。

アンジェがちゃっかりとそのように取り計らったからだ。


つまり、アンジェは仕事はできてお金はあっても一生独身且つほぼ一生社交はできなくなり、ライアンは全てを失ったということだ。


アンジェは恐らくそれを理解し、真摯にあのカフェの運営にだけに心血を注いでいるようで大変結構だが―――



「おバカなライアン。せめてパーティで大人しくしてれば良かったのに」



――ライアンは本当にバカだ。

私と結婚していたとしても貴族にはなりえないと言われて、貴族になれる唯一の道だったアンジェとの結婚も白紙にされるなんて。

本当に努力ができないおバカさん。


くつり、と笑うとソーサーカップをテーブルに戻した。



つい昨日のことだが、屋敷にライアンとライアンの母親がきたと門番から報告があった。

もちろん取次ぎなしでの門前払いだが。


「夫との取次ぎをしてほしい」だの

「せめて生活を助けてほしい」だの

「私に取り次いでくれれば分かる」だの


本当にバカバカしいことだ。


ミゲルもパン屋の夫婦も、ライアンたちに何かされるかもしれないからと説得して、我が公爵家の領地の一つへ引越していただいたし、行先もライアンには伝わらないように情報操作させていただいたので伝わることはない。



戯言をいうライアンとライアンの母親に、門番は


「この屋敷に勤めている騎士団も暗部も含める全員が命に代えてもお守りしてきた大切なお嬢様を、あなたがどう扱ってきたのか屋敷の全員が知っています。我々が礼節を持って対応している間におかえりなさい」


と笑顔でライアンに伝え、穏便にお帰りいただいたらしい。

優秀な門番で頼もしい限りである。



「のんびり貴族生活に戻ってどんな感じ?」



気持ちの良い風と庭園の花の香を楽しんでいると、先日私の婚約者となった隣国の王太子がやってきた。



「あら?来るのは明日って聞いていたと思ったのだけど」


「早く会いに来たくて仕事を切り上げてきたんだよ」



そういって彼は私の頭にキスを落とす。



彼は学生時代の先輩だ。同じ生徒会に入っていて交流があった。

その頃から好意を抱かれているのは分かっていたが、市井に降りる3年も近づいていたことからそれとなくかわし、彼とははっきりと一線を引いていた。

変な噂が立つからと、時には従兄である王太子を通してクレームもいれて徹底的に距離を置いていたのだが。



「またどこぞの馬の骨とも分からぬ者に盗られるかもしれないから」


「もうあなたと婚約したんだから、そんなことは二度と起きませんよ」



ライアンとは手をつなぐ以上のことはしていない。

王家や我が家の影たち、そしてこの王太子が手配した影が徹底して目を光らせていたからだ。


王太子が私の向かいに座ると、すぐにお茶が出る。



「普通の市井の女の子の暮らしをしたかったのに、どこを見ても影の人たちがうろついているのを見て私がどれだけ怒っていたかご存じですか?」


「でも君、あのまま彼と結婚しても良かったと思っていただろう」


「それは好きだった時の話です」



苦笑した私はまたお茶を飲む。


賭けの対象でライアンに告白されたことは知っていた。

市井で親しくなった女の子が大変失礼極まりないことを男たちが話していたからと教えてくれたからだ。


その頃は、影に囲まれての生活にイライラしていたし、何なら目の前の婚約者があれほどはっきりと距離を置いていたのに自分に影を送っていた事実に辟易していたこともあり、ライアンの申し出を承諾したのだ。

これで諦めるだろうと。


すぐに振ってくるだろうと思っていたライアンがどんどん自分に好意を寄せてくれるのも分かり、不器用でも面倒を見ようとしてくれるライアンに自分自身も惹かれた。

今思えば周りにはいないタイプだったから余計に惹かれたというのもあったのだろう。


だから家にもそのまま平民として暮らす道があるかどうかも確認していた。

なのにあんな振られ方をして、私もひどく傷ついたのだ。

あんなことがなければ、おそらく私は貴族に戻ることなく今でもあのパン屋にいるだろう。


でももう終わったことだ。

貴族に戻った私に、この王太子は待っていましたとばかりに猛烈に求婚してきた。

ライアンのことで私が「平民を弄んだ」という不名誉な噂が流れていることもあって断ったが、その熱量に押されて婚約に至ったのだった。



「今はもう好きではないし、―――私にはあなたがいます」



そういって私は彼のほっぺをつん、とつついた。



「こんなに一途に想っていただけて、絶対に私を大事にしてくれると確信が持てる方、なかなかいませんよ?あなたが不安に思うなら、不安がなくなるまで一緒にいます」


「……私は存外狭量な男なのだが」


「知っています。では、私には王太子をキープして平民を弄んだ女という不名誉な噂もありますが気にされますか?」


「全く気にならない」



力強く言った彼に、私は「ほらね、私を大事にしてくれる」と笑った。



「不名誉な噂ではあるが――むしろ、私をキープしてくれていた方がよかったと思うほど君は徹底して一線を引いていたからね…」


「あなたは隣国の王太子ですから当然です」



もしも結婚を命令されていれば、私は従う他なかった。

隣国との強固な繋がりは、この国にとってもとても望ましいことだから。

だからこそ、私は徹底していた。


ライアン(平民)を弄んだという噂は解せないが、まあそう捉えられても仕方がない。

けれど私はライアンと向き合い、確かに恋に落ちていた。

平民になって暮らしていく覚悟も固めていたところでの彼の裏切り。

弄ばれたのは私だし、自分の見る目のなさには呆れもしたが、その経験のおかげで王太子のストーカー気味行為(影をつけて監視)に、ここまで自分を大事にしてくれる人いるかなという気付きにも繋がった。

(ちょっと過保護すぎる気もするが)



「また距離を置かれる前に、束縛をしてしまってもいいのだろうか」


「限度が超えれば話し合いをしましょう。私は人を見る目がないので不安になる国民もいると思いますが、あなたがいれば百人力ですね」



少し拗ねた顔でいう彼に、私は「ああ…」と思う。

ライアンも途中から私が好きで好きで堪らないという時があった。

私はそんな彼を可愛く思っていた。


でも、この彼はライアンなど足元に及ばない程に可愛い。

普段はキリッとしていて、王太子としての素質も能力も申し分ないパーフェクトな王子。

でも私がいるとちらちらと視線を向けるし、仕事の話をしても顔を赤らめる。

なんとも分かりやすい方で、本当にお可愛らしいのだ。


そんなことを言ったらきっと不機嫌になってしまうから言わないけれど。



「はあ………早く結婚したい」


「……っ」



テーブルに突っ伏してしまった彼に私は心臓が鷲掴みにされた気分になる。


――彼は私を諦めずに一途に想い続けてくれた。

私も彼を一途に思い、彼を支えて、彼と同じだけの想いを返したい。


そんな思いから、心からの言葉を送った。



「私はあなたを愛しています」

皆さま感想ありがとうございます。

あまり熟考せずに勢いで書き上げた作品にたくさんのお声をいただき嬉しく思います。

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