其の4 ザクロ
「とりあえず山を降りなきゃか…」
この山に最初来た時は一面竹林だったが、岩の妖怪から逃げる途中でかなり移動したため、竹と木が入り混じった森のような場所に出た。
このまま山でサバイバル生活をするのもありかと思ったが、流石に道具が足りない。折り鶴に道具になってもらうとしても、もしも使用制限があったりしたら必要な時に使えないかもしれない。さっきの妖怪みたいなやつに出会ったりするかもだからな…
やっぱり、このまま何の説明もなく進めていくのはきついしな…
なんか村とか探して言葉が通じるやつに会いたい。というか、食料がない。折り鶴食べれんの?
紙じゃん。
しかも、折り鶴って食べて腹膨らむのか?腹持ちとかするのか?でも、さっき剣を使った時、岩ゴーレムを倒した、役目を果たした後は、この今も残っている最初にあちらの世界で会った赤の折り鶴を残して消えてしまった。こいつが基準となっているのだろうか。
一応、今こいつについて分かっていることをまとめてみると。
・増える
・色が変わる
・形も変わる
・踊る(意思がある、生きているのだろうか?)
・考えが通じる(ことがある。さっきからずっと踊り狂っていて通じていないが。)
そんなところだろうか。
といっても、増えるのは上限があったりするのか、一度増えたものはどうなるのか、形が変わるのはどんなものでも作れるのだろうか、剣とバリアは作れたが細かいものは作れるのか、見たことあるものを作れるとかだったら最強だが……
わからないことが多すぎる。
…聞いてみるか?
「おい、折り鶴」と言いかけて思ったが、
「折り鶴」ってなんか可哀想な気がしてきた。
名前はあるのだろうか。
「お前、名前は?」
…無反応。いつまで踊ってんだお前。
さっきからずっと話を聞いてくれない。俺、メンタル豆腐なんだけど。
あいさつするのさえ苦手なんだけど。
…もしかしたら別に通りすがりで助けてくれただけなのだろうか。
俺に懐いてくれているようなもんだと考えてしまっていたが…
まぁ一人よりマシだ。
少なくとも、俺はこいつに対して感謝している。助けてくれたし、この世界に連れてきてくれたからな。
こいつが俺のことをどう思っているか知らんが。
てか、こいつがすっげえ強い神とかで、タメ口使ってきやがって凡人ごときが、とか思われてたらどうしよう。
そういう可能性もなくもない。
まあどちらにせよ、早く信頼を得るべきだろう。
と、言うわけで命名タイム。
どんな名前にしてやろうか。
こいつのデフォルトの色は赤だから、赤いものを元にして…
赤いものといえば、トマトとかポストとかか? なんか洋風すぎない?
もっと和風に…和風な赤いものって何だ?うーん…
ふとそこにある木を見てみると、赤い実がなっていた。りんごじゃなさそうだが…あっ!
「ザクロはどうだ?」
その赤い実はおそらく柘榴だろう。こんな山奥に生える植物ではなかったとは思うが。
まあ、それでザクロ。そこそこいい名前だとは思うが。反応を見てみよう。と、思って間もなく折り鶴…もといザクロは俺の周りを嬉しそうにクルクル回り始めた。気に入ってくれたようでよかった。
名前をつけたらめっちゃ愛着がわいてきた。こいつこんなにかわいかったっけ…(一応言っておくがこれから俺とザクロのラブコメが始まるわけではない)
…何の話してたんだっけ?
そうやって俺(たち?)が考えていた時。
強めの風が吹いた。どのくらい強いかというと、真横にあった木が吹っ飛んでいった。嵐がさったみたいな残骸を残して。
…そんなことある?