其の1 普通から特別へ
幽霊やものの怪、神話に妖術。そして妖怪。皆さんはこのようなものを信じているだろうか?俺は信じていない。
というかそんなふうな存在しないような事を考えだしたのは俺たち人間が嫌な事、怖い事を全部そいつらのせいにし、逃げたせいだ。現実逃避。
少なくとも俺はそう信じている。しかしながら今俺がしている事は同じ現実逃避だ。つまり・=・要するに。
俺はこの、前にいる生物の存在を認めたくない。そう言う事なのだ。
「なんなんだいったい…」
数時間前。
普通。俺の人生を一言で言うとそう。学力?普通。生活?普通。友達関係?普通。恋愛?…
変わっていると言えば
「天織科戸」と言う名前だけだろう。なんで「かと」って書いて「しなと」なんだよ。もう少しかっこいい漢字はなかったのか?司とか虎とかー。まあ響きがかっこいいし気に入っている。
そんなことを考えながら下校中。その時。「ん?」路地裏からガサガサと音がする。「猫かなんかか?」野良猫なんてこの辺であまり見ないが…その瞬間色が見えた。
猫とかなんとかの色ではなく赤である。間も無く全体像が見えた。よく見ると猫ではなかった。「…」人間なら誰もが一度は見たことある、と言うか折ったことあるであろうものが。「折り鶴…」そう。折り紙でおるあの鶴である。
その折り鶴がそのまま宙に浮いて、飛んで行った。風なんて吹いてないのに飛んで行った。スーッと。
・・・「ちょっと待てぇ!」もちろん追いかけていった。
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「・・・」
人生で一番全力で走ったのではないか?もう…足が…上がらねえよ?!
あの後俺は折り鶴を全力で追いかけた。時間にして10分くらい。すれ違う人たちにめっちゃ引かれた。悲しい。
こんな頑張って追いかけ遂に路地裏に追い詰めたと言うのに、
「消えた…」そう。跡形もなく消えていた。
そうだよな折り鶴が飛ぶわけないさきっと疲れてるんだ幻覚だ。
というか、折り鶴なんかが飛んでたら一つくらい目撃情報があってもいいはずだし、俺のように誰かしら追いかける人がいるはずだ。しかし、そんな情報は知らないし(小さい町だから情報が流れるのがものすごく早いのだ)さっき通りすがって引いていた人たちも折り鶴のほうは見ずに俺の方を見ていた。
つ・ま・り。TADANOGENNKAKU☆なのだ。
そりゃあ見るわ。んで引くわ。
にしてはやけにリアルな幻覚だった。せっかくだし他の説も考えてみようと思う。仮説を立てるのは得意なのだ。
実は俺はこの街にずっと住んでいたのではなく2年前に引っ越してきたばっかだ。なのでまだこの町についてそこまで詳しいわけではない。
つまり、これがこの町では至って普通の現象だと言う仮説だ。
この町では定期的に折り鶴が飛ぶのだ。
「なるほど!だから通りすがった人たちも折り鶴を見ずに俺を見てたんだな!慣れてるから!」自分で納得した。わざわざ声に出して。こんな奴がいたら引いて当然である。
さっき風に言うなら、TADANONICHIJOU☆だ。
「こんな馬鹿なことしてねぇで帰るか。」
と、後ろを向いた時だった。たくさんあった。いや、いた。そう。折り鶴が、沢山浮いていた。どのくらいかって言うと気持ち悪いくらいだ。集合体。文字で表すならウジャウジャという感じ。
「ッ………」
後悔した。こんな折り鶴なんて追いかけるんじゃなかった。これはヤバい。今まで感じたことの無い恐怖。たかが折り鶴でwwとか思うかもしれない。気が付いた時には囲まれていた。無数の折り鶴に指一本も動かせないくらいに。ご丁寧に尖っている方を向けて。前にあるはずの道も見えない。もうなんかカラフルで綺麗だ…。そう思った瞬間、突然折り鶴が発光した。
「?!眩しッ…」そこで意識が途切れた。
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そして、初めの場面に戻る。
目を覚ますとそこは竹林だった。昔話のような。俺は硬いコンクリートの上から柔らかい土の上に移動していた。
「誰かに運ばれたのか?」
周りを見渡しても人の気配はなかった。
逆に何があった…というかいたかというとそこには。
5メートルくらいの石のゴーレムがいた。漫画とかゲームで見るようなゴーレム。しかし周りが和風なので岩の妖怪なのだろうか。
「………」
いきなりファンタジーになってしまった。まだこちらには気づいていないようだ。
何かの主人公ならこんな岩、バリアとかで塞いでしまうのだろう。そんなことができたらいいのに。しかし俺はただファンタジーの世界にいるだけの観客。いつも通りの普通の人。なはずだ。
俺にできる事は逃げるだけ。
「あいつがこっちに気づく前に逃げ……」
言っている最中に、2メートルくらいの岩がこちらに向かって飛んできた。
気づかれてしまったのだ。獲物を逃すまいと。逃げようにも、もう間に合わないだろう。このまま。このよく分からない世界で、よく分からないまま、岩に押し潰されて死んでしまうのだろう。
もうあと1メートルほどしか俺と岩の距離が離れていない。覚悟して目をつぶった。しかし、思っていたような衝撃はこなかった。
「…?」もしかして。さっきのそんなことが出来たのか?
そんな淡い期待を抱いておそるおそる目を開くと。
さっきのそんなこと。つまりバリアができていた。
しかも、普通のバリアではなく、何かカラフルな。
さっき見たような。
そう。たくさんの折り鶴だった。
「なんだこれは…?」
俺をさっきの折り鶴どもが助けてくれたのか?
それとも、俺が折り鶴を使ったのか……
いや!今はそれどころじゃ無い!いつのまにか折り鶴バリアも破られている。この状況をどうにかするには!
さっきまであった折り鶴バリアは敗れた時、一箇所にまとまり一羽になった!つまりお前は増えて色々な形になれるんじゃないのか?
「おい!折り鶴!俺とお前が今したい事は一緒だろう?!」
そう、俺もお前も今したい事は!!
「このゴーレムをぶった斬る事だろぉ?!」
俺が叫んですぐ俺に反応したように折り鶴は増殖し
形を作り、俺の手に収まった。
それを見て俺は思わずニヤリと笑みをこぼす。
「分かってるじゃないか!折り鶴!」
俺の手にはカラフルな大剣があった。