初等部での様子
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初等部の私の在籍するクラスは、私の性格の変わり具合に驚いていた。
もちろん、私の変わってしまった性格による行動が『そういう遊び』で、私に無礼な言葉をかけたり馴れ馴れしいことをしてきたら、後で酷い目にあうかもしれない、とクラスメイトの皆は思っているようで近づいたり話しかけたりしてはこない。
授業もいつも通り、静かに進行した。
授業が終わると近衛と瑠璃川が近づいてきて、
「サクラ様が倒られる前に言っていた、早乙女遙のことですが、どうされますか?」
早乙女遥、と名前を聞いて私はどこかで聞いた名前だと思ったが急には思い出せなかった。
とても大事な名前のはずだ。胸がチリチリと何か響くような感じがする。
「どう……って? 何かあったの?」
近衛と瑠璃川から話を聞けば、その女の子は体育のドッヂボールで私の頭にボールを当てたらしい。私の記憶を思い出すほんの少し前の日のことらしい。
よくよく思い出したら、そんなこともあったな、と思い出す。当てられた直後、このサクラさんは早乙女遥に対してひと睨みをした。その子は体調を崩させるとともに早退していた。
その子の席に目を向けると、大人しく席に座り、黒っぽい藍色の前髪で顔を隠すように下を向き、体を震わせていた。
サクラに目をつけられると虐められ、最終的には自主退学に追い込まれる。
これが、この学園での不文律になっていた。
学園は私の親からの多額の支援金が振り込まれており、私の行動に教師は口を出せないのだ。
うん、フィクションなら許される設定だけどさ、私が親ならリアルなら有無を言わせずこんな学校なんて行かせないで公立の学校に行かせるわ。いろいろなところからの支援金で、有能な講師や設備を整えていても、サクラみたいなやつがいて野放しにされているというクソ環境ならそんな学校に絶対行かせたくない。
どの道、小学生でボールを頭に狙って当てるなんてなかなかできることではない。つまり、早乙女遙のやったことは過失によるものだ。そんなんで、なにを求めるのだ。いや、求めてはいけないのだ。
「サクラ様、トイレに連れて行って個室に閉じ込めた後、水をぶっかけてやりましょう。保管している着替えの場所はわかっていますし、合いかぎも用意しましたから、それも一緒にべしゃべしゃに濡らしてやりましょう。きっと、楽しいですよ」
瑠璃川は意気揚々にそんなおそろしいことを言い始めた。保管場所の合いかぎを作ったとか、瑠璃川の思考も幾分ぶっ飛んでいる。まあ、サクラに強く影響されたんだな、と思います。過去の自分に反省をしなければならないと思うと同時に、瑠璃川や近衛を真人間に戻してあげなきゃならないと思った。
それに、私の子分化している瑠璃川や近衛が他人に迷惑をかけた、ということは、つまるところ私の責任問題に発展して、私のお屋敷追放からの死亡エンドにつながるような気がしてならない。もしかしたら、誘拐されて春を売る仕事を無理やりさせられると思わせてからの内臓を売られる死亡エンドになるかもしれない。
私は瑠璃川をキリっと見つめて笑顔を作る。そう、心の中のイメージは漂白剤のCMが出来そうな驚く白さのサクラさんだ。
「もうそういうことはしないと言ったじゃないですか」
私の言葉に近衛も瑠璃川も驚いて口が開きっぱなしになった。
近衛が申し訳なさそうに声を出した。
「サクラ様、私の叔父の経営している病院に新たに脳を検査する機械が納入されまして……」
近衛、流石に失礼ってレベルだろうと思うが、それほど今までのサクラとは比べ物にならないのだろう。私もサクラの記憶を思い出す度に、サクラさん、マジ何やってんの、頭やべんじゃね?、という気持ちになるのだ。
「そんなに変わりましたか?」
「率直に言って、心配になるくらい」
「大丈夫、問題ありません」
不安そうな2人が見守る中、次の授業の準備を始めた。
もちろん、授業の準備を始めるだなんて、その2人がやっていたことだから、そこでもまた驚かれた。
本日全ての授業が終わりとなり、やることがあるから、と説明して近衛と瑠璃川と別れて、学園の外で待たせていた純白のベンツに乗り込む。
「リキさん、甘い物は好きですか?」
私に名前を呼ばれたボディーガードのリキが、少し驚く。リキはサクラに名前で呼ばれたことがないどころか、おい筋肉とかおっさん、と呼ばれていた。このサクラさん、失礼極まりないのだ。そんなわけだから、さん付けで名前が呼ばれるなんて思ってもいなかったのだろう。
「お嬢、どうされま……いや、お嬢、俺はお宮の森にあるビーンズっていうところのソフトクリームですね。あそこの経営者はかなりのソフトクリーム愛が強くてですね、フレーバーはバニラとその月限定の2種類しかないけれど、濃厚な味わいだけでなく、突き抜ける香りもたまらなく良くて、口の中で溶けてしまうのが恨めしくなるんだ。だから、二個目を注文してしまうんです」
リキの説明が妙に生々しくで、生唾を飲み込む。いや、グルメ話をしたいんじゃない。
「持ち帰れる物でなんかないか?」
「誰かに贈り物で?」
私は頷くと、リキは
「老舗の紀州庵のサザンマンが贈り物にはいいかと。塩とバターの効いたパイ生地に、こし餡が包まれていて、甘いのに爽やかな余韻があり、老若男女喜ばれます。飲み物も日本茶にもコーヒーにも合います」
と力説し始めた。リキだけに。この筋肉質のおっさんは見た目とは違って、甘党、それもかなりの過激派グループに所属しているんだろうな、糖尿病に気を付けてほしいな、と思った。
説明が終わるころ、私は生唾2回目をを飲み込んだ。
「グルメ話はもう十分です。それのいい感じの詰め合わせをギフト用に包んで買って来てもらえますか? 私はお金を手持ちしてないので。後で、父に請求してください」
私はリキにそう言って頼み、最寄りの紀州庵のお菓子を取り扱っている店舗に寄って、お菓子の詰め合わせを買わせた。リキに買いに走らせている間、シリウス学園に問い合わせをし、とある子供の住所を聞き出した。それをスマートフォンのマップで表示させてナビゲートモードにさせ、運転手のテリーに私のスマートフォンを手渡した。
「テリーさん、この住所の家に行ってちょうだい」
テリーは私が携帯電話を渡してくるとは思ってもいなかったようで、少し驚き、丁寧に携帯電話を受け取り、住所を確認していた。リキが買い出しから白いベンツに帰ってくると、アクセルを踏み込まれた白いベンツは私がマップで指定した住宅街へ進んでいった。
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