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お嬢様、それは倫理的に許されません

興味を持って読んでいただきありがとうございます

 私は金持ちだ。

 ぶっちゃけると、ヤバいくらいに金持ちだ。

 私がどんなにピザを頼みまくっても、毎日松茸ごはんを雇ったシェフに作らせても、私が食べるだけの牛さんを育てさせても、私の家の家計が財政難になることはない。

 どんな風に使用人を使おうと私を止めることはできない。気分で使用人人間ピラミッドをさせることもできた。

 その日も、私は使用人を使った遊びをしていた。

 アイスバケツチャレンジだ。

 とある病気の認知度を高めるため、そして寄付を募るために、頭からバケツで水を浴びるというものだ。

 私はアイスバケツチャレンジの本来の意図や目的なんて頭になく、使用人がずぶ濡れになって困るのが見たいから、社会貢献のためにアイスバケツチャレンジをしないかと言い始めた。

 使用人は全員拒否したいのが丸わかりの固まって歪になった笑顔を貼り付けて、お嬢様それは素晴らしいですね、と言って集まった。

 私以外全員が水を被るところをスマホの動画録画で収めて笑っていると、残っていたバケツに足を突っ込んでバランスを崩して転倒したため、後頭部を地面に直撃し、さらに使用人が持っていた冷水入りバケツに私の体がぶつかり、バケツが私の全身に冷水をぶち当てた。冷水をザブンと浴びたショックで私の心臓が一時止まった。

 このまま、まさに馬鹿のような人生の終わり方をしようとしていたのが、私こと桜小路(さくらこうじ)サクラだ。

 使用人が、路頭に迷う、親族の勤め先や会社が大変なことになる、という私を助けるためではない強い意志で私を助けた。

 でも、ほとんどの使用人が、私に出来ればこのまま永久に眠ってもらいたい、と思っていたことだろう。

 私自身が、私自身をこれほど平気でディスるくらい、自分自身が最低最悪の女であることを自覚していた。

 それを、特に自覚したのは、死にかけて病院の特別病室に運ばれて、体をしっかり支えるけれど癖になる寝心地を作り出す1000個を超えるコイル入りのマットレスとヨーロッパから輸入した水鳥の羽毛100パーセントの掛け布団に優しく包まれて、ややしばらく時間が経過したころだ。

 私は走馬灯を見ていた。

 気さくな父とおおらかな母の子供として生まれて、ごく普通の小学生、中学生、高校生として過ごすが、オタクな影な者の集まりでゲームをして過ごした。

 その後、大学を出てブラックな臭いの漂う会社で戦力として仕事を請け負い、歴戦の兵士みたいな顔つきで毎朝就社し、夜遅くに帰ってゲームをしたりやアニメを見ていた。

 そして、電車で暴漢に襲われ、一矢報い、33歳童貞この世を去る走馬灯だった。

 いや、走馬灯って、自分の人生のダイジェストを見るよね。他人のダイジェストっておかしいよね。

 私女だし。そもそも小学生だし。

 おい、走馬灯作ったやつでてこい!

 あ、走馬灯って自分が作るのか?

 そもそも私は、女だったのか?

 小学生のわけないだろ。

 あれ、なんで小学生なんだ?

 そういう感情が現れては消えて、新しい感情が発生し続けた。  

 私が意識を取り戻していることに気が付いた看護師さんが私に近づき、


「桜小路サクラさん、ここ病院なのわかりますか?」


と言ってきたので、私は慌てて


「診断書を発行してください! 上司に無断欠勤したことを怒られてしまいます! あと、私の携帯電話はありますか? 急いで上司に説明しなければ」


と言うと、看護師さんはお医者さんを呼び耳打ちをした。


「患者さん、かなり混乱しています。このまま精神科の専門医に来てもらった方がいいかもしれません」


 とても失礼なやつだな、と思った。でも、私がいったい誰なのかがわからなくなってきて、私は意識を失った。




 数日して、私は無事退院となり、病院を後にした。

 私は、桜一郎であり桜小路サクラである、というような状態ではあるが、記憶の量や経験を踏まえると、8割は桜一郎だろう。

 それにしても、この桜小路サクラは酷い。

 使用人を怒鳴りつけて、辞職をちらつかせて虐めて楽しんでみたり、小学校でも当然目についたやつは虐めておもちゃにしていた。もう最低だわ。これが転生というものなら、転生ガチャ失敗なんじゃね、て思うね。この子でこの後どうやって人生挽回するのよ、て心からそう思う。

 まあ仕方ない。なんだかんだで金持ちだからお金に困ることはないだろう。

 とりあえず、私は桜一郎であり、前世がどうとか、33歳の童貞がどうとか、上司に病休の申請をしなければならないとか、そういう話題は絶対にしないようにして、正常なふりを続けた。

 小学5年生でそんな話題をしていたら、迷わず精神科の先生がこんにちはだ。小学5年生のガワを被った33歳のおっさんだなんて異分子そのものだ。

 私は送迎用の運転手の運転で帰って来た。車は白色のベンツSクラスのセダン車両だった。

 個人的に絶対に駐車場で隣に止めたくない車両ナンバーワンだ。

 その車両を白人ハーフの細身のお兄さんが運転し、助手席にはマッチョな髭のおじさんが乗っている。

 細身のお兄さんは、テリーという名前でマッチョおじさんはリキという名前だ。苗字? このお嬢様が運転手や弾除け用の使い捨てボディガードと思っている人間の苗字まで覚えているわけない。

 しばらく車は街中を走行し閑静な住宅街に入った。一軒家が多いけれど、田舎の一軒家ではない。土地付き一戸建て億なる場所で、時々、歩いている人を見ればお上品な方が多い。

 その家々を通り過ぎると赤色のレンガの塀がしばらく続いた。5メートルくらいの高さの塀だ。どこかで見た気がするが思い出せない。でも、きっと余程重要な施設を囲っているか、とんでもなく頭のおかしいやつの家の塀に違いない。

 続いていた塀が、黒色の鉄製の門に代わると、私の乗車しているベンツの速度が遅くなっていく。門が自動で開き始め、ベンツは門のところで曲がり、門をくぐった。私は頭のおかしい家の子供だったようだ。


 目の前の家が、一軒家か、と聞かれたら、多分それは違う。

 お屋敷、館という言葉が似合いそうだ。高さは3階建てで、横は50メートルプールみたいな幅がある。少し前の私、バカ桜小路サクラの記憶を思い出すと、これ、一軒家のつもりなんだぜ。使用人を使って鬼ごっこやかくれんぼをしていたとか、頭いかれてる。ちなみに裏にはプールがあるとか、お金持ちあるあるみたいなことを平気でやらないでほしい。

 大豪邸である私の屋敷に通じる道は見栄えのためだけにコンクリートブロックを敷き詰められていて、道の端には木々が植えられている。木々の奥には丁寧に管理されている、低い木々を角々に切りそろえられ、芝生の広がる西洋風の庭が広がっていた。

 屋敷の前に止まる時には、大勢の使用人たちが大きな両開きの玄関ドアの前で立っていた。スーツ姿の男性や女性、メイド服を着た女性や、こぎれいな作業服を着た男性たちだ。きっと、退院して久しぶりに帰ってくる私のために、全ての業務の手を止めてお迎えのためにやって来たのだ。

 皆、ぎこちない笑顔だ。多分、そのまま死んでくれるか、もしくは病院の中から一生出れなければいいのに、と思っているに違いない。少なくとも、相手の立場で過去にしでかした私の黒歴史の紐をとけば、痛い程よくわかる。

 大きなマッチョな髭おじさんのリキがドアを開けて屋敷までエスコートして、私は屋敷の中に入らせようとした。私は使用人たちの前で立ち止まった。リキはどうしたんだろうか、という目を私に向けた。


「お出迎えありがとうございます」


 流石に何も言わずに、使用人の側を通り抜けるのは心苦しい。ねぎらいの言葉を立ち止まって使用人たちに伝えた。すると、使用人たち一様に、ぎこちない笑顔がさらに固まった気がした。

 とても恐れられているのは明かだ。

 アイスバケツチャレンジの件で、何か変な罰を与えようとしていると思われているに違いない。

 私はその場から離れ、屋敷の中に足を進めた。

 

 屋敷の中は、よく磨かれ、ワックスがけされたタイルや木製の床で、屋敷の至る所に高そうな壺や謎の西洋甲冑等の置物、壁にはくそ高そうな絵が飾られていた。自分の家のはずなのに落ち着かない。壁や床をちょっとこすっただけで大変な損害金でも発生しそうな感じがした。胸がドキドキし、少し指が震えた。

 私は自分の自室に付き、ベッドメイクされていたベッドに飛び込み、うつ伏せになって深呼吸した。

 落ち着くようで、ぶるっちまうね。

 自分の部屋であるのは覚えているが、他人の部屋に来たように感じる。

 部屋にはピンク色の多い装飾品にぬいぐるみ、高そうな木製の机に化粧台、一着一着が前世の月給に相応する衣類の詰まったクローゼット。

 ごく普通の前世を思い出せば、息が詰まるわ。

 

 化粧台の鏡の方を見ると丁度、私の頭が映っていた。

 ごくりと生唾を飲み込んだ。

 画面の中にしかいないピンク色の髪をした美少女がこっちを見ていた。猫のような大きく吊り目はエメラルドがはめ込まれたような緑色の瞳。現実では絶対に目すら合わせてくれない生き物だ。

 チラチラとピンク色の何かを気にはなっていたが、アニメや漫画みたいな、まっピンク色の髪の毛が腰まで届いていた。

 これ、地毛か?

 眉毛もピンク色だ。

 この狂った色合いやべえだろ。日本人離れしすぎだろ。

 いや、こんなお屋敷に住んでいるんだから倫理的にぶっ飛んだ思考をしていて、義務教育終わってない子供でもギンギンに髪を染めまくりであっても仕方ない。

 流石に下の毛までは染めてないだろうと、ベットから降りて、パンツの中を確認する。

 生えてないっすわ。小学5年生のまだ10歳であることを忘れていた。

 今の子供は成長早いとか言われているけど、流石にまだか。

 まつ毛を一本抜いたらやっぱりピンク色だった。流石にここは粘膜の側なので染められない。

 このピンク色は地毛なのだろう。

 陰部付近を確認する必要はなかった。

 最低? ヘンタイ?

 そんなこと、気にしていたら、33歳童貞という名誉ある称号は得られないぜよ。

 ガチャリと音を立てる音で振り返ると、メイド服を着た使用人が飲み物の入ったグラスをお盆に乗せて入って来た。私があからさま陰部を見るためにパンツを広げている姿を使用人が見て、お盆を落として、ガラス製品が割れる音がお屋敷に響き渡る。

 

「も、もももももうしわけありません!」


 眼鏡着用の使用人が慌てふためき、清掃をしようか、それよりガラスを回収するべきか、それよりも土下座でわびた方がいいのかパニックを起こしていた。

 まあ、ノックをし忘れたこの使用人が9割方悪い。

 しかし、使用人が慌てふためくのは、私が権力を使って使用人を虐める遊びをしていたからだ。

 つまり、今、彼女の頭の中では


『次は私が標的だ』


という言葉がこだましているに違いない。

 私は、桜小路サクラの虐める行為のことを当然好きではない。

 この使用人虐めで、使用人たちから腫物として扱われ、地域住民からもヤバいやつとして周知されているのだ。

 私が直接、そのように言われなくとも、噂ぐらいは聞こえてくる。

 きっと、このままでは、闇討ちを10回では収まりきらない数をやられるだろう。そんな死に方は嫌だな、と思うし、一部の性癖の歪んだ人たちが好む展開にされても嫌だ。

 それに、今回心臓が一度止まったのも、使用人虐めが発端だ。

 そもそも、過去の記憶と共に一般的な常識を思い出したなら、こんな馬鹿なことは二度とできない。


「次からはノックしてください。それより、私の体、倒れた時にケガとかしてませんか?」


 私は巧妙に陰毛の色チェックをしていたことがバレないように、小学高学年の女児が自分の体にできたかもしれない傷を探すふりをし始める。


「背中とかありますか?」


 私は使用人に背中を向けて服をたくし上げる。


「お、おお嬢様、それは倫理的にダメです」


 ポタポタと何かが後ろで垂れる音が聞こえて、振り向くと、だくだくと鼻血を出している使用人が鼻を片手で押さえていた。

 ちょ、おま、そういう性癖かよ!

 流石に33歳童貞の私でも、そうはならないぜ。まあ、10年分の桜小路サクラの記憶もあるわけで、自分自身が性欲の対象にはならないのだ。


「……とりあえず、ケガがないならいいです。それと、それだけ血が出るのは体調不良ではありませんか? ここの掃除は私がしますので、病院に行って見てもらってください」


 使用人の女性は唖然とした顔で鼻血を垂らし続けていた。

感想などありましたら記載していただけると助かります。

明日も投稿しましたら、月曜日に一度の更新になると思います。

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