表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/9

特異能力

 ローレンは騎士の制服を纏っている。

 眉がキリっと上がり、喋ると口中に牙が見える。


 獣人の本領発揮なのだろうか。金色の髪が逆立っている。


 だが。

コーニイには迷惑な介入だ。


「我が義妹となるコーニイを、他国へと連れ去ることは、俺が許さん!」


 彼の特異能力、『威嚇』だろうが、なんとも芝居がかった物言いだ。

 たまらずにコーニイはローレンに言う。


「連れ去るなんて、ヒダル伯に失礼です、ローレン様。領地を出るのを決めたのは、私自身ですから」


「ダメよ!」


 エイヌの鋭い声が飛んで来る。


「あなたのように、何の取柄も能力もない、中途半端な半獣人が、帝国なんかで生きていけるわけないでしょう。ねえ、お母様」


「え、ええ。エイヌが言うなら、そうだわね」

 

 エイヌと母との会話を聞き、ローレンはコーニイに手を差し出す。


「さあ、コーニイ。君はこの家で、優しい父上母上と、賢く美しい姉と、そして俺に囲まれて、幸せに生きていけば良い。おいで、コーニイ」


「いえ、仮令私が無能でも、生きていく道は自分で見つけます」


 それに、この家に残ったところで、コーニイに幸せが訪れるとはとても思えない。


 凛とした声を出し、ローレンに怯まないコーニイは、最早『可哀そうな』末っ子ではなかった。

 自分の将来を見据えて、生き方を決めた一人の女の子だ。

 コーニイの、その姿を見たアズボスは、早くなる鼓動を抑えられなかった。


「無理するなよ、コーニイ。ははあ、俺がエイヌと婚約したので、ショック受けておかしくなったんだな。一人前に嫉妬でもしたのか……。でも、お前がその気なら、たまには可愛がってやってもいいぜ」


 下卑た笑いを浮かべるローレンに、コーニイは不快になる。

 思わず声が出た。

 

 「はああ!!?? 何を言っているんですか」


 本当に、何を言っているんだろう、この男は。

 こんな男に憧れていたのかと思うと、過去の自分を殴りたくなるコーニイだった。


 ローレンの言動に、 カチンときたのは、アズボスも同じだった。


「ちょっと失礼じゃないですか! コーニイは、僕と、婚約したんですよ」


 コーニイを庇うように彼女の前に立ち、アズボスはローレンに厳しい視線を投げる。


「なんだと、坊主。婚約だあ? 生意気な口きいてんじゃねえ! 俺は誇り高き熊獣人の血を引く、王国の騎士だ。ガキは引っ込んでろ!」


 腰の剣に手を掛けて、ローレンは吼える。


「この親子、アナグマ獣人よ、ローレン」


 ひそひそとエイヌがローレンの耳元で囁く。


「なんだよ、地面の下に隠れ住む、アナグマ獣人か」


 あからさまに小馬鹿にするローレンを見て、心底コーニイは呆れた。

 これで騎士なのか。

 獣人同士は、互いを尊重する。

 別種であっても、馬鹿にするようなことはない。


 それまで成り行きを見守っていた、ガルフの目付きが変わる。


「アナグマを、あまり馬鹿にしない方が良い。ダスティ家の子息よ」


「何だと。アナグマと熊は別種の生き物だぞ。アナグマが俺ら陸の王者に勝てるのか?」


「やってみるかい? 君の剣がアナグマの体に一筋でも傷をつけたなら、コーニイ嬢は諦めよう」


 ガルフは何を言っているんだろう。

 ローレンは熊獣人の特異能力、『粉砕』も持っているのに。


「お父さん、僕がやるよ。コーニイを賭けての戦いなら、僕は、負けない!」


 ローレンはするりと、剣を抜く。

 そのまま雑草を刈り取るように、横から剣を振るう。


 ガチン!


 ローレンの剣を、アズボスは腕一本で止めた。

 アズボスの腕には、毛筋ほどの傷もついていなかったのである。


「な、なんで……」


 アナグマ獣人の腕で、剣を受け止められたことに、ローレンはショックを受けたようだった。


「我が息子の腕に、傷がついているのだろうか?」


 ガルフの問いかけに答えることが出来る者は、そこにはいなかった。

 立ち尽くすハイト家にそれぞれ挨拶して、ガルフとコーニイとアズボスは玄関へ向かった。

次回、幕間が入ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 傷がついたのは、お前のプライドだったな(`・ω・´)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ