決意
今回、やや短めです。
エイヌはコーニイの気迫に押されたのか、すぐに部屋から出て行った。
階下でエイヌの「お母様――」という声がする。
ああ、また母に言いつけに行ったのか。
母を連れてきて、母と一緒にコーニイを貶すのだろう。
それとも母は、怒鳴るのだろうか。
「いいじゃない、出て行きたいというなら、出ていかせれば」
コーニイにとっては、思いがけない母の言葉だった。
そうか。
そうなんだ。
やっぱり、この家で私は、いらない子どもなんだな。
なら、もう良いや。
コーニイの中に僅かに残っていた、母への慕情はこの瞬間に消えた。
「そうか、そんなことがあったんだ……」
翌日、コーニイは学校で、アズボスに家での出来事を話した。
「あのさ。コーニイは本当に、家を出るつもり?」
「うん。……行く宛てとか、何もないんだけど。でもあの家に、私の居場所はないから」
アズボスはコーニイの手をぎゅっと握る。
コーニイの胸が驚く。
「じゃあ。じゃあ、一緒に行かないか? お父さん、帝国の研究機関から招聘されたんだ。間もなく僕もお父さんと一緒に、この土地を離れる」
「え、アズ、帝国に行っちゃうの?」
アズボスが遠くへ行ってしまう……。
せっかく、仲良くなれたのに。
アズボスだけじゃない。
彼のお父上。優しくお料理上手なお父様とも……。
それに、遠い島から来たという、兎獣人のネオスとも……。
もう、会えなくなるのか……。
寂しいな。
もっと話をしたい。
もっと……。
コーニイはアズボスの手を握り返す。
アズボスが目を丸くする。
「一緒に行きたい。アズと一緒に行きたいよ! いえ、絶対行くわ。私」
コーニイの決意に、アズボスは力強く、何度も頷いた。
それからのことは、アズボスの父、ガルフ・ヒダルが請け負った。
「そうか。『行動』する気になったんだね、コーニイ」
ガルフはコーニイの頭をなでる。
心地良い。
「ではコーニイとアズが婚約するってことにして、一緒に帝国に行こう」
「「ええ!!」」
当然二人ともびっくりする。
「騎士爵を持つお宅のお嬢さんを、勝手に領地の外へ、連れ出すわけにはいかないだろう?」
コーニイはイチゴよりも赤い顔になる。
そんな、いきなり、婚約なんて……。
「そ、そうなんだ。……ぼ、僕は構わないけど、コーニイは嫌?」
「い、嫌じゃ……ないです」
七日後に、ガルフはアズボスを伴い、コーニイの邸を訪れた。
コーニイの両親に、「婚約」の話を出すと、二人は戸惑いながらも反対することはなかった。
ほっとしたコーニイはアズボスの顔を見る。
アズボスの瞳に、半分垂れ耳の少女が映っていた。
書類に両親からのサインをもらい、ガルフ親子がソファから立ち上がった、その時だった。
「その話、コーニイの婚約話。ちょっと待て!」
客間のドアを乱暴に開けたのは、エイヌの婚約者である、ローレンだ。
その後ろには、きつい目をしたエイヌがいた。
次回、コーニイは無事に、アズボスと旅立てるのだろうか。