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土中の光その2

 アズボスの土の家の廊下は、細く長く続いている。

 壁には所々、小さな灯りが点いていて、天井からは細長い筒が下がっている。


「この灯りは、鉱石の光なんだ。だから煤は出ない」


 アズボスは筒を一つ取り、コーニイに渡す。


「覗いてごらん。外が見える」


 コーニイがそっと覗くと、見覚えのある邸が目に映った。


「あ、ホントだ! 見える見える! え、これって、ウチ?」

「うん。だからコーニイが、外に出たの分かったんだ」


 アズボスは俯き、ぼそぼそ何か言っていた。

「べ、別に毎日、見ているわけじゃないから……」


 廊下の突き当りに木のドアが見えた。

 表札には『ネオス』と書いてある。


 アズボスがノックすると、「どうぞぉ」という返答。

 二人はドアを開けた。

 

 干し草の匂いがする。

 思わず、鼻をヒクヒクさせるコーニイだった。


 好きな匂い。落ち着く匂いである。


「こんばんは、ネオスさん。今日は僕のと、友だちを連れて来たよ」

「あらあら、嬉しいわ」


 部屋の真ん中には、真っ白な毛皮の上に、イチゴ模様のエプロンを着けた兎獣人がいた。

 白いお耳は後ろへ流れている。

 葡萄色の瞳が、キュルンとコーニイを見つめる。


「お仲間さんね。初めまして。ようこそ我が家へ」


「は、はじめまして、ネオス様。コーニイ・ハイトです」


 慌てて礼を執るコーニイの頬に、ネオスは自分の頬をくっつける。


「お仲間なのね、コーニイ。同族の匂いだわ」


 コーニイとネオスは互いを抱きしめた。

 


 ネオスは高齢だと、ガルフは言ったが、童女のような雰囲気を持っていた。

 丸いテーブルを囲んで、コーニイとアズボスはネオスの話を聞いた。


「遠い遠い島に住んでいたのよ。兎獣人はよく人間に狩られていたの。こちらの大陸は、人間と共存出来るって知り、なんとか島を抜け出したの」


「生まれ故郷を離れる時、悩んだりしなかったのですか?」


「ちょっぴりね」


 ネオスは片目を瞑ってみせる。

 

「悩んだけど、新しい場所、初めての大陸には夢があったから」


「夢……」


「そう。夢と希望は、行動力を作るもの」


 そうなのか。

 夢と希望。

 行動するには、それが必要なんだ。


「あなたは、片耳が垂れているのね」

「……はい。出来損ないの、兎獣人もどき、だそうです」


 コーニイは自嘲気味に言う。

 するとネオスは手で頭に乗った耳を触る。


 はらり。


「え!」


 ネオスの両耳が垂れて、肩についている。


「ネオスさん、その耳!」


「うふふ。垂れているでしょう? でも私は決して、出来損ないじゃないわよ」


 ネオスの悪戯っぽい笑顔に、コーニイは慌てて謝る。


「ご、ごめんなさい! 何か私、凄く失礼なこと言ってしまったみたい」


 ネオスは顔を振る。両耳もくるんと揺れる。


「いいのいいの。兎獣人の耳はピンと立っているのが良いって、ずっと言われているからね。でもねコーニイ。獣人の持つ特異能力って、奥が深いもの。

兎獣人の能力は、微かな音まで聞き分けられる超聴力とか、気配を探ることの出来る索敵とか言われているでしょう?」


 コーニイはコクコク頷く。


「じゃあ、その聴覚を阻害する垂れ耳さん、何の能力もないと思う?」


 コーニイはすぐに、答えられない。

 ずっと可哀そうな存在だと、言われ続けてきたから。


「あのね、私が普通の獣人より、ずっと長生き出来ているのも、垂れ耳だからなの」


「ええ!」


「だって、嫌な言葉や余分なことを聞かなくて済んでいるもの。その代わり、慎重になっている。だから索敵能力はなくても、危ない目にあわないわ。耳の代わりに目は良いから、いち早く見つけられるのよ。

罠も。敵対する者の影も」


 コーニイの瞳に光が宿る。


「じゃあ、垂れ耳は決して、可哀そうなものじゃない?」

「むしろ自慢しても良いのよ。特にコーニイ。あなたは兎獣人の超聴力を半分持っているわ。そして聞かなくても良いことには、垂れ耳でブロック出来るでしょう」


 コーニイの顔が、ぱあっと明るくなる。

 そうか。

 垂れ耳を卑下することも、疎ましく思うことも、必要ないんだ。


「そうだよ、君は凄いんだよ、コーニイ。僕はあれからクローバー畑を何度も眺めて、所々掘り返したりしてみたけど、四葉のクローバーは一つも見つからなかった。あ、掘り返した場所は、ちゃんと元通りにしたけどね」


「うふふ。あなたの特異能力は、ひょっとしたら、他の人には見えないものを、見つけられるってことかもしれないわね」


「あ、ありがとう! ありがとうございます」


 じんわりとコーニイの体の芯が、温かくなる。

 初めて、あるがままの自分を認めてもらった。

 それはコーニイにとって、涙が出そうなくらい、嬉しいことだった。




「また、いつでもいらっしゃい。私以外にも、ガルフの土の館でお世話になっている獣人はいるの。皆で一緒に、お茶でも飲みましょうね」


「はい! あ、そうだ」


 コーニイはポケットから小さな黒い石を出す。

 此処に来る前に、クローバー畑で見つけたものだ。


「御礼にお一つどうぞ。これ、この国では珍しい、光る石なんです。小さいけど」


「あらあ、若いコはそんなこと、気にしなくてもいいのに。でも、嬉しいわ。アズ、光る石ですって。あなた、探していなかったっけ?」


  ネオスが指先で摘まんで見せると、アズボスの顔色が変わる。


「え、な、なぜ。僕には全然見つからなかったのに。ねえコーニイ。これ、クローバー畑にあったの?」

「うん。たまに落ちているから」


 驚くアズボスに、コーニイもちょっとドキッとする。


「あのねコーニイ。これって多分、魔石だよ」

次回、コーニイは姉と対決するのか。

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― 新着の感想 ―
[一言] >べ、別に毎日、見ているわけじゃないから 下手したらピーピング・トムや( ´∀` )(ォィ でもって……魔石が、落ちてるですと(;゜Д゜)
[一言] >初めて、あるがままの自分を認めてもらった。 >それはコーニイにとって、涙が出そうなくらい、嬉しいことだった。 エエ話や( ˘ω˘ )
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