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土中の光その1

 コーニイの足元にぽっかりと開いた穴から、白い人影がゆらり立ち上がる。

 思わずコーニイは、ぴょこんと後ろへ跳ねた。


「僕だよ、コーニイ」


 知った声に目を瞠ると、穴から出てきたのはアズボスである。


「うわあ、びっくりしたよ、アズ」

「ゴメンゴメン。嚇かすつもり、なかったんだけど」


 アズボスは頭を掻く。

 その仕草はちょっと間が抜けていて、コーニイはくすっと笑う。


「でもアズ、どうして穴から出て来たの?」

「コーニイの姿が見えたから、その、出迎えに」

「出迎え?」

「せっかくだから、ウチに来てもらおうかと思って」


 出迎えが地面からって……。

 だいたいコーニイの姿を、アズボスはどこで見たのか。

 そしてこれから彼のお宅に行ったら、帰りは夜遅くなるかもしれない。


 でも……。

 姉とローレンが居座るあの家に、帰りたくはない。

 聞きたいことは色々あるが、とりあえずコーニイは、アズボスの誘いに乗った。


「あ、ありがとう。じゃあ、お願いします……あ、ちょっと待って」


 手ぶらで、よそ様のお宅を訪問するのは気が引けた。

 薄暮の中、コーニイはクローバー畑から、いくつかの手土産を拾いあげた。



「ではコーニイ嬢。こちらへどうぞ」


 恭しくコーニイの手を取るアズボスは、そのまま開いた穴に飛び込んだ。


 ええええええ!!!!

 あまりの衝撃に声も出ないコーニイは、目を閉じ、内心後悔していた。





 わずかな時間だったのだろうが、無限の回廊を辿ったようなコーニイだった。


「はい。着いたよ」


 恐る恐る目を開けると、そこはびっしりと本が並ぶ、こじんまりとした部屋であった。

 部屋の隅にはランプが灯り、どこからか良い匂いがする。

 切り倒した木を、そのまま使っているようなテーブルには、薄紫色の花が差してある。


 窓はない。


「ようこそ。わが家へ」


 部屋のドアが開き、鍋を持つ男性が入って来た。

 切れ長の黒い目と、白く長い鼻を持つ男性は、アズボスの父だろうか。

 コロンとした体型は、アズボスと異なる。


「初めましてお嬢さん。アズボスの父、ガルフです」


 慌ててコーニイも淑女の礼を執る。

 アズボスの父、ガルフの姿にコーニイは驚く。


 獣人だ。


 今まで、アズボスは人間族じゃないかと、コーニイは勝手に思っていた。

 外見に、獣人の特徴らしきものが、全くなかったからだ。

 でも考えてみれば、領内の学校は、基本的には獣人の子どもか、獣人と人間族との子どもしか通えないのだ。

 勿論、獣人だからと言って、コーニイに偏見はないが。


 何の獣人だろう。


「お座りなさい。お腹空いているでしょ? 一緒に食べましょう」

「お父さん、今日は何?」

「根菜スープと豆パンだよ」


 良かった。コーニイの好きな物だ。

 

「ウチはお母さんがいないから、お父さんがいる時は、こうして食事を作ってくれるんだ」


 誇らしそうに言うアズボスを、羨ましいとコーニイは思った。



「それで今日は、何の勉強していたのかな?」


 食事をしながらガルフが訊く。


「将来について考えようって授業だったよ」


「そうか。なかなか良いテーマだね。アズは将来について、どう考えているの?」


「僕は、冒険者になりたい」


 え?

 アズは冒険者になりたいの?


「ほお。それは何で?」


「お父さんは地面を調べて、あちこちの国に災害の予測を伝えているんでしょ? 僕は、誰も見たことのない鉱物や生き物を探して、みんなに教えたいと思うんだ。だから、冒険者になって、世界中を探検したい」


「ふむ。それは面白い考えだね、アズ。だけど、専門家になるには準備が必要だ。そのための勉強もしなければならないね」


「はい」

  

 獣人の父子とは、こんなに会話が弾むものなのだろうか。

 アズボスとガルフが特別ではないか。


 それとも、コーニイの家、ハイト家が偏っているのかもしれない。


 豆パンを食べながら、コーニイは二人の会話を聞いていた。

 ふいに、ガルフがコーニイの顔を見詰める。


「コーニイ嬢。浮かない顔をしているが、何かお困りのことでもあるのかな?」


 トクンと胸が鳴る。 

 そんなことが分かるのか。

 獣人ならではの、嗅覚だろうか。


「はあ。ええ、まあ」


 アズボスが心配顔で、コーニイを見る。


「あの……今日学校の先生が、『強く願わなければ、何も叶わない』って教えてくれて、あと、『行動するのみ』って。私の願ったことって、叶ったことがなくて、でも、どう行動すれば良いのか、全然分からないんです」


 喋りながらもコーニイは自問する。

 なぜ。

 なぜ初対面の獣人に、こんなことを話しているのだろう。


 じっくりと、ガルフはコーニイの話を聴いてくれた。

 時折、頷きながら。


「なるほど。それが憂いの原因かな?」


「そう、ですね。でも、多分、私が自分に、自信を持てないからだと思います」


「うん。そうみたいだ。では、どうすれば自信が持てると思う? コーニイ」


 コーニイは頭を振る。

 分からない。

 

「すぐに答えを出せなくても良いんだよ。そのために大人がいる。学校がある」

「大人が、周りの大人たちが信用できない場合は、どうしたら良いんでしょう……」


 ガルフはゆっくり瞬きをして、コーニイに言う。


「この家は何処にあるか分かるかな?」

「さあ……」


「土の中だ。我々アナグマ獣人の生活場所は土中だからね」


 あ、アナグマ獣人なんだ。

 だからアズボスは顔に土を付けて、クローバー畑にいたのか。


「この土中の家には、一緒に生活している別種の獣人がいるよ。皆、お互い助け合って、生きているんだ。そう、隣の部屋にいるのは、生粋の兎人だよ」


 コーニイの顔が上がる。


「もう高齢の兎獣人の女性だけど、話をしてみるかい?」


 コーニイは今まで、生粋の兎獣人に会ったことがない。

 思わず大きく頷き、ガルフに答えた。


「ぜひ、ぜひお会いしたいです!」

次回、コーニイは兎人のお婆さんに出会う。

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― 新着の感想 ―
[一言] 土中で共同生活……素敵や( ´∀` )
[一言] 土の中の家ってロマンある( ˘ω˘ )
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